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コラム「研究員のココロ」

社員の不満と管理職の役割変化

2006年10月23日 鈴木正一


 人事制度改革をお手伝いする立場から、社員が会社へ不満を抱く理由に管理職がどのように関係しているのかについて述べてみたい。

人事制度改革の失敗は運用の失敗

 人事制度改革の失敗、特に個々人の頑張りを重視する(成果主義的な)人事制度への改革を批判する書物、風潮は相変わらず多い。しかしその内容をよく精査してみると次のことに気がつくはずである。「これって現場で運用の仕方を間違えたからじゃないの?」ということである。
 理屈から考えれば誰もが納得する制度によって「うちはダメになった」と声高に被害者じみた声を出している記事や書籍を目にするたびに、「運用できなかった情けなさを暴露している」と感じているのは私だけではないはずである。

運用する管理職の役割変化に気づいているか

 そもそも年功的ではなく、成果主義的な人事制度下では管理職の役割が従来と大きく変化している。ここで述べる「成果主義的な人事制度」とは、何を成果として測るかを明確にしている場合に限定するが、そうであるとすれば管理職は「あれをやれ!」「あれができていないとはどういうことだ!」と声を荒げる機会が減少するはずである。なぜなら、部下のやるべきことは明確であるし、やるべきことをやらなかったらその報いは本人に帰することになるからである。業績を上げるために尻をたたく仕事は格段に軽減されるはずだ。
 その代わりに部下が組織に貢献する、成果を上げることに対してサポートをする重要な役割を負うのだ。そして成果を正確に測り、人事担当部署に報告するという義務がある。当然、報告を受けた人事担当部署は公正に成果を処遇に反映できるようにしなければならない。
 そのシンプルなことが現場でできていない場合が多いのだ。だから人事制度そのものが悪者扱いされている。そもそも運用できない制度を導入した場合は論外だが、運用のさせ方そのものに問題がある場合が多い。典型的な事例として、人事制度を否定するような発言をする管理職は多い。例えばフィードバック面接(考課後面接)を実施する場合などに「人事がやれというからやろう」「忙しいからさっさと終わらせよう」などと言って部下に声をかける。そして人事考課結果を伝える場面では「俺は良い評価をつけたのに2次考課者が・・・・」などと苦し紛れに自分が恨みをかうことを避ける発言をする。このような発言を人事制度を考える機会ごとに聞かされたら社員の誰もが制度そのものを否定したくなる。
 これは最悪のケースだが、部下は尊敬できない上司に対して「なぜあの管理職に評価されなければならないのか」と思っている場合がある。そこまでいかなくても、「自分は上司より優秀だ」と思う場合は多い。その上司が自分自身の処遇や将来までに影響を及ぼすことになるのだ。「そんなことがまかり通る制度なんていやだ!」というのは当然の叫びである。

「名プレーヤー≠名監督」を意識しているか

 管理職の仕事として一番重要な仕事は、部下を業績向上に向けて動機付けることである。そのシンプルなことが「マネジメント」「リーダーシップ」などという曖昧なカタカナの表現の中に紛れ込んでしまっている。御社の管理職の皆さんに聴いてみてもらいたい。「マネジメントってナニ?」と。答えられるのだろうか?そもそも管理職の役割すら考えたことがない場合が多い。多くの上司は「自分自身はプレーヤーとして優秀だったから管理職としてふさわしい」あるいは「プレーヤーとして優秀なのだから管理職になるのが当たり前だ」と考えているはずだ。日本の企業では専門家としての経営者がいない(少ない)のと同様、専門家としての管理職が存在しない。優秀なプレーヤーであったことのご褒美として役職が与えられている場合が多いのだから仕方がないとは言えるのだが。
 また、業務を担当する者に対して業務知識の研修期間を与える場合は多いが、管理職に管理職としての研修期間を与えるケースは少ない。「上のやり方を見てきたはずだから、それが十分研修期間みたいなものだろう」という考え方かもしれない。それはビールを片手に野球観戦を楽しんでいた人に、いきなりバットを握らせてみるようなものだ。漫然と眺めているだけではわからないコツのようなものはいっぱいあるのに。

管理職の役割の重要性はますます高まっている

 最近の研究の成果として、管理職とのコミュニケーションがよく取れている場合ほど社員の会社に対する満足度が高いということがわかっている。管理職が良き管理職としての機能を果たし始めたとき初めて会社に対する信頼感、満足感が増すのだ。
 「昔の管理職は気楽なものだった」という声を聞いたことがないだろうか。どのような成果を上げていても差がつかない制度の下では管理職に不満があろうがなかろうが自分自身の処遇に関係ないのだから管理職に対する不満をこうし嚆矢として会社に対する不満が発生することはなかった。しかし、社員個々人の処遇や将来は管理職の手にかかっているのだから管理職の役割は重要だ。それをわからずに従来と同じ管理職スタイルに満足している場合が多い。会社もそれをそのまま見て見ぬ振りをしている。
 これでは会社に対する不満が高まるのは当然である。管理職にはやるべきことが様々にある。覚えなければならないことはものすごく多い。普通の担当者であれば知らなくて良かった「経営的なこと」から「心理学的なこと」までだ。

 御社の管理職は、このような状況で管理職としての仕事を任せておいて良い人たちなのだろうか。人事制度を構築し、その導入をお手伝いする立場として、制度を創ってそれだけで満足してしまう企業が多いことをついつい嘆いてしまう。管理職の管理職としての当たり前の意識、行動が伴わなければ会社の制度は信頼されないし、会社そのものも同様に信頼されない。そして「社員のやる気」「組織の業績」は向上しない。だから管理職の役割に対する意識改革は重要である。私はいつもそれを訴えている。
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