■ オフィスワーカーの生産性は何故向上しないのか
はたらけど
はたらけど猶わが生活楽にならざり
ぢつと手を見る
石川啄木の有名な短歌である。今回はこの歌に重ねて、オフィスワーカーの生産性向上に思いを馳せてみたいと思う。
みなさんは常々仕事の効率化ということを気にされていることと思う。個人の、あるいは職場全体の生産性を高めるために、頭を悩ませている方も多いことと思われる。国際的に比較しても日本の労働生産性やビジネスの効率は低く、日本の競争力の阻害要因と言われている(注)。
OA化つまりオフィス作業を自動化(機械化)しようという取り組みはかなりの昔から推進されている。ワープロやパソコンの導入に代表される流れである。しかし、工場の自動化(FA化)の発展と比べるとオフィスのそれは進んでいないと言わざるを得ない。当然、大量生産で機械化が容易な工場と、日々イレギュラーな事象が発生するオフィスとでは、向き不向きというものもあろう。しかし、どんなにワープロソフトや表計算ソフトの導入が進んでも、PCの性能が上がっても、オフィスワーカーにとって楽になったという実感からは程遠いのが現状であろう。
特に昨今のITの進化ぶりと比較して、オフィス環境における生産性向上は遅々として進んでいないという印象である。
それは何故か。
それは、OA導入に伴って仕事のやり方を変えていかなかったというところに要因があろう。
例えば、手書きの紙の資料での報告から、ワープロを使ったきれいな資料での報告に変わったところで、資料作成の時間は同じか増えてしまっているだろう。旧来は紙資料の内容を口頭説明で補っていたが、その内容を紙資料に盛り込み、多機能化したアニメーション機能などでプレゼンテーションを華々しく見せることに時間を費やすようになったに過ぎない。ワープロを使うことで見栄えは良くなり紙に記された情報量は増えたが、資料がきれいに作りやすくなった分だけ作業量も増えたというわけだ。
なおかつ、近年は個人情報保護や情報セキュリティ対策、内部統制対応などにより、「効率化より管理強化」という流れがあることは否めない。
こうした、管理強化と効率性、といったコンフリクトを解消するためにも、IT(情報技術)の進展を前提とした抜本的なオフィスワークの変革が必要であると考えている。
■ オフィス生産性改革の5つのポイント
実際の仕事の見直しの際には、それぞれの業務の実態、実情に合わせて検討を重ねる必要がある。ここではオフィスワーカーの生産性向上という視点で、以下の5つの改革ポイントを挙げておきたい。
◇オフィス生産性改革のポイント
その1:OA環境を改善する
その2:ルール・手続きの無駄を省く
その3:報告・連絡・コミュニケーションの無駄を省く
その4:業務情報の偏在化を防ぐ
その5:会議の無駄を省く
今回はこのうち、見逃されがちなオフィスワーカーのOA環境の改善について取り上げてみたいと思う。
残り4つのポイントについては業務改革につながるやや硬い話となってしまうため、別の機会に取り上げたいと思う。
■ OA環境を改善する
恐らく1日のうちの大半をパソコンに向かって作業している人も多いだろう。そのパソコンの処理が遅かったり、あるいはトラブルで止まったりすることは、生産性を下げる要因である。パソコンでの作業の効率が1割でも上がればそれは大きな生産性向上の要因となりうる。
作業の効率を上げるためには、パソコンやサーバー、プリンターといった機器の性能や信頼性の向上も欠かせないが、より身近なキーボードとマウス、ディスプレイといったインターフェイス機器を見直すことで快適に効率よく仕事ができるようになることを見落としてはならない。
今回は筆者の経験から、投資対効果の高いインターフェイス関連機器を以下にランキングしてみた。
◇第3位:大画面ディスプレイ
最近は19インチ等の比較的大画面のディスプレイも2~3万円から購入可能である。この程度の価格であれば投資対効果は十分に見込める。
大画面ディスプレイの利点は、当たり前だがその広さにある。画面が小さい場合には、同時に画面に表示できるアプリケーションは1つくらいであったが、大画面になれば、例えば、ExcelとWordを見比べながら資料を作成するとか、Webブラウザを見ながらメールを打つ、といったことが可能になるのである。
15インチ等の小さな画面のディスプレイで同様のことをしようと思えば、いちいち画面を切り替えたり、あるいはわざわざ印刷して手元に置いて打ち込んだりといったことをしなくてはならないが、そうした面倒がなくなる。
さらには、大きな集計表など縦横のスクロールを駆使したりA3で印刷したりしていた資料も、画面上で一覧して確認できるようになる。
