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コラム「研究員のココロ」

「二地域居住」と地域活性化

2006年12月25日 竹内 順子


人口減少の時代を迎えて、自治体が人の誘致を競うなかで「二地域居住」というライフスタイルの振興が図られている。その起爆剤として期待されているのが団塊の世代である。

■「団塊」誘致は起爆剤たりえるか

 「二地域居住」という言葉をご存知であろうか。二地域居住とは、国土交通省(2005)で提唱されたライフスタイルの1つで、「都市住民が定期的・反復的に、農山漁村等の同一地域に滞在する」ことを指している。二地域居住を振興する目的としては、(1)国民の多様なライフスタイルの実現、(2)定住人口の増加促進の呼び水、(3)防災時の緊急避難先としての選択肢の増加などが挙げられている。
 全国の市町村の約3分の1が過疎という状況を迎え、人の誘致に対する自治体の関心は高まっている。地域活性化のためには、UIターンなどの定住のみならず、観光・集客など交流人口の影響も大きいと考え、観光振興を強化する自治体が増加している。二地域居住はその中間的な形態といえるが、2つの居住地を継続的に行き来する生活は、時間的、経済的に余裕がなければ難しい。そこで、2007年以降、退職年齢を迎え、時間的な余裕ができるはずの団塊の世代に期待がかかっている。これまで「時代に応じてライフスタイルをリードしてきた団塊の世代」(国土交通省)から多数の二地域居住実践者が生じることによって、こうしたライフスタイルが広く認知され、普及するという期待である。
 しかし、より重要なのは、具体例が増加することによって、実践にあたっての課題や必要なサービス、二地域居住実践者の受け入れに適した立地・環境条件などが明らかになることであろう。複数の居住地を持つといった場合、一般に想起されるのは別荘の所有であり、可能な所得層は限られている印象が強い。しかし、内閣府(2006)の意識調査によれば、二地域居住の願望がある人は回答者全体の37.6%に上っており、50代では45.5%と半分弱の人が二地域居住をしたいと考えている。実際、弊社が楽天リサーチと共同で実施した二地域居住の実践者のアンケート調査では、実践者の世帯所得水準の幅は広く、二地域居住先の住居形態において賃貸が3割弱に及ぶなど、実践者の裾野は意外と広いことがうかがわれた。潜在的な希望者の多くが田舎暮らしを楽しむことができるように、多様な居住形態が出現・発達することが望ましい。

■クラインガルテンというモデル

 二地域居住の一形態として、クラインガルテン(滞在型市民農園)の例をみてみたい。クラインガルテンとはドイツ語で「小さな庭」を意味するが、日本では、滞在用のラウベ(休憩小屋)が備わった市民農園を指しており、多くの場合、自治体や第3セクターが管理・運営を行っている。放棄耕作地の増加による農村の荒廃の防止やグリーンツーリズムの振興などを目的に開設されており、農林水産省のホームページによれば、全国に約60カ所が存在する。

 国内のクラインガルテン導入の嚆矢である長野県旧四賀村(市町村合併により2005年からは松本市四賀地区)には2つのクラインガルテンがある。元村長がドイツのクラインガルテンから着想し、選挙の公約に掲げて導入を推進してから10年以上が経過しているが、いずれも入居希望倍率が40倍を超える人気を誇っている。現在の利用者は50代以上が97%、東京・神奈川・千葉・埼玉の住民が65%を占めており、首都圏のシニアによる二地域居住先になっていることがわかる。最初に開発された坊主山クラインガルテンは、年間使用料10~35万円で100㎡余りの畑とラウベを自由に使うことができる。利用の頻度は隔週の利用から4~11月はほぼ定住という人まで様々である。入居時には「田舎の親戚」として地元の人が紹介され、農業に関する指導を受けることができる。その他にも各種の講習会や行事が企画されており、ガルテナー(利用者)間、ガルテナーと地域住民の交流を促進する機会となっている。坊主山クラインガルテンは集落に近いこともあり、近隣農家との交流も自然に生じており、ガルテナーのなかには農家の農作業を手伝う人も散見される。四賀地区になじみ、ガルテナー卒業後、地域に定住する人も出てきた。松本市役所四賀支所では、今年、ガルテナーにアンケートを行ったが、3分の1弱の人が当該地区への移住を予定していた。利用者の満足感、交流を通じた地域への好影響の両面で良好な成果を納めているといえよう。

 何がこうした成果につながっているのであろうか。第1にクラインガルテン自体が持つ明快なコンセプトである。趣味として農業を楽しみながら田舎暮らしをしてみたいという層に強くアピールすることができる。第2に低コストである。年間使用料が10~35万円で、仮に継続が難しいとわかれば1年間で終了できるという設定によって、実践にあたってのハードルはかなり低く抑えられる。第3に受入体制である。知らない土地で暮らし、何を解決するにも手探りという状態を楽しめる人もいるが、入門編としては、相談窓口や相談相手がはっきりしている方が有難い。行政の関与による安心感もある。第4に地域の協力的な姿勢である。前述の「田舎の親戚」になる人はボランティアである。また、ガルテナーに近隣の住民が気軽に声をかけ、交流を深めることは、地域住民が異質な人の増加に抵抗感を持つ地域では難しい。二地域居住から定住への移行は、地域への愛着が必要条件であり、それは人との交流によって育まれることが多い。

■多様な試みで、広がりを持つ活動に

 国土交通省(2005)の推計によれば、2005年の二地域居住実践者は約100万人である。
 同省の構想では、団塊の世代から実践者が多数出現することによって、二地域居住実践者は2010年には190万人、2020年には680万人に増加すると見込んでいる。さらに、二地域居住者の増加に伴うサービス等の需要拡大が地域に雇用を創出し、結果として、シニアのみならず、働き手となる若年・壮年層の定住者も増加するというシナリオを描いている。
 こうした思惑を抱く自治体が多いのか、昨今、団塊の世代を対象とした誘致や二地域居住促進の事業を開始する自治体が増えている。しかし、コストを伴うものである以上、時流に流されることなく、それが地域に何をもたらすかを良く検討することが必要であろう。地域が置かれた状況はそれぞれ異なるからである。定住に比べれば、元々の居住地を引き払うわけではない二地域居住の方が、抵抗感が小さいという考え方はあろう。しかし、二地域居住の潜在的な希望者が多い大都市圏からの交通のアクセスが悪い地域については、行き来が容易ではないため実現しにくく、誘致の効果は期待できないかもしれない。また、農林業や漁業の後継者を求める地域では当然のことながら長期にわたって働き手となりうる若年層の誘致の方が優先順位は高い。働き手としてシニアに期待するというケースももちろんあろう。自らの経験やスキルを生かしながら、フルタイムではない形で働きたい、環境保護活動に参加したいというシニアの希望を生かすような機会を提供することのできる地域もあるはずである。そうした可能性は地域の人口動態や産業構造、地理的な条件と深いかかわりを持っており、そこにこそ地域の個性を発揮するための資源がある。
 放棄耕作地の増加による農村の荒廃を防ぐことから出発したクラインガルテンが、費用面や住民の協力も含めた受入体制面の工夫によって成果を上げているように、地域の資源を生かし、かつ課題を解決する手段として、人の誘致策を考えていくべきであろう。自治体だけではなく、地域住民や民間企業などからも多様な試みが生じてくることを期待したい。豊饒は多様性に支えられると考えるからである。

【参考資料】

内閣府(2006)『都市と農山漁村の共生・対流に関する世論調査』

国土交通省(2005)『「二地域居住」の意義とその戦略的支援策の構想』

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