Sohatsu Eyes
汚染地再利用の促進
2007年05月29日 西村実
土壌汚染対策法が施行されて4年が経過した。環境省の試算によれば、浄化費用がかさむなどの理由で放置される可能性のある汚染地は、全国で約2.8万ヘクタールにのぼっており、これは東京23区の面積の約半分に相当する。これらの土地資産規模は10.8兆円となっている。工場跡地などで土壌汚染が存在する、あるいは存在が懸念されているにもかかわらず、その調査や浄化対策が行われないまま放置され、再利用が進まず再開発の妨げになる土地をブラウンフィールドと呼ぶ。土壌汚染問題への取り組みの進んだ米国ではすでに10年前から社会問題化している。わが国でも法律の施行により土壌汚染への関心が高まると同様の問題が生じる可能性を懸念する声が上がっていたが、現実の問題となってきた。
法律では、人の健康被害を防止するという観点から比較的安価な費用で実施可能な「汚染地の管理」と高額な費用のかかる「汚染の除去」という2通りの措置を定めている。ところが汚染地の管理では、措置後でも指定区域の指定が残ることによる制約があるため土地の価値の毀損が懸念され、再開発のための土地売買では、高額な費用のかかる汚染の除去が前提となる場合が多く、汚染除去費用が捻出できずに放置されるようである。法律の網を全てにかぶせるのではなく、法律をトリガーとして自主的な土壌汚染対策を促すという狙いどおり、土地売買の際の自主的な土壌汚染調査が普及したが、対策方法については健康被害を防止するという本来の目的と照らすとやや行き過ぎた感がする。
土壌汚染地の再利用を促進するためには、比較的安価な費用でできる汚染地の管理を選択した再利用案件を行政が後押しして、汚染地の管理であっても土地の価値が毀損しないといった成功事例を積み重ねることが不可欠であり、そのための支援制度の設計が望まれる。米国では税制優遇などのインセンティブを付与する手法などが検討されているが、わが国ではそれに加えて土壌汚染の健康リスクに関する一般人の正しい理解を深めるための啓発活動も望まれる。
※eyesは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。