ディスプレイを複数用意するマルチモニター化も画面領域を広げる有効な手段ではあるが、マルチモニターに対応するためにグラフィックボードの増設が必要だったりと、より投資が必要になるので投資対効果という面では大画面ディスプレイに軍配が上がる。
◇第2位:マウス
昨今のソフトウェアはGUIつまり画面上での操作を基本に考えており、マウス操作の機会は多い。かつ、最近のマウスは多機能化しており、高速スクロールや横スクロールに加え、画面の切り替え等さまざまな操作が片手で行えるようになっている。このことだけでマウスとキーボードを手が行ったりきたりするような忙しさが軽減される。
またワイヤレスマウスであれば、コードの取り回しに係わるイライラもなくなり快適な操作環境となる。
マウスと並ぶ重要なインターフェイスとしてキーボードがある。作業効率としてはキーボードだけで操作できる方が効率は良いのだが、そのためにはショートカットキーを駆使することが必要となる。しかし、ショートカットキーの記憶は難しい上にショートカットキーの割り当てられていない操作も存在したりする。そのためにどうしてもマウスに頼る必要が出てきてしまう。
高機能なマウスに備わっている画面切り替えと高速スクロール、横スクロールといった機能は大画面ディスプレイと組み合わせることでより大きな効果をもたらす。大画面による表示範囲の拡大とマルチウィンドウ化に加え、マウスによる画面移動の容易さは何倍もの作業領域を手に入れた感覚を起こさせる。
高機能なマウスであっても数千円から1万円前後で済む投資である。それでこれだけの利点が得られるなら安いものである。
◇第1位:リストレストつきマウスパッド
マウスパッドにまでこだわる人は少ないかもしれない。私も正直こだわりはなかった。しかし使ってみてその快適性を実感すると手放せなくなってしまった。
まず、マウスがスムーズに反応するということ。光学式マウスだと場所によっては反応が鈍いことがあったり、ホイール式マウスであればうまく転がらなかったりとすることがない。マウスパッドなしでは如何にマウスがスムーズに反応していなかったか、そしてそれが小さなストレスとなっていたか、ということに使って初めて気づいた。
2点目の利点はマウスのトラブルが少なくなること。特にホイール式マウスにおいてだが、机上の細かなごみや埃を拾ってしまうことが少なくなり、格段にマウスのトラブルは減った。急いでいるときに限って、パソコンやプリンターなどのトラブルが発生するという何とかの法則を実感している身にとっては、1つのリスクが減ることは大きい。
最後の利点は気分の問題である。「マウスパッドならいつも使っている。展示会でもらったやつだけど。」という人は多いのではないか。無料で配られていることも多いのでなかなかわざわざ買おうという気にならない。しかし、どこかの会社のロゴの入っているマウスパッドでなく、落ち着いたデザインのマウスパッドを使用すると、気分が変わる。机全体がビジネスモードになっている印象を醸し仕事にも気が入る。気分的なものではあるが、私は重要な要素だと思っている。
そして何よりもマウスパッドは安い。せいぜい千円程度で済む投資である。リストレストが付いているタイプであれば腱鞘炎や肩こりも防ぐことができ、仕事の効率性と社員の健康との両方をケアできてこの値段なら投資対効果は高いと言える。
これらのOA環境の整備は経験してみないとわからない利点ではあるが、経験してしまうともう戻れない大きな効率化である(これを専門的な言葉でユーザーエクスペリエンスという)。
上述のランキングは多分に筆者の経験と好みによる面があるが、参考にしていただいてOA環境の改善を検討してみてはいかがだろうか。
■ オフィスの生産性改革に目を向けよう
生産性改革というと、制度やシステムが変わるような大仰な業務改革を想像されるかも知れない。しかし、そのような大々的な抜本的な改革を行うよりも前に、目の前のOA環境を整備することでも生産性の向上につなげることは出来るのである。
これまで真正面にオフィスの生産性向上に向き合ってこなかっただけに、実はちょっとしたことでもオフィスの生産性は上がる可能性がある。
1日5分の生産性向上が、1年間の全従業員分積みあがるとどれだけの効果につながるのかを想像してみていただきたい。工場では当たり前の継続的改善やQCは生産現場だけのものではなく、オフィスでもぜひ実践されるべきものであろう。これを機会に是非オフィスの生産性改革に目を向けていただければ幸いである。
以上
(注) 財団法人 社会経済生産性本部 「労働生産性の国際比較」、IMD 経営開発国際研究所「2007世界競争力年鑑」等にデータがある。