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コラム「研究員のココロ」

すべては組織風土の変革のために(5)~組織の風土変革と個人のキャリア開発~

2006年12月04日 水間 啓介


1.達成感や成長感を味わうことができる仕事を見出し、自ら選び取るという感覚を!

 組織風土変革にはリーダーの危機感が必要であることを前回述べた。業績が悪化して追い詰められてからの危機感で組織風土変革を成し遂げてきた企業が数多くある。今ときめくメガカンパニーの大半に、決定的な危機を克服すること通じて、業績の好不調を問わず健全な危機感を生み出すという共通した組織文化が存在していることに気づかされる。さて、次のような疑問が湧いてこないだろうか。危機感を共有する組織風土の中で、人々は果たして自分の実力を発揮し成長し続けることは可能なのかどうか。業績好調の時から健全な危機感を持たせようとしても、そう簡単にはいかないのではなかろうか。健全な危機感が組織に根付いていようといまいと、優良企業の一員となることにあこがれて入社する人はたくさんいるが、単に健全な危機感が根付いているからというだけの理由で入社する人はそれほど多くないのではなかろうか。
 これまでの日本の組織風土では、過剰なまでの会社と個人の一体化が見られた。時代が変わり、終身雇用が約束されなくなった今日、社員を駆り立てるのは会社との一体感を実感させる仕事ではなく、使命感や仕事の達成感そして成長感を実感させる仕事であるかどうかとか、社員がそのような仕事のできる環境を選びとったことを心の底から納得して誇れるのかどうかということであろう。会社は健全な危機感を抱かせようとしても社員とっての利益・メリット・目的を満たさなければ社員は受け入れてくれないのではなかろうか。その会社の社員でなければできないとか、社会に貢献できる仕事につけるとか、難しい仕事を克服して達成感や成長感を味わうことができる環境であるとか、志を同じくする同志がいる等々の要素が重要になってくると考える。

2.会社は社員個々人のキャリア開発にどう対処すべきか?

 最近キャリアの開発という言葉が話題にのぼるようになっている。そもそも会社がキャリア開発に積極的に取り組むことには賛否両論がある。キャリアは本来社員個人の問題であって会社が関与すべきではないという見解が根強い一方で、社員個人に任せていてはキャリア開発がうまくできないから会社が支援すべきだという見解も存在する。ただ、キャリア開発の問題を、個々人の適性を見いだすという脈絡で捉えて積極的に取り組んでいる会社がある一方で、成果主義の導入という脈絡で捉える取り組みが見受けられることを懸念する。成果によって昇給・賞与にメリハリをつける成果主義を導入した後に、社員により成果を出してもらうための策としての動機で導入しては一過性のものに終わってしまいかねない。また、キャリアというと兎角仕事の経験(外的なキャリア)と考えられがちで、例えばキャリア開発をサポートする仕組みとして社内公募制・社内FA制やメンタリングの仕組みを作るといった制度論に終始してしまうということも懸念する。
 キャリアを“個々人の適性を踏まえた仕事の経験(外的なキャリア)”と捉える考え方ではうまくいかないと考える。多くの会社で個々人に申告させる取り組みは行なっていても、全員を個々人の希望や適性を踏まえた仕事の実現にまで結び付けるとなると難しいのではないだろうか。社員に自分のやりたい仕事を申告する場を提供して社員全員の要望を聞いていては会社の業務が成り立たなくなってしまうという理由で、キャリア開発に尻込みしてしまうということになる。それが、社員個々人のキャリア開発に後ろ向きになる最大の理由ではなかろうか。どんな仕事でも社員個々人にとって、その仕事の意義を見いだし、強制されて仕事をやっているという感覚ではなく、自ら選び取って取り組んでいるという感覚を引き出すことが大事なってくると考える。

3.“目を輝かせて働いている時間の長さ”の実現には、組織風土の有り様も!

 「人は一生かけて自分とは何者かを探している。」とはよく耳にする言葉である。求めていた自分を見つけ出すことができた人は運のいい人の部類に入るのだろう。ビジネスマンとして活躍できる約40年の限られた時間の中で、自分にふさわしい仕事を見つけることはなかなか難しい。それは、生活のため、家族のため、子供の教育環境のため、親の面倒を見るため、恩人・恩師・旧友との人間関係のしがらみ等々の様々な要因が立ちはだかるためであろう。
 そのような制約がある中で、達人とかプロフェショナルとして各界で活躍している人に共通した行動パターンがあるように感じる。さまざまな制約がある中でも自分のやりたいことや目標を明確にし、自分を極限まで追い込みながらも、その瞬間を楽しみながら達成し、その達成感を味わうという行動パターンである。“目を輝かせて”しっかりと自分の人生を生きている。どんな仕事であろうとも、そのような仕事の仕方を見つけ出して実行している。「社会人にとって貴重なのは、キャリア(外的なキャリア)でも事業の成功でもなく、目を輝かして働いている時間の長さである。」という言葉を耳にしたことがあるが、まさに至言である。このような充実した時間を感じさせるようなキャリア(内的なキャリア)を社員個々人に提供できるようするには、社員個々人の内面の問題と片付けられまい。個々の社員を導く“組織風土”の問題も合せて考える必要があるのではないかと考える。トップが夢を語り、個々の社員が自分の内面でわが事としての夢を描き、自ら選び取って取り組んでいるという感覚を持ち、社員みんなが協力しあって夢の実現を図る。そこに“目を輝かせる時間の長さ”が生まれてくる。それは個人の力だけではできない。仲間や集団の中でこそできるのではないだろうか。そのような場を多く提供できる企業は、組織風土にも優れ、また個人にとっても充実感を抱かせる優良企業であること間違いない。
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