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コラム「研究員のココロ」

経営者は物語を語れ!

2007年05月28日 手塚貞治


 経営者の役割とは何だろうか?いきなり大上段の問いかけに面食らわれる方も多いかもしれない。
 それに対する回答は、さまざまありえるだろう。ここでの私の回答は、「ステークホルダーとの対話」ということである。お客様、従業員、株主・投資家等あらゆるステークホルダーとの共存共栄のもとに企業は成り立っている。これはきれいごとでも何でもない。お客様の支持を得られない会社は業績が低迷するだろう。従業員の支持を得られない会社は組織のパフォーマンスが上がらないし、株主・投資家の支持を得られない会社は財務基盤が不安定になるはずだ。
 ステークホルダーとの対話を促進する方法は、「物語」を共有することだ。経営者は、彼らに対するストーリーテラーにならなければならない。認知科学者のマーク・ターナーによれば、「物語は将来を見通し、予測し、計画を立て、説明するための最も大切な方法である」とされる注1
 では、それぞれのステークホルダーに対して、物語はどのように関連するのだろうか。以下、順に説明していきたい。

1.対顧客

 21世紀の企業にとって、お客様にアピールする最大のポイントは「ブランド」である。特に消費財の場合、もはや技術や機能による差別化は不可能だ、などということは耳がたこになるほど聞かされている話だろう。ではブランドの本質とは何か?それは「物語」である。その商品の成り立ちや背景、企業の価値観などが統合された物語が、ブランドの本質である。
 コカコーラやハーレーダビッドソン等は「物語」にまで昇華した事例として有名だが、例えば最近の日本企業でも、シャープがアクオスを「美しい日本の液晶=亀山モデル」と位置づけ、自社ホームページ上で「亀山液晶物語」というストーリーを展開している注2。シャープが商品ブランドの物語性を重視していることが読み取れる。

2.対従業員

 従業員は、単にカネだけにつられて働いているのではない。「いわゆる成果主義」の弊害が叫ばれて久しいが、アメとムチだけでは長期的なモチベーションは期待できないことは明らかになった。従業員が1つの会社の中で長期的・継続的に働こうと思うためには、何らかの価値観や使命感が必要になる。青臭いようだが、結局はその部分に立ち返ってくるのは間違いないのである。
 その際によく言われるのが、経営者が「夢」を語ることの大切さである。しかし「夢」だけでは不十分だ。熱い夢を語るのはけっこうなことだが、何の根拠もない夢を語られても、従業員は困ってしまう。一歩進んで「物語」にまで進化させなければならない。単なる夢ではなく、そこに到達するまでの道筋が必要なのだ。戦略ほどロジカルでなくてもいいが、聞き手の腹にすっと落ちるような道筋がなければならない。つまり「物語」ということである。
 ベンチャーの創業社長などは、こうしたコミュニケーションを得意としているだろう。私の知っている経営者でも、このあたりに独特な強みをお持ちの方が多い。しかし伝統的な大企業でも、こうした物語の伝承は不可欠だ。米国では、3Mやマイクロソフトで、経営幹部にストーリーテリングの講座を受けさせている注3
 また、従業員同士の情報共有でも「物語」は威力を発揮する。NASAや世界銀行ではナレッジ・マネジメントにストーリーテリングを利用しているし、ゼロックスでは、社員同士で話を交わすことによって修理方法を学ぶことを知り、社員たちが学ぶ物語をデータベース化しているという注3

3.対株主・投資家

 株主・投資家に対する広報活動を「IR」という。IRこそ、経営者が「物語」を語る場である。IRにおいて、企業戦略を説明する資料をパワーポイント等のプレゼンテーション資料として作成することが多い。これを「コーポレートストーリー」と称するのは、まさにそれが「物語」であるからだ。物語として成立するということは、株主・投資家がその企業の戦略に納得できるということであり、投資行動に結びつくということである。
 投資家向け説明会の場では、必ずトップ自らの説明を求める声が多い。それというのも、詳細な数値よりも、その実行性を社長の物語展開力に求めているからだと言えよう。
 また昨今では、ホームページにて社長ブログを掲載する会社も増えている。社長が軽い口調でエッセイを公開することによって、親近感を感じさせてくれるというメリットがある。しかし例えば、GMOインターネットの場合、熊谷社長が業界分析・自社戦略の具体的説明まで行っている点で、単なるエッセイを超えたレベルにあり、直接的にIRを意識した内容と言えるだろう注4

 以上のように、経営者の物語展開力は、あらゆる局面で必須とされているのである。

(注1)
Mark Turner, The Literary Mind: The Origins of Thought and Language
, Oxford University Press, 1996
(注2)
シャープHP 「亀山液晶物語」 http://www.sharp.co.jp/kameyama-story/
(注3)
D.H.ピンク(2007)「左脳思考と右脳思考を融合させる」ハーバード・ビジネス・レビュー2007年4月号
(注4)
GMOインターネットHP
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