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コラム「研究員のココロ」

すべては組織風土の変革のために(1)~ 何のための人事制度改革か? ~

2005年12月05日 水間 啓介


1.目標管理やコンピテンシーはうまく機能していますか?

 “目標の達成度に応じた業績評価ができています。”とか“コンピテンシーによる能力評価ができています。”という答えではありません。“目標管理により、自分でPDCAを回せる人材が育っています。”とか“コンピテンシーにより、将来の会社を担える人材が育っています。”という答えが望まれます。
 目標管理やコンピテンシーを、人事評価制度として導入するのがきっかけであったとしても、社員の動機付けや人材育成の視点が欠落していないでしょうか。評価して昇給・賞与・昇格に結び付けて、あとは現場のマネージャーよろしく...という姿勢での導入になってはいないかと点検することが必要だと思います。


2.成果型評価制度の導入とともに、マネージャーの意識改革および仕事の見直しをすべきでは?

 現場のマネージャーからは、“評価の手間が増えているのに、人材育成まで手は回らない。”一方、経営側からは、“うちの管理職は皆プレイングマネージャーであり、マネジメントだけの管理職を何人も抱えることなんてできない。” このような声が聞こえてきそうです。
 しかし、成果型の評価制度の運用をマネージャーに任せ、マネージャーの仕事の仕方を見直さないまま、マネージャーが前線に立って自分で仕事をしている状況では、人材育成は後回しになりがちです。マネージャーが権限を委譲し部下に仕事を任せることができなければ思うように進みません。人材を育成できていない状態で権限委譲をすれば現場は混乱するし、責任はマネージャーがとらされるとなれば、権限委譲はいつまでたってもできません。人材育成で有名なGEでは、権限を委譲できる人材を発掘し育成することに、全社的に執念を持ってやっているという話を聞きます。
 マネージャー任せではなく、会社として人材育成し権限委譲のできるマネージャーを育てることを目的とした体制を整備していくことが求められます。その重要なツールとして、目標管理やコンピテンシーを用いたマネジメントができるように支援していく。したがってこうした目的に沿わない目標管理やコンピテンシー評価制度であれば、いくら精緻で完璧な形式のものであっても、効果は期待できません。評価制度として作って現場に押し付けるというのではなく、現場の人を巻き込んで、彼ら自身が自分たちのものとして、最初は簡単なものから初めて徐々に改善工夫しながら実施していくように働きかけることが大事です。
 すなわち、組織風土への定着を意図した取り組みが求められます。


3.人材育成を目的とした、コンピテンシー・マネジメントとは?

 コンピテンシーについて5段階程度のレベルを設定し、コンピテンシー評価を処遇(昇給・賞与等)に反映させる事例が多く見受けられますが、考えてみる必要があります。コンピテンシー評価を意識した行動が横行するなど人材育成の障害になりかねません。処遇に直結させるよりも、組織内でどのような意識・行動が求められるのかを議論し共有化して皆の認識を深めることが先決です。人材育成を目的としたコンピテンシー・マネジメントが必要になってきます。
 さて、評価目的と育成目的とでは、コンピテンシーのレベル設定の内容や形式は異なったものになると考えます。評価目的では、レベル間の均等な格差を意識するあまり実際の評価では差異をつけ難く(レベル3か4かと迷う場合など)、したがって結果のフィードバックがやりにくいし、やらなくなってしまいがちです。育成目的では、レベル間の格差がだれにも明確な表現になっているために、必ずしも均等な評価分布にはなりません。フィードバックがやりやすいので、人材育成に向くわけです。私は、意識・行動・結果の3要素でのレベル感をもとに設定し、さらにそのレベル感を社員の間で日頃から話題にできる、親しみやすい名称で命名することを勧めています。フィードバックに用いることができないコンビテンシー評価シートは、どんなに精緻なものであっても人材育成には向かないと思います。


4.組織の戦略課題を取り入れた役割基準による、ミッション・マネジメントとは?

 人事制度で役割基準を設定する事例が増えてきています。この場合にご注意いただきたいのは、職務分掌の延長のような記述だけでは機能しないということです。すでに出来ている項目であったり、過去のビジネスモデルにより存在する業務に囚われた役割基準では、激動する経営環境に立ち向かって新たなる取り組みへと導くことが難しく、組織の戦略課題を取り入れた役割基準でなければ変革のスピードに対応できないのではないかと危惧するからです。
 私は、バランストスコアカード(以下BSC)4つの視点を、部門別のミッションを明らかにし、戦略マップ・アクションプランの作成を通じて組織の成果を明確にするための道具として使用しています。これにより組織のミッションを明らかにしたうえで職位別のミッションつまり役割基準へと落とし込むわけです。会社の経営計画を職位別の目標管理に落とし込む際に、目標の種類をBSC4つの視点で設定する形式で導入している事例を目にしますが、短期的視点で業績を出せても、将来に向けた自立的な組織作りには向かないのではないかと思います。


5.組織風土の変革を意図した取り組みとは?

 人事制度(特に賃金・賞与制度)改革の視点ではなく、組織風土改革の視点に立った制度設計・導入・運用を勧めます。
“昇給・賞与の格差をつける←明確な評価制度の必要←コンピテンシー等の導入”という図式ではありません。“組織風土改革を行う←社員を動機付け、人材育成につながる制度の必要←コンピテンシー・マネジメント等の導入”、“その結果として明確な評価を昇給・賞与に結び付ける。” という図式です。
 それでは、組織風土の変革を何のためにどのように取り組むかについて、後編で述べたいと思います。
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