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コラム「研究員のココロ」

経営の可視化、見える化のポイント
~情報が失われることでエントロピーは増大する~

2005年12月26日 叶内朋則


■なぜ、経営の可視化なのか。

 最近、経営の可視化や見える化という言葉を耳にする機会が増えている。その背景には、経営における情報の存在価値が高まるとともに、企業の中での情報の断絶という状態が問題として注目され始めたということがあるだろう。
 では、「情報の断絶」とはどういうことなのか。
 そもそも情報は『ある特定の目的について、適切な判断を下したり、行動の意志決定をするために役立つ資料や知識。』(三省堂「大辞林 第二版」より)という意味を持つ。つまり、適切な判断や行動の意思決定に役に立たないデータ(資料や知識)は情報と呼べないのである。


■3種類の「情報の断絶」

 情報の断絶には3パターンあると思われる。
 1つは、そもそも企業の中に情報やデータが存在しない状態。
例えば、過去に開発した情報システムの設計図が存在しない、業務手順に関する正式な文書が存在しないなどの状況である。この方面に関しては、近年、経済産業省主導で提唱されてきたEA(Enterprise Architecture)手法により、業務や情報システムを記述し可視化しようという動きが見受けられる。
 2つ目は、情報を求める人のところへ必要なときに必要なデータが挙がってきていない状態。
 これは情報の流通がなされていない状態で一般的に想像される状況であろう。これは情報システムの整備により、ある程度、情報の流通を活発にすることはできる。ERP(Enterprise Resource Planning)システムやSCM(Supply Chain Management)システム、SFA(Sales Force Automation)システム、CRM(Customer Relationship Management)システムなどは、まさにそういう思想でもって導入が進められているシステムである。
 3つ目が、データはあるが判断や意思決定に使えない状態。
例えば、データが大量にありすぎてどこのどの情報を見ればよいのか分からない状況であるとか、そのデータがそもそも現実の事象の何を表しているのか、受け取った人には分からなくなっている状況などがある。


■データはあるけれど・・・

 3つ目の状態が一番悩ましいだろう。
 DWH(Data WareHouse)やBI(Business Intelligence)などでデータを多面的に分析するツールは存在するが、ツールを導入しても、様々な角度からの分析を行う時間がいつもあるわけではないだろう。まさにデータはあるが使えない状態となる。
 この場合、逆からの思考で検討することをお奨めする。今あるデータをどのように加工するかではなく、行動の意思決定や適切な判断のためにそんな情報が必要なのか、という観点である。つまり、その情報を見る人はどんな意思決定をする(べきな)のか、どんな判断をする(べきな)のか、というアクションから必要な情報を洗い出すのである。そういう過程で考えると、現在、情報システムに蓄積されているデータでは不十分かもしれないし、データはあるがその精度や入力ルールを検討しなおす必要があるかもしれない。今あるデータを前提とした検討では出てこない課題である。


■木を見て森を見ず

 経営の可視化とは言え、全社の状況を常に事細かく把握し的確な経営判断をすることなど、そもそも無理であろう。「木を見て森を見ず」という言葉があるが、木を見る人も森を見る人も会社には必要なのである。
 経営の可視化にとって重要なのは、誰が森を見て誰がどの木を見るのかという役割分担と、森を見る人にとっての木の状況を判断する基準(指標)を何にするのか、という点であろう。そして、その役割分担と判断基準は可能な限りシンプルなほうが良い。シンプルとする代わりにその指標については、時系列や横並びでの比較、ドリルダウンによる予算実績の差異分析を丁寧に実行すべきであろう。アクションにつながるシンプルな指標で経営管理を実践するのが、経営の可視化を成功させる秘訣なのである。


■情報は会社を救う

 生物にとってエントロピー最大の状態は死であるという。エントロピーとは、物理学では乱雑さや無秩序の度合いであるが、情報理論の中では事象の不確かさを表す。そして情報はエントロピーを減少させるものとして定義される。企業という生物が死に至らぬよう、秩序を保ちエントロピーの増大を防ぐためにも、経営の可視化すなわち経営情報の整備は非常に重要なことだと言えよう。
 振り返ると自分の机の周りはなんと乱雑なことか。今は頭の中にモノの位置が入っているから良いが、年末年始を越えたらどうなるか。来年こそは、こまめな秩序化(掃除)を心がけたいと思う・・・。
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