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コラム「研究員のココロ」

リスクマネジメント時代の大学経営<中>

2005年12月12日 吉田 賢一


3.大学経営における「リスク」の種類

 これまでも述べたとおり、それぞれの大学が持つ組織目標を達成していくためには、「リスク」がつきものであり、それら不確定な要素をいかに的確に把握し克服するための戦略眼を練磨するかが重要となる。
 大学にとってのリスクマネジメントを行うべき、具体的な対象としては次のようなものが考えられる。
 まず、第一に、「マーケティング、学生募集」のリスクである。
 大学にとって最大の収入源は、受験者の支払う受験料と入学する学生の納付金等であり、受験者の動向が大学の経営を左右するといっても過言ではなく、まさにリスクである。
 第二に、「組織・人的資源マネジメント」に伴うリスクである。
 多くの大学経営者や有識者によって、大学組織の古い体質から生じる問題点が指摘されている。これは、教員集団と階統的な職員組織の二重構造と、1年単位で動く緩慢な組織形成の実態、そして研究と教育という短期間に成果を把握することが困難な事業内容の特殊性に起因すると考えられる。しかしながら一方で、国際化、産学連携活動の強化、そして技術移転の活発化といった新しい大学事業の領域においては外部との接点が確実に増大しており、企業と同様のロジックによるマネジメント組織体制の効率化が必要となってきていることは否めない。こうした状況に大学の組織構成員が理解を示さないとするならば、それは「リスク」を生み出すこととなる。
 第三に、「CSR・学外(産学官公地域)連携」のリスクである。
 先ほども述べたとおり、学内に抱えるリスクだけでなく、周辺の地域社会や企業等へ積極的に情報を開示し働きかけを行うCSRの視点や多様な学外との連携活動には、大学とは異なった論理(例えば競争的市場の論理)で動くアクターとの関わりが生まれることとなり、それは必然的にリスクの要素を持つ。
 第四に、「知財・著作権管理」がもたらすリスクである。
 これまで大学においては、書籍の複写の扱い一つとっても、あまり明確な管理体制は整っておらず、また、教材等に活用する様々なデジタル・コンテンツについて行うべき著作権管理の適切性にも問題がある。
 また、知的財産の管理についても、外部委託を中心に必ずしも大学本体での位置づけが明確にではなく、体制整備もこれからという大学も多い。こうした「未整備・未対応」の実態は即、リスクに転化する恐れがある。
 第五に、「コンプライアンス」に関するリスクである。
 著作権等についても著作権法があるように、個人情報や環境マネジメント体制の構築等について、それぞれに法的規制が存在しており、それに対し法人として適切 に対応することが求められる。
遵守するべき関係法令の数は、大学が実施する事業の拡大に伴い増大することとなるが、そこへの注意力の欠如はリスクに直ちにつながる。また、遵守しないことによる社会的制裁もリスクとなる。
 第六に、「施設整備」に伴うリスクである。
 老朽化したキャンパスの建物の建て替えや新規建設は、いずれの大学においてもいつかは対処しなくてはならない経営課題であり、一定の計画性を持った配慮がなければ大きなリスクとなりうる。また、景観や緑の保全等環境問題への配慮などハードのみでなく、ソフト面も含めた複合的なリスクを考えなくてはならない。キャンパス整備にあたり、環境アセスメントに伴う希少種への対応等も、経営の視点からはリスクとなりうる。
 さらに、最近国立大学法人について入札談合の問題等が報道されたが、整備の技術的、財政的手法のみでなく、整備のシステムや体制、手続きについても注意が必要となる。
 そして最後に、「構造的制約」のリスクである。
 特に国立大学法人は、その経営のあり方について、運営交付金の漸減政策と事業領域の制約、資産運用や資金調達等の制限など様々な側面に個別の法人で対応する次元を超えた課題が存在している。これは国立大学法人の将来性を展望しづらくしている側面は否めず、それが構造的に組み込まれているという意味で、「予測できる」リスクとして顕在化しているといえよう。

図表 3 大学経営のリスク
大学経営のリスク

出典:日本総合研究所作成

 以上のリスク群について、大学経営のあり方をガバナンスの視点で捉え、学長、理事長以下経営陣の強力なリーダーシップのもと、組織構成である教職員が互いにパートナーとして協働し、学内外のステークホルダーとのコミュニケーションを円滑にしつつ、組織をマネジメントするための仕組みづくりが必須となる。
 しかし、私立大学にあっては従来の大学業界特有の1年単位で事業を行う緩慢な組織形成の体質が色濃く残っており、また、国立大学法人にあっては、国立大学時代の官僚的、機械的組織構造特有の保守性の残滓があることに加え、法人化という大きな変革への対応が中心であり、いずれの経営形態においても、事情の仔細は異なるものの、新しい組織的取組みを行うには、十分な体制とはいえない状況にあると考えられることにも注意が必要となる。
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