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コラム「研究員のココロ」

新規事業のテーマ設定では、新規事業によって何を新たに学習すべきかを考えよ

2007年04月23日 時吉康範


 筆者は、新規事業の成功要因はヒトに尽きる、と言い続けており、クライアントが選抜した新規事業開発メンバーとの、「共創型新規事業・新商品開発コンサルティング」を提唱している。

 このスタイルは、これまでの筆者のコンサルティングにおける成功事例と失敗事例の積み重ねから、新規事業開発や新商品開発といった課題では、コンサルタントの提案をそのまま実行すれば効果が上がる可能性が高いと思われる業務改革系の課題とは大きく異なり、クライアントに事業化・商品化を進める人材がいること、かつ、人材がいるだけではなくその人材自らが新規事業テーマや新商品テーマを提案し、事業化・商品化までの戦略を考え抜き、実行に邁進するようにならなければ、結局は、実質上何もしないし、成功もしない、との信念に基づいている。

 この信念は、日本総研のホームページにおいて、コラムの形で情報発信をしているので、興味のある方は立ち寄ってみて欲しい。

 今回述べるのは、「とはいえ、新規事業テーマの提案段階において、筆者は、クライアントのメンバーに主要な業務を任せているわけではない」という話である。


 イメージを持っていただくために、対象になるプロジェクトをざっと話すと、最近、新規事業のテーマを提案して欲しいという依頼が増えており、その都度、クライアントにとっての最適解を探し求めている。
クライアントは、年商数百億円規模の企業であれば企業そのもの、年商数千億円以上であれば、事業部もしくは部単位になることが多く、体制は、当然、共創型新規事業開発のスタイルによるものであり、期間は、たいていの場合全体で4ヶ月、うち、最初の2ヶ月は、主にデスクリサーチに基づくアイディア出し、別な言い方をすると、新規事業テーマの仮説作成、に費やすことになる。

 新規事業テーマの提案の仕事は、曲者である。
 曲者の理由は簡単で、本来「何でもアリ」だからである。化学素材メーカーが、バブル期前後に新規事業としてドーナツ屋やコンタクトレンズ屋に手を出したようなことは、そのこと自体は何らおかしくはない。デバイスメーカーがたこ焼きチェーンを始めてもよいと思う。単に失敗した、失敗するだけのことである。
 新規事業の成功要因は本業との距離の近さである。上記の共創型コンサルティングに行き着いたのは、その距離を測るのは「社内の人材(マネジメントの人材も当然含む)の納得感」であるとの考えによるものである。実際は距離の問題だけでもなく、クライアントのメンバーが、マネジメントの納得感が得られていない新規事業テーマを推進し続けることはそうそう簡単なことではなく、残念ながら、まず途中で、マネジメントからの執拗な突っ込みに疲弊して挫折してしまうことも多い。(上記のコラムでは、それでも信念バカネットワークが重要で、100回同じことを言い続けてみろ、と論じているが。)

 さて、この、新規事業の成功のために必要な、社内人材からの納得感を得るためには、間違いなく、「複合的な視点」から新規事業テーマを考えることが求められる。
 「複合的な視点」が求められるがゆえに、プロジェクトの期間中は、いろいろなことをやるのだが、最初の1ヶ月に確実にやることは次のようなことである。

 1)新規事業テーマに活用可能な顧客および技術資産の設定
 2)クライアントのメンバーによる新規事業テーマのアイディア出し
 3)社内の事業アイディアの棚卸あるいは公募

 1)は簡単に言えば、強みの探索である。本業の強みを深堀することによって、新規事業にも活用できるであろう定点を作ることが目的であり、「この視点から定点があると」(つまり、あることが意外に少ないのではあるが)そのあとの思考がまずはラクになる。

 2)はそのレベルにおいて、初期段階においては実はあまり期待していない。これがそのまま使えるようであれば、別に筆者のような外部の人間にコンサルティングの依頼をする必要がないはずだと認識している。それでもやってもらう理由は、クライアントのメンバーがどんなことに興味があるのかを筆者が把握するため、および、メンバーが筆者とのやり取りを通じて新規事業開発ではどのような考え方をすればよいのかを自分自身でよく考えてみることによって、のちの数ヶ月に必要な思考パターンを身につけるためである。失礼な言い方をすれば、新規事業を真剣に考えてこなかった自分自身の、思考スキルの現在の限界を痛感させるため、である。

