コラム「研究員のココロ」
日本のグローバルメーカーにおけるグループ・グローバル経営管理の実際
2006年12月18日 鈴木 和也
1.日本のグローバルメーカーのジレンマ
バブル崩壊以降の国内マーケットの飽和、地球規模でのボーダレス大競争時代への突入等の経営環境の変化を背景として、日本企業(特に製造業)は望むと望まざるとに関わらずグローバル化が進み、海外マーケットへの依存度も年々高くなってきている。
グローバル化の進展に伴い、日本の各メーカーは販売会社を各地域・各国に設立するばかりでなく、コストダウン、サプライチェーン(生産拠点の最寄化)を目的に生産拠点まで戦略的に現地法人化している。また、研究開発拠点をグローバル展開している企業も散見される。その結果、連単倍率も年々上昇する傾向にある。
このように、日本のメーカーはグループ・グローバル経営を余儀なく求められ、グループ・グローバルでのPLAN(計画・予算)・DO(実行)・CHECK(評価)・ACTION(改善)の各プロセスでの優劣がグローバルメーカー間の熾烈な競争における勝ち・負けのカギを握っている。
しかしながら、日本のグローバルメーカーでは、このような戦略面やオペレーション面でのグループ・グローバル化の進展に対して、マネジメント面でのグループ・グローバル化が追いついていないのではないだろうか?筆者はコンサルティングの現場でそのように実感している。
本稿では、日本のグローバルメーカーが競争に打ち勝つための「マネジメントのあり方」と「経営管理手法」のあるべき姿について考察する。
2.日本のグローバルメーカーのあるべきマネジメントのあり方
一般的に多角化企業は、全社連結管理・個社別単体管理(財務会計)とは別に、事業連結(管理会計)によるグループ経営管理を行っている。事実、多くの日本企業では90年代後半に事業軸を中心とした連結経営管理制度を構築し、グループ全体での情報システムの整備を行うことにより、連結事業部門単位で財務データを収集、事業連結PDCAを回してきた。
しかしながら、現在のグローバルメーカーでは、各地域・各国マーケットでの消費者嗜好の多様化や生産拠点のグローバル展開により、もはや従来の事業軸だけでの連結マネジメントでは十分と言えない状況に陥っており、競争力強化のためにはより高度かつ複雑なマネジメントが求められている。
従来の事業軸を中心とした連結経営管理制度では、コーポレート(本社)は事業連結P/L、B/S、C/Fを中心に事業ポートフォリオマネジメントや連結事業部業績管理を行い、連結事業部内では連結データの内訳である事業部、各グループ会社の単体データによる業績管理を行ってきた。
それが現在では、グループ・グローバル化の進展に伴い、連結事業部内のマネジメントを地域軸やBU(製品)軸で行うことが求められている。つまり、連結事業部内で地域ポートフォリオマネジメント・製品ポートフォリオマネジメントや地域単位の連結PDCA・BU単位の連結PDCAを行わないと競争に打ち勝てなくなっているのである。例えばBU単位の連結PDCAでは、連結事業部内の生産・販売機能をBU軸で管理し、生産機能と販売機能の間にある商品企画・設計開発機能を強化(=商品力強化)し、BU別連結データで業績管理を行うイメージになる。
一方機能面では、事業軸中心のマネジメントの弊害として表れているグループ全体での機能面の個別最適化に対して手を打つべく、グローバルで機能軸横串管理を行うことが連結での競争力強化のために必要となっている。具体的には、グループ会社の資金調達を本社経理部門が一元管理することで連結での財務体質を強化する、機種別連結原価を本社生産部門が統括管理することでグローバルでのコスト競争力を強化するなどがあげられる。SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)もオペレーション面でグローバル横串管理が必要となることは言うまでもない。
このように、これからの日本のグローバルメーカーでは、事業軸管理のさらなる高度化とともに事業軸・機能軸の「グローバル・マトリックス管理」がマネジメントのあるべき姿となる。またそのあるべきマネジメントを行うためには、これまで以上にグループ会社から細かなメッシュのデータ・情報を収集しなければならなくなる。
