Sohatsu Eyes
油田を発掘する
2006年08月08日 赤石和幸
牛や豚などからの糞尿などから、発酵処理を行うことによりメタンガスを取り出すことができます。高純度なメタンガスは、天然ガスと同様に利用することができます。環境汚染や悪臭の原因となっている糞尿などが、新たな価値を生むようになってきたのです。
糞尿などを適正処理する際、38度くらいにて空気に触れないよう長期間、発酵させます。発酵の過程でメタンを主成分としたバイオガスが回収されるのです。バイオガスは、硫化水素や二酸化炭素などが多く含まれているので、このままでは使えません。日本総研が主催するBio Network コンソーシアムでは、このバイオガスから、メタンガス、硫化水素、二酸化炭素、さらには水分までも、安価に分離する技術開発に取り組んでいます。“混ぜればごみ、分ければ資源”という発想です。
鹿児島県の桜島の麓にある垂水市では、NEDOと協同して、豚の糞尿からメタンガスを取り出し、市内のガスエネルギーとして利用するプロジェクトを立ち上げています。一日、15トンの豚糞尿から発生するメタンガスにて、温浴施設のコージェネレーションのエネルギーの大部分が賄える計算です。化石燃料の高騰の影響を受けて、灯油、重油、ガソリンといったエネルギーの価格が軒並み上昇しています。長期的に見た場合、海外の影響を受けることなしに、安価でかつ安定的に供給されることは、エネルギーの消費者としても魅力的なのです。さらに、自然由来のエネルギーですので、バイオガスを使うほど、温暖化効果ガスの削減効果があるのです。
垂水市の実験プロジェクトは、小さな試みです。もっと視野を広く見ると、牛や豚の糞尿のみならず、生ごみや下水などからも、バイオガスが回収できるのです。一方で、メタンガスの利用も幅広く考えるべきです。コージェネレーションの燃料のみならず、天然ガス自動車や一般家庭でもガス燃料を使っていますし、灯油や重油などとのミックスも可能です。使用用途やユーザーが増えるほど、バイオガスのニーズは高まり、より良い条件での取引が成立するのです。
これは、不毛の地であった大地から、原油を採掘する技術を開発し、新たな価値を見出したことに状況が似ていると言えます。現時点では、糞尿やごみが発生する場所は、環境汚染や悪臭の元凶として厄介ものであります。しかし、近い将来、その価値を知り、有効利用する術を知る人達によって、自然由来のエネルギーを発掘する油田に代わるかも知れません。
※eyesは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。