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コラム「研究員のココロ」

中小零細企業に対する与信判断の変化について

2007年07月30日 丸山武志


 大手行だけでなく地域金融機関においても、事業融資にスコアリングモデルを利用することが一般的となったが、財務説明力の弱い中小零細企業への融資は総じて厳しく、必要な借り手に事業資金が供給されにくい、といった声が聞かれる。財務データは金融機関における与信判断の重要な指標であることは間違いないが、では「財務状況の悪い会社には融資できない」ということになるのであろうか。

1.地域金融機関におけるスコアリング導入の経緯


 中小零細企業は、事業規模が小さいことから、その大半が間接金融に頼らざるを得ないが、金融取引ニーズは比較的単純であり同質的である。しかし、大企業と違い外部格付などの信用力評価の情報が整備されておらず、与信判断には多くの時間と手間がかかる。しかしながら、このようなカテゴリーへの対応の鍵は「ローコストオペレーション」であり、大企業・中堅企業取引のように人材を投入しても投資に見合うだけの成果は得にくい。銀行にとって「大量処理の効率化」「迅速化」「標準化」をいかに進めるかで収益力が大きく異なる。
 近年、大企業・中堅企業の資金調達が直接金融にシフトしてきたことから、大手行は事業融資の拡大先を大企業・中堅企業から中小零細企業に求めた。経験が少ないマーケットで大量の処理を必要としたことから、大手行はスコアリングモデルを利用し、財務スコアの比較的良い「優良な中小企業」の資金需要を広く・効率的に取り込み、事業融資を拡大してきた。中小零細企業との取引が大半を占める地域金融機関もこれに対抗する形で審査の標準化・ローコスト化を志向し、大手行に追随する形でスコアリングモデルの導入を進めてきている。スコアリングモデルを利用した融資手法の普及により、企業の資金需要に迅速に対応できるようになり、借り手の利便性は格段に改善している。

2.スコアリングモデルは自動審査ではない


 スコアリングモデルでは財務データから不良(デフォルト)率(=スコア)を算出するが、スコアは与信判断の一つの指標に過ぎず、決して自動審査を行うものではない。与信判断はスコアリングモデルによるスコアだけでなく、金融機関の融資戦略や定性的な評価、個別案件の要素(資金使途・返済条件・担保状況・取引メリット)などの総合的な判断により行われる。スコアリングモデル導入に際しては、最終の与信判断に至る人的審査のロジックをツールとして整備した意思決定システムを構築し、高度化していくことが重要である。スコアリングモデルと意思決定システムがセットされて初めて、審査の標準化と大量迅速な処理が可能になる。

3.スコアリングモデル活用における留意点


 すでに地域金融機関にもスコアリングモデルが普及しているが、有効に活用していくためには以下の2点に留意が必要である。
 第1は、融資後も継続的に融資先のフォローアップをすることである。与信判断力を高める上で、融資先への継続的なモニタリングは不可欠であり、財務データや定性情報等を随時収集し、与信判断に反映させることが重要である。財務データはある時点や期間の結果であり、企業の将来を予測するものではない。企業の経営状態を把握するために融資後も定期的に評価を行い、与信方針を見直していくべきであるが、スコアリングモデルを活用した融資において、継続的なフォローアップがされず、業況変化も把握できずにデフォルトとなるケースが散見される。
 第2は、融資先から効率的に財務情報・経営情報を収集できるよう工夫することである。中小零細企業の経営者は財務に弱く且つ財務の重要性を軽視する傾向があり、これが中小零細企業の財務説明力が弱い要因となっている。金融機関は適切な情報開示の重要性を繰り返し啓蒙し、借り手側も、説明力の高い財務情報・経営情報を開示する努力を積極的に行うべきである。適切な財務情報・経営情報の開示は、デフォルトリスクを軽減する大きな要素であり、借り手も融資がより受けやするなることから、双方にメリットが大きい。融資先の情報を効率的に入手するため、融資条件に定期的な財務状況・経営状況の報告義務を盛り込んでいるケースもある。

4.おわりに


 中小零細企業取引においてトランザクションバンキングに特化する大手行と違い、地域金融機関は営業エリアの制約上、ポートフォリオのバランスを確保しつつデフォルトリスクを金利に織り込み、事業融資を増加させることには限界がある。スコアリングモデルを利用して審査のローコストオペレーションを実現しながら、従来得意としてきた融資先へのきめ細かいフォローアップにより、適切な与信管理をしていくことが求められる。
 スコアリングモデルは融資取引効率化とリスク計量化の有効なツールである。地域金融機関がこのツールを駆使し、大手行と一線を画したきめの細かい対応により、積極的に地域の資金需要に応え、地域経済の健全な発展に貢献していくことを強く願う。


以上

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