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コラム「研究員のココロ」

新商品開発における「差別化」を問い直す
~主流の「逆」から商機を探ろう~

2007年03月12日 紀伊信之


「逆」「反対」への注目が個性を生む

 以前、あるファッションデザイナーが毎年のコレクションのテーマを決める際に、こんなやり方をしていると聞いたことがあります。まずはノートのページの片方に世の中の流行をキーワードなどで書き出していく。次に、反対側に、その流行のキーワードの「反対」の言葉を書いていく。それが書けたら、はじめに書いた「流行側」はビリビリと破いて捨ててしまう。そして残った「反対側」のキーワードを眺めながら、コレクションのテーマを考える、というのです。彼の狙いは、「流行の反対」に目線を向けることで、既に顕在化している流行とは一線を画した、自分ならでの「個性」を追求することにあるのではないかと思います。
 この、流行あるいは主流の「逆」「反対」に着目するというやり方は、企業の新商品や新サービスの開発にも応用できる考え方・発想法ではないでしょうか。
 貴社で実施されている新商品開発会議の場を思い起こしてください。おそらく、ほとんどのアイデアは次の2つのタイプに集約されるはずです。

他社が作り上げた土俵での戦いに終わりはない

 一つは既に売れている他社の商品を改善・改良したものです。「他社の商品に比べて良い素材がたくさん入っている」「他社よりも小さい」「Aという機能が他のどの製品よりも優れている」といった類のアイデアです。仮に「改善型の商品アイデア」と呼んでおきましょう。実際に開発され、店頭に並ぶのも、多くはこのタイプの商品です。これらは「ある程度の期間は」そこそこの売上を上げられるかもしれません。今まさに主流となっている市場のニーズを満たすものだからです。「ある程度の期間は」という断りを入れたのは、自社によほどの技術的な強みや他社にない素材の調達ルートでもない限り、早晩、他社がそれ上回る商品を投入してくることが目に見えているからです。すなわち、この種の商品を出し続けることは、他社(特にリーダー企業)が既に作り上げた土俵での終わりのない競争レースへの参加を意味します。
 また、「改善型の商品アイデア」の限界として、価格競争から抜け出ることができない、という問題もあります。常に比較対象が存在するからです。

個性的であるために奇抜である必要はない

 もう一つのタイプは、世の中にないもの、他社がそうそう手を付けないような奇抜なアイデアです。例えば、先日テレビのあるバラエティ番組で「カレー入り大福」を試作していましたが、これなども奇抜なアイデアの一つでしょう。ゼロから新しいまったく新しい商品アイデアをひねり出そうとするとき、こういったタイプのアイデアが出る傾向にあります。これらは、確かにこれまで世の中になかったものという意味での差別化は達成されているかもしれませんが、多くの市場のニーズを満たすもの=売れるものにできるかは疑問です。「個性的」であることと、「奇抜」であることは似て非なるものです。やはり「なさそうでなかったもの」はそもそも市場のニーズが小さいのであり、一部の「マニア」や「通」にしか受けない可能性が大だ、と考えた方がいいでしょう。

第3の道を探そう 糸口は市場の主流・トレンドの「逆」

 差別化とは元々、「他社と違うことをすること」です。既に売れている商品を改善した商品は、後発であるがゆえに、先発者より優れた商品を作ることが難しい割に、その優位性を顧客に認めてもらうことに困難が伴います。これが「改善型の商品アイデア」の限界です。一方、「他社とは違うこと」は、「ここが違う」ということだけを主張すればいいので、顧客にとってもその違いは理解がしやすいかもしれません。しかし、他社とどこに違いを見出すかという点や、違いの持たせ方を間違うと、市場のニーズとずれてしまい、大きな成功は望めません。「奇抜型」のアイデアはこのリスクと常に隣り合わせです。
 言うまでもなく、理想は第3の道、すなわち、今はまだ世の中になく、かつ、一定の規模の市場のニーズを満たす、「ありそうでなかった商品」です。そんな商品をいち早く開発できれば、新たなカテゴリーの代名詞となり、価格競争も回避でき、先発者として比較的長期に渡って愛用者を獲得することも可能になります。
では、どのようにすれば、既にある商品と明確な違いを持ち、一定の市場のニーズを捉えた商品が考えられるのでしょうか。そんなものを簡単に考えられるなら苦労はしない、というのが実際に新しい商品を企画しておられる方の本音でしょう。それこそ、新たなお客様のニーズを満たす商品や差別化の切り口を考えるのに、あらゆる手をつくしている、とおっしゃるかもしれません。
 しかし、今まで新商品のアイデアを考える際に、意識して次のような手順・プロセスを行っていないならば、一度、お試しいただくことをおススメします。それが、冒頭にあげた「市場の主流・トレンドの逆を行く」という発想法です。

