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コラム「研究員のココロ」

減益計画を考えてみませんか

2007年05月14日 森康一


 とある業界で、黒字を続けていたある企業が赤字に転落した。調べてみると、これはおそらく一過性の赤字ではなさそうだ。消費者の行動が変化してきているのがその背景にある。このまま商品を売り続ければ、年々、赤字が拡大するおそれがある。
 そこで、今の消費者、将来の消費者に向けて、商品を見直した。思いのほか、大きなコストダウンになったので、来年度は黒字にできそうだ。
しかし、この商品見直しは短期的にコストダウンになるものの、中長期的にはそれ以上の効果がない。この業界の共通課題は、商品にあるのではなく、その販売方法にあった。メーカーにとって楽な販売方法であるが、きわめて高い固定費用がかかる販売方法でもある。
 そこでこの機会に、販売方法を切り替えようと考えた。業界の慣習であるこの販売方法を転換するには、大きな投資が必要になる。それでも中長期的にはプラスになるだろう。
 これを実行すると、来年度も赤字になる。しかしこれは、意味のある赤字ではないだろうか。商品見直しで、少し黒字になる。一方、販売方法見直しで、大きな赤字になる。それぞれに時間軸、リスク/リターンの度合いなどが大きく異なっている。そのような認識のもと、従業員や関係者にも十分に説明可能な、意味のある赤字であると考えた。
 しかし、この企業の経営者は、結局、「企業全体としての赤字」を嫌って、「商品見直しのみで黒字転換」という路線を選んだ。販売方法はこれまでどおりである。全社で黒字になれば、従業員や関係者がひとまず安心するというもの事実。これはこれで、一つの選択肢ではある。
ただし、まわりを見渡すと、あたらしい販売方法を採用した企業の動きが活発になってきている。数年後、どのような競争環境になっているのだろうか。そのとき、もはや商品の大幅コストダウンの余地は残っていないだろう…。

 売上面での成長を追い続ける企業はまだまだあるが、以前ほど多くはなく、一方で「売上ではなく利益重視」と考える企業はずいぶん増えたように感じる。これは「増益であるならば、減収となってもよい」という考え方が増えたということであろう。
 ここで、あえて減益計画を考えてみてはどうだろうか。例えば、前年割れ、成長鈍化、利益率低下など、減益のあらわれ方にはさまざまな形がある。
この「減益」を言い換えれば、「従来以上に資金を使うとすればどう使うか」ということになるだろう。さきほどの例のように、業界慣習を変えることに使うこともできる。人件費を増やすこともできるし、その増やし方にもいろいろな方法がある。商品やサービスに、よりコストをかけることもできる。
 そしてそれらの結果、利益は従来水準・期待水準よりも減少する。これは経営上の大問題ということになりがちだが、果たしてそうなのか。意味のある減益であれば、説明可能であり、かつ経営上のプラス効果も大きいはず。また減益というショックは、経営者と従業員・関係者とのコミュニケーションのよい機会にもなりえる。

 別のある企業では、株主からの圧力のもとで、増益方針をとって、実際に増益を果たした。経営者は一安心したが、株主はそれで満足しなかった。その増益を織り込み済みとして、さらなる増益を求めてきている。経営者は、事業永続のために、今ここであえて足踏みをすべきと考え、成長鈍化の計画を組みたいと思っている。上場企業であるがゆえにそれが許されないのであれば、上場の是非も含めて、マネジメントのあり方を再考すべきとも経営者は考えている…。

 常に利益追求圧力を強く受け上場企業の中には、なんらかの形で減益計画を考えてみたいという企業が案外多いのではないだろうか。これは、自社のあり方と経営を見つめ直すよい機会でもあるだろう。
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