3.日本のグローバルメーカーが抱える経営管理手法上の問題点
グループ・グローバル化の程度が高くなればなるほど、オペレーションならびにデータや情報は否応なく集中から分散の方向に進んでいくことになる。これは物理的にどうしてもコーポレートの目が届かなくなるからである。
これに対して多くのグローバルメーカーでは、1.組織構造、2.統治スタイル、3.機能分担の観点から「グループ経営組織」と「経営管理手法」を見直すことで問題解決を図ろうとしている。日本企業の特徴として、「中央集権型」統治スタイルを好む傾向があり、それを徹底するために予算管理でグループ会社を縛ろうとするケースが多く見られる。換言すれば「管理型ストレッチ経営」を志向しようとしているのである。
この管理型ストレッチ経営で最も問題視すべきことは、グループ全体で予算管理を徹底すればするほどグループ会社はデータ・情報を隠したがり、コーポレートはグループ全体の状況を適時・適切に掴めなくなってしまうことにある。これでは業績予測精度が低くなるのは言うまでもなく、本来志向していたはずの「全体最適」に繋がる手も迅速に打てなくなる。さらにトップは、グループ全体の情報・データが見えないことにより、業績が芳しくない状況下に陥れば陥るほど予算を「ムチ」として使う傾向が強くなる。
この結果、コーポレートと各グループ会社の信頼関係は決定的に損なわれ、中央集権型統治スタイルの狙いとは逆に、グループ全体で「個別最適」に進んでいくはめになる。まさに負のスパイラル(悪循環)状態に陥ってしまうのである。
4.これからの経営管理手法の方向性
全体最適を志向する経営管理は、PDCAの基本的な考え方となる「マネジメントのあり方」やマネジメントを円滑に促進させるための「経営管理手法」はもちろんのこと、マネジメントに必要なデータや情報がタイムリーに入手できてはじめて成立する。データや情報がマネジメントの基盤(ベース)となる。
これまでの日本のグローバルメーカーでは、コーポレートを中心にグループ・グローバル経営管理に必要なデータ・情報の要件定義を行い、各グループ会社の情報システムを見直し、本社情報システムとの連携(インターフェース構築)を行うことにより、グループ会社のデータ・情報を物理的に収集してきた。
しかしながら、前章で述べたように、実際には思ったように迅速かつ必要十分なグループ全体のデータ・情報を把握できないのが現状である。なぜならば、グループ会社にはデータ・情報を提供する「動機づけ」が働かないからである。つまり、データ・情報をオープンにさせ、より早くデータ・情報を提供させるためにはグループ会社の方にも動機付けに繋がる何らかの「メリット」が必要になってくるのである。
経営データ・情報のフィードバックもグループ会社にとって一つの大きなメリットとなる。また、コーポレート・グループ会社間が密接なコミュニケーションが取れるような業務運用体制を再構築することも対応策として考えられる。しかしながら、これらの仕掛けは残念ながら抜本的な解決には繋がりにくい。
抜本的解決のためには、グループ全体で意識改革を促し、信頼関係を再構築する仕組みが必要となる。つまり、旧来の考え方を捨て去り、「管理型ストレッチ経営」から「自立型ストレッチ経営」への転換を基本的な考え方としたグループ経営組織および経営管理手法のあり方を再度徹底的に議論すべきではないだろうか?
経営管理手法に関しては、「予算偏重主義からの脱却」がキーワードとなるはずである。昨今「脱予算(予算レス)経営」の議論が巷で活発に行われているように、一般論として予算偏重経営には、「労力・費用対効果の低さ」、「マネジメントの硬直性」、「短期業績志向」などの弊害も多く見られる。
ここでは、グループ全体のデータ・情報の入手可能性・透明性を担保し、あるべきマネジメントのあり方を実践すべく、欧米流に予算制度を廃止するという極論ではなく、四半期ローリング業績予測やBSC(バランス・スコア・カード)を用いた業績評価制度など欧米流「脱予算経営」の経営管理手法を、どのように日本流に咀嚼し、仕組みに織り込んでいくかがポイントとなると考えられる。