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コラム「研究員のココロ」

保守サービス網から始まる業界再編

2006年11月27日 森康一


 オフィスの「三種の神器」が「コピー機、FAX、ワープロ」であったのは、ずいぶん昔のことになってしまった。ここでいう「ワープロ」は専用機のこと。今はワープロといえば、パソコン上のソフトウェア。コピー機とFAXはというと、一体化した製品(複合機)が主流になってきた。
 単体のコピー機、単体のFAXは、それぞれずいぶん低価格になっているが、それに比べて複合機は、それなりの高価格を維持しているようである。市場や技術の変化に、複合機メーカーがこれまでのところうまく対応できているということだろう。

 コピー機をベースとした複合機は、従来のコピー機と同様に、たいていの場合は保守契約を結ぶ。「マシンは故障するもの」という前提をメーカーもユーザーも理解しており、マシンが発揮するパフォーマンスに対して、故障対応コストも含めてユーザーが対価を支払い続けるという特異なビジネスモデルとなっている。これはメーカーにとって、安定収益源となる。

 このビジネスモデルにおいては、充実した保守サービス網が欠かせない。故障時などに、即時にサービス担当者が現地に駆けつけて保守作業を実施するという体制。これを全国規模で組織立てて行うのは、一方ではメーカーにとって重い負担でもある。
 さらに近年、メーカー側の負担感が増しているだろう。マシンの機能が複雑化したことにより、保守範囲が拡大し、また問題発生時の原因究明が難しくなり、技術資料はどんどん増えていく。保守サービス担当者にとって、習得すべき知識・技術は膨大になっている。リモート監視やマニュアル電子化などである程度は合理化できても、それでも追いつかないことだろう。

 この保守サービス網は、コピー機型ビジネスモデルにおける大きな参入障壁であるため、既存メーカーにとっては収益源を守る上で非常に重要なものではあるが、近年、収益貢献に対する負担の重さが増加しているのではないだろうか。
 コピー機の時代も、コピー機をベースとした今の複合機の時代も、メーカーの上位3社の顔ぶれは長期間にわたって同じ。典型的な寡占市場である。上位3メーカーにとっては、多少の負担増大は、大きな収益の中で吸収できるのだろう。しかし4位以下のメーカーにとっても同じだろうか。またこの業界には、保守サービス網を持つディーラーも存在し、ディーラーにとっても同じような悩みがあるだろう。

 参入障壁であるサービス網が重荷へと変化してしまったとき、サービス網の効率活用という視点で、何らかの業界再編がありえるのではないだろうか。

 まず考えられるのは、保守サービスの共通化であるが、これは容易ではない。メーカー間で技術情報を共有することへの抵抗感は強いだろう。メーカー間の保守サービスの方針・やり方の違いも解決しにくい。最終的には、製品の共通化、開発の共通化というところまで行き着く話である。容易ではないものの、これら課題を克服して事業統合するという選択肢もあるとは思われる。

 それよりも現実的なのは、他業種との協業である。複合機メーカーの保守サービス力は非常に高い。コピー機の時代と比較すれば、複合機の保守サービスは格段に難しい。コピー機が複合機に変化していく過程で、メーカーは苦労して保守サービス力をアップさせてきた。
 いわば、この保守サービス力を外販するというものである。複合機メーカーの保守サービス担当者は、オフィスに出入りしている。オフィス内またはオフィス周辺で、保守サービス網を別の形で活用できないか。マシンを保守するという観点では、オフィス内外にはいろいろなマシンや設備がある。また、そうしたハードウェアの保守に限定することもないとすれば、さらに外販可能性が広がるだろう。

 とぼんやり考えていたところ、ある企業から「最近、こんなことを考えた」という話を聞いて、これと似た発想だったので驚いた。この企業は、オフィス関連のある種のマシンを扱っていて、関係会社がその保守サービスを受け持っていたのだが、これを、複合機の保守サービス網をもつある企業に委託できないか、というもの。実現するかどうかは分からないし、実現したとしても水面下でのスタートになるのだろうが、業界再編を予感させる動きである。
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