他社の強みや特徴を因数分解する

 試しに、他社の特徴やその商品カテゴリーで常識と考えられていることを「因数分解」して書き出してみてください。このときのポイントは「弱み」や「問題」ではなく、「強み」「良い点」を含めて書き出すことにあります。例えば缶コーヒーなら「男性サラリーマンや長距離トラックの運転者がターゲット」、「キリマンジャロ産など豆へのこだわり」、「焙煎したコーヒーに近い味わい」、「標準サイズは190ml」、「黒っぽい容器デザイン」、「活力を想起させるネーミング」・・・といったように様々な特徴があげられるでしょう。ターゲット、機能、使用シーン、デザイン、パッケージなど、できるだけ幅広い視点で因数分解することが重要です。ここで「いかにもこれは業界の悪習だ」とか「ここは明らかに他社の弱みだ」ということばかりを書き出すと先述の「改善型」のアイデアに留まってしまいます。

いったん常識を忘れて、「逆」を考える

 思いつく限り、今の市場の主流・常識を書き出したら、今度はその逆のキーワードを考えてみるのです。現在の主流が例えば「小さい」ことにあるなら、「大きい」こと、「早く済ませられる」ことにあるなら、逆に「ゆったりとしている」ことといった、具合です。ターゲットやデザインなど、「逆」や「反対」が考えにくいものは、中身を大きく変えることでも構いません。例えば、サントリーの「DAKARA」は従来のスポーツドリンクのイメージカラーである青ではなく、あえて「薬」「看護婦」「保健室」といったイメージの強い白と赤をテーマカラーにすることで、ライバルとの違いを強調しています。いずれにせよ、一度、業界やカテゴリーの常識を忘れて(横において)、「こんな特徴の商品があってもよいのでは」と自由に発想することが重要です。

意味のある「逆バリ」ポイントを見極める

 書き出してみてどうでしょうか。おそらくここまでの段階では、キーワードが羅列されているだけで、新商品のアイデアと呼べるものには、程遠いものでしょう。しかし、何もない白紙の段階から考えるよりも、「考えるための材料」はかなり出揃ったはずです。書き出した「逆」のキーワードこそ、他社(特にリーダー企業)がまだ手を付けていない差別化の切り口の候補だからです。あとはこれをどう料理するかが問題です。具体的には、逆をはることで新たな市場を作り出せるポイントを見極め、そのポイントを軸に優れた商品のコンセプトにまで練り上げなくてはなりません。この点が商品企画担当者のマーケティングスキルの見せ所です。

 第一の課題は、「逆をはるべきポイントを見極めること」です。どんなポイントで逆をはることが、潜在的な市場のニーズを捉えることにつながるかを見極めなければなりません。「逆をはった」結果、そこにお客様のニーズが存在しなければ、市場に受け入れられずに終ってしまいます。このとき、逆にした要素(キーワード)のうち、他の業界やカテゴリーで主流となっているものに注目してみるのも一つの方法です。他のカテゴリーで主流となっていることは、潜在的には貴社のカテゴリーでも主流になる可能性は大いに考えられるはずです。また「今の業界の常識が、何故そうなっているか」を考えることも手がかりの一つです。常識となっている原因が、顧客側のニーズによるものではなく、供給者側の都合にある場合、その点でイノベーションを起こすことができれば、十分な差別化のポイントになります。通常、靴下といえば、120~125度に曲がっているのが普通ですが、これは実は「編み機による大量生産にこの角度が適している」という供給者側の都合に端を発するものです。この点に注目した無印良品は、直角に編める生産体制を模索した末、人間の体と同じ直角に編まれていてより足にフィットする「足なり直角靴下」という商品を発売しました。
 逆をはるべきポイントが見えれば、商品のアイデアに関して、ある程度輪郭がはっきりしてくるはずです。あとは、誰の、どんなニーズを、どのように満たす商品なのかが明確になれば、具体的な商品のコンセプトにかなり近付くことになるでしょう。そのために、逆をはるべきポイントを軸に、バラバラの要素・キーワードをつなぎあわせて、整合性のとれた一つのストーリーに練り上げる必要があります。

 具体的にイメージしていただくために、実際の例で説明しましょう。このところ、その商品カテゴリーの常識・主流の逆をついて、ヒットする商品がいくつか出てきています。典型は、豆腐という成熟カテゴリーで、高価格にも関わらず爆発的なヒットとなった「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」です。表のように、あらゆる面で業界の常識の「逆をはった」商品です。しかし、商品の中身自体は「大豆」「水」「にがり」のみで作られた、豆腐として決して奇をてらった商品ではないことも見逃せません。

表 「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」の「逆バリ」

参考)伊藤信吾「風に吹かれて豆腐屋ジョニー―実録男前豆腐店ストーリー」講談社



 市場の競争の焦点が「モノからコト」に移り、商品レベルでの差別化は難しくなった、といわれています。この流れは事実かもしれませんが、そこで思考停止に陥ってはいけません。本当に差別化の切り口を探しつくしたといえるか、市場の主流や常識の「逆」を考えることからはじめてみてはどうでしょうか。
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