 3)は1)と同様に、定点を探すための作業である。新規事業のアイディアそのものは、たいていは思いつきレベルであり、これもそのままでは使えない。それでもやってもらう理由は、なぜ社内の人材がそのようなアイディアを発想することになったのかを累積して考えてみると、その企業の人材像や問題意識が見えてくるからである。もう一つの、直接的な理由は、具体的なアイディアを抽象化してみることによって、「新商品の」定点として使えることを期待しているからである。改めて言うと、M&Aなどの飛び道具を使わない場合において、新規事業は新商品の集合体である。その意味で商品一つ一つは重要なのだが、また、中小企業では商品=事業なのだが、商品の視点を抽象化・集積化しなければ、いつまで経っても事業にはならない。そこで、社内アイディア公募の内容であるが、新規事業のアイディアを募集しているにもかかわらず、まず99%は商品レベルのアイディアである。これは仕方がないことなのであることを、公募制度を実施する主体者は強烈に意識しておく必要がある。

 ここまでの段階で、望ましくは、定点とする資産、特に対象とする顧客の集合体と活用する技術資産が特定できている状態になっていることを期待している。
 次に、対象とする顧客の(集合体の)経営課題を、各社の有価証券報告書やプレスリリース、新聞・専門書誌等を洗いざらい読み、分析・解釈して、顧客が今後どのようなことをやりたいのかを、総論レベルの仮説ではあるが、明確にしていく。筆者は、コミュニケーションを重視しているので、想定顧客からの一次情報を解釈することを極めて重要であると認識しているのだが、一次情報を取るにしたって、顧客のことをきちんと理解していないと、有意義な会話にはならない。とはいえ、今のインターネットで獲得できる情報は侮れない。網羅的なリサーチや解釈は難しいにしろ、これくらいの作業は、クライアントでも当たり前にこなしておいてもらいたいとは思う。一方、机に座ってリサーチをして情報をまとめるだけならばアルバイトでもよっぽどいい仕事ができるので、考えない・動かないコンサルタントには、それで金をもらえる仕事をした気にならないで欲しいものだ。

 顧客の経営課題と活用する技術資産・・複合系としてはまだ足りない。
 ここで、新規事業の定義を思い起こして欲しい。新規事業とは、「企業が新たに学習する必要があることが存在する事業」である。
 ということは、活用する技術資産だけではなく、つまり、今あるものを活用するだけではなく、新たに何を学習するかを定義することは、新規事業の定義において非常に重要と考える。
 メーカーであれば、自社の今後の技術ロードマップがきちんとできていれば、よく参照することなのだと思う。似たような視点としては、経営理念や経営方針との整合性を取ることがあり参照すべき内容であるが、えてして経営理念や方針は精神論あるいは一般論であることが多く、新規事業のテーマ提案に活用するための具体的な項目に落とすことが難しい。
 新たに何を学習するかを定義するためには、事業部や部に限らず、企業として今後獲得していくべき、獲得したい技術を明確にすることが必要になる。

 今、目の前にあるものに固執せずに、定量的な戦略目標以外に、「企業として、新規事業によって何を実現すべきか、実現したいのか」を視点のひとつとして盛り込むことによって、より納得感のある新規事業テーマの設定に近づくものを考える。これは、クライアントの人材との共創型新規事業開発を提唱する筆者ではあるが、クライアントがどのような企業なのか、本業はどのようなものなのかをよく理解したうえで、筆者が考えるべき課題なのだと思っている。
 なお、コンサルタントがみなさんに、「新規事業によって何を実現すべきか」と聞いてきたら、「それを設定するのはお前の仕事だ」と思っておいてよい。「新規事業によって何を実現したいのか」は考えてみたらよいと思う。

 実は新規事業テーマの提案のためには、まだまだ考慮すべき複合系の要素がある。特に、コンサルタントとしては、クライアントの言っていることに迎合して、単に情報を編集することに終始することなく、自らの信じる提案を織り込んでいくことが必要不可欠である(コンサルタントは、「で、どうすればいいの?」に応えることが金銭の対価である)。この場においては、クライアントごとの個別解であることも多く、別途、上記の連載中のコラムにて論じていくこととしようと思う。

以 上

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