Sohatsu Eyes
社会的責任投資における機関投資家の動き
2008年07月08日 今本麻子
去る6月11日、日本生命保険相互会社がグループ会社である資産運用会社が設定するSRI(社会的責任投資)に100億円の投資を行うという発表を行いました。これは、日本のSRI業界においてちょっとしたビッグ・ニュースであったと言えます。なぜなら、日本のSRI市場は、個人投資家を対象とする公募型投資信託がその大部分を占め、年金・保険等を含む機関投資家による採用が極めて限定的な、世界でも特異なマーケットだからです。
例えば、欧州のSRIを牽引する英国では、保険、年金基金、宗教団体等の機関投資家がSRIの中心的な主体となっています。欧州では、公的年金運用において、環境や社会的問題の考慮やその方針の開示を義務付ける国もあります。また、米国においても、SRIのおよそ98%が公共団体を中心とする機関投資家向けの運用となっているという調査結果が公表されています(*1)。これに対して、日本のSRI市場では、機関投資家の運用として、一部、確定給付型の企業年金等の参入も見られますが、それ以外の情報はこれまでほとんど見られませんでした。このことは、日本のSRIの市場規模が欧米に比べ小さいことにも関係があると考えられます。
このような日本と欧米の違いについては、歴史的・文化的背景の違い、制度・政策の違い、金融資産構造の違い、SRIに対する認知度の違い等、様々な要因が考えられます。加えて、昨今、欧米ではESG(環境・社会・ガバナンス)問題と経済的パフォーマンスの関連性について様々な研究が行われており、ESG問題は経済的パフォーマンスに影響を及ぼすという考え方が徐々に市民権を得つつあります。このような考え方に基づき、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)が中心となり、年金基金等の機関投資家のファンドマネージャーがESG問題を考慮することは受託者責任に反しないというコンセンサス作りに動いています。こうした動きも、欧米における機関投資家によるSRI採用の動き、ひいてはSRIの市場規模拡大につながっていると考えられます。
日本でも現在、ESGと経済的パフォーマンスの関連性や受託者責任問題について議論が活発化しつつあります。SRI普及の為には、今後、このような議論を重ね、その拡大を阻む要因を一つ一つクリアしていくことが重要ですが、同時に投資家サイドでも、ESG問題の重要性を認識し、発想の転換を行っていく必要があると考えます。今回の大手保険会社によるSRIへの投資という決断が、日本の機関投資家に対する刺激となり、SRIの更なる普及への弾みとなることを願ってやみません。
*1:ソーシャルインベストメントフォーラム(SIF:Social Investment Forum)が2008年3月に発表した“2007 Report on Socially Responsible investing Trends in the United States”による。
※eyesは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。