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バイオマスの古典的利用

2007年09月11日 永嶋 英明



バイオマスのエネルギー活用に際しては、発生源からの収集、エネルギーへの転換、需要家までの輸送の供給体制などが化石燃料に比べて遅れており、結果としてコスト面で割高の原因となっている。コスト削減のために様々な技術投資が行われている一方で、なんらかのインセンティブを設定して地域の住民の協力を仰ぎ、一部のプロセスのコストを削減しようとする試みもあるが、ただしこのインセンティブを適切に設定しない限り、かえってコスト高となる危険性も否定できない。

日本は世界でも有数の木質バイオマスに恵まれた国である。しかし手入れ不足のために山林では林地残材や間伐材が処理されず、その有効利用は進んでいない。政府は市町村の間伐事業に多額の補助金を投入し、山林の保全と間伐材の有効利用を推奨してきたが、技術者の不足や費用負担のために事業の拡大は困難である。

最近になって、バイオマス資源を継続的に活用していくために、地域ぐるみの取り組みを強化している自治体が現れてきた。徳島県の上勝町においては、木質バイオマスを燃料とした公共の温浴施設がある。燃料の大半は業務用に集められた木質バイオマス燃料だが、一部は町民が山に入って集めてきた林地残材である。林地残材は公民館に集荷され、協力した町民は温浴施設を利用できる地域通貨を受け取っている。このモデルにより集荷に伴う不便が町全体の共同負担になるシステムができている。

このモデルでは、対価として支払われる地域通貨が温浴施設の利用に還元されている点が重要である。稼働率に関わらず一定の燃料を消費する温浴施設については、地域通貨として割引サービスを提供しても実質的な負担にならない。むしろ利用人数が増えることで、温浴施設内での飲食などからの収益を期待できる。実際に林地残材を集めている町民にとって、この仕組みが分かりやすいことから、それが協力者を増やす理由の一つにもなっている。地域通貨を万能のインセンティブとは考えず、シンプルなモデルに落とし込み、システムを維持する負担を軽減した点が興味深い。

バイオマスエネルギーの活用にあたっては、いかに化石燃料の価格高騰が追い風になっても、厳しい採算性がつきまとう。その普及のために、単純に利用者に不便を強いたり、あるいはコストとして積み上げる手法は長続きしない。不便さを共同で受け入れ、システムを維持していくためには、地域の協力という視点が今後はいっそう重要になってくるだろう。

※eyesは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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