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Sohatsu Eyes

定着させたいリスク評価

2008年08月05日 西村実



東京都の「豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議」の提言がまとまった。提言では、リスク評価モデルを用いて土壌汚染が人の健康に及ぼすリスクを定量的に評価した点が特筆に値する。おそらくわが国では初めての試みであろうが、土壌汚染の長期的な健康への影響を考えて対策を講じるうえで有益な示唆を与えてくれるものである。リスク評価は欧米では定着しており、現場ごとの浄化目標値の設定にも用いられている。

土壌および地下水中の有害物質については達成すべき基準が定められている。これは飲用により地下水に溶け出した有害物質が摂取されること、および土壌中に含まれる有害物質が土壌とともに直接人に摂取されることを想定している。そのため地下水を飲用に使わなければ汚染の拡散防止に努めれば良く、汚染土壌は直接人に触れないように舗装したり、地下水に有害物質が溶け出さないように周囲を囲ったりする対策が基本となっている。ところが実態は、ほとんどの場合で汚染土壌を掘削して清浄土と入れ替える対策が講じられている。これは汚染が残っていると土地の価値が下がるからであるが、その根底には地中に残った有害物質による健康被害に関する漠然とした不安があるからと考えられる。

地中の有害物質は水に溶けて移動する、土に付着して移動する、揮発して気体となって移動するという3つの経路をとるが、土壌汚染対策法では気体で移動する経路は考慮されていない。考え得るすべての経路についての健康影響が考慮されていない不十分さが、漠然とした不安につながっていると思われる。米国でもかつては土壌と地下水のみを評価の対象としていたが、近年では土壌ガスを評価対象に加えることが定着している。

土壌汚染ではリスクの不明確さが漠然とした不安の増大につながり、過剰ともいえる対策が講じられる傾向がある。その結果、汚染地の開発が進まないブラウンフィールドといった副次的な社会問題も持ち上がっている。そういった意味でもリスクをきちんと評価して対策を講じるといった考え方の定着が望まれる。

※eyesは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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