コラム「研究員のココロ」
顧客のアイディアを活かした商品開発
~顧客参加型マーケティングの可能性~
2008年02月18日 下村 博史
1.商品開発に参加する顧客
企業が顧客ニーズを把握しその顧客ニーズに即して商品開発を行う。これが一般的な商品開発の流れである。しかし最近、顧客が企業の商品開発プロセスに参加し、企業は顧客と協力しながら商品開発を行うという事例が見られるようになってきた。顧客が出すアイディアを活かして、よりよい商品開発を行おうとする企業の試みである。
ここでは、自社の商品開発プロセスの中に、顧客を意図的に参加させようとする取り組みを「顧客参加型マーケティング」と呼び、その事例と意義について紹介する。
2.顧客のアイディアや創造力を活かす
「顧客参加型マーケティング」とは、企業の商品開発プロセスのどこかに顧客が参加できる「場」を作り、顧客が持つアイディアや創造力を活かす取り組みのことである。
もっとも典型的な事例は、インターネット上の「商品開発サイト」である(図1)。この「商品開発サイト」では、インターネットの掲示板に書き込まれる顧客のアイディアと、デザイナーによる商品企画、そしてメーカーとを結びつけて商品開発を行う。例えば、ある商品開発サイトでは、顧客から掲示板に書き込まれた多数の意見(図1の<1>)の中から、商品化の可能性の有るアイディアを選別し、デザイナーが実際に商品のデザインを行う(<2>)。掲示板に提案された商品のデザインに対して、他の顧客からも商品化を希望する意見が出されていく(<3>)。そして、商品化の希望が一定数に達すると、今度はメーカーに商品化の依頼がなされ(<4>)、現実のモノ作りが進行していく。
図1 顧客・デザイナー・メーカーが参加する商品開発サイト
この「商品開発サイト」には、顧客が主体的に参加することが前提となっている。それは、(1)顧客が持つ商品化アイディアを提供すること、(2)需要の有無を判定することで商品化の可否を意思決定する、という関わりである。顧客が企業の商品開発プロセスの中に、あたかも企業の一員であるかのようにして関わっていくのである。
最近ではいくつかの企業が、こうした「商品開発サイト」と提携し、このサイトを通じて自社のオリジナル商品を開発するという事例も見られるようになってきた。
3.顧客が参加することのメリット
従来、企業が行っていた商品開発プロセスに、あえて顧客を参加させることのメリットは何であろうか。
まず、第一に、企業に対する顧客のロイヤリティが向上することである。顧客から見れば、自らが興味を持つ商品の開発に関わることができるという、楽しさがある。良い企画であれば自らのアイディアが商品として具現化されるという、魅力ある体験をすることもできる。こうした商品開発に関わる一連の体験が、顧客の企業に対するロイヤリティを高めることにつながっていく。
また、第二に、企業だけでは思いもつかないアイディアを利用できる可能性があることである。多くのモノやサービスが氾濫する市場では、企業が新たな顧客ニーズを捉えることは容易ではない。しかし、顧客自らが商品化のアイディアを提案することで、企業はより確実な顧客ニーズを把握できるようになる。
第三に、顧客と顧客がお互いに意見を重ね合わせることでアイディアの創発効果を生むことである。企業がいくら精緻な市場調査を行ったとしても、それは企業が顧客との間で、一方通行のコミュニケーションをおこなっているに過ぎない。しかし、前述の「商品開発サイト」のように、多くの顧客が参加できる「場」が用意されると、顧客同士がコミュニケーションを始めるようになる。そうすることで、より斬新なアイディアが創造される可能性を秘めていることも、企業にとっては魅力である。
図2 顧客と顧客とのコミュニケーションを活性化する
4.顧客が参加できる「場」
それでは、企業が顧客のアイディアを活かすために何が重要なのだろうか。
これまで述べたように、顧客参加型マーケティングの本質は、顧客同士のコミュニケーションを活性化させ、それによって顧客が持つ隠された商品化への欲求やニーズを顕在化させようとすることにある。それは、おとなしく物言わぬ顧客の思考のスイッチを入れ、顧客の創造力を高めることにつながっていく。その本質を踏まえれば、企業にとってもっとも重要なことは、顧客同士がフランクに意見を出し合える「コミュニケーションの場」を設けることであろう。それは、インターネットにおける「場」であっても、リアルな人的なネットワークで構成される「場」でも構わない。それぞれの企業が持つ会員組織や顧客基盤を再点検し、「顧客同士のコミュニケーションの場」として再編成することを検討していただきたい。
マーケティングの教科書には、顧客と企業との双方向のコミュニケーションが大切だと書かれている。しかし、数多くの顧客達とコミュニケーションを取ることは現実には容易ではない。むしろ、本稿で紹介したような顧客が参加する「コミュニケーションの場」を用意し、その場で交わされる顧客同士の対話から商品開発のアイディアを探索していくというアプローチが有効なのではないだろうか。