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コラム「研究員のココロ」

お客様の満足度向上に向けて<前編>
~地域金融機関の場合~

2006年10月23日 紀伊信之


1.全国一斉に「満足度調査」

 今年の5月から6月末にかけて、全国の地方銀行、信用金庫等、地域金融機関がいっせいに「お客様アンケート結果」「利用者満足度向上に向けた取組み」といったタイトルのレポートをホームページ上に公表しました。2005年8月の金融庁の呼びかけをきっかけに、多くの金融機関が昨年の秋から今年の春頃にかけて、何らかのかたちで、利用者の満足度を測るアンケート調査を実施しています。従来から、来店客向けに簡単なアンケートを実施したり、ATMコーナーにアンケートはがきを置いている金融機関も少なくありませんでしたが、これほど数多くの金融機関で、「利用者の満足度」を大規模かつ総合的に把握しようという試みが行われたのは、今回が初めてといってよいでしょう。
 法人・個人を問わず、お客様の満足度を高めることは、地域での競争で一歩ぬきんでるために、より重要になることは間違いありません。今後、これまで以上に、お客様が主体的に金融機関を選ぶ場面が増えていくと考えられるからです。意図したお客様に、意図した商品・サービスを利用し続けていただいたり、新たな商品やサービスを利用していただくためには、そのお客様の「満足」を獲得し、「お客様から選ばれる金融機関」にならなければなりません。従って、お客様の満足度を高めることは、経営の中核に位置付けるべき主要な課題といっても過言ではないのです。

 この点を踏まえた上で、今後、お客様からいただいた貴重なご意見に対して、どのようにお応えしていくか、ということが各金融機関に問われているのです。お客様の満足度を把握したり、お客様の声を聞くことは、あくまで現状を把握し、問題点を浮き彫りにするという意味での入り口に過ぎません。現在は各金融機関が同じスタートラインに立った状態と言えます。勝負はむしろ、これからです。

2.お客様の声に応える

 お客様のご意見に対してお応えしていくにあたり、大事なことは多々ありますが、(1)収益の視点からお客様の満足度をとらえなおすこと、(2)対応すべきテーマを戦略的に選びとること、(3)Plan→Do→Check→Actionのサイクルとして実践に落とし込むこと、の3点が特に重要だと考えています。

(1)収益の視点からお客様の満足度をとらえなおす

 最大のポイントは、取引の拡大など将来的な収益に貢献する、戦略的な指標として、「お客様の満足度」を明確に位置付けることです。具体的には、「このお客様群では、こういう点で満足度が高ければ、お客様一件あたりの取引額が高まるはずだ」「長年取引してくれていて、かつ満足していただいているお客様は、新たなサービスの利用率も高いだろう」といった、満足度と収益の関係の「仮説」を描いた上で、満足度の向上に取組むことが肝要です。これは、あくまで「仮説」にしか過ぎませんが、この「仮説」をきちんと描くか否かで、今後の取組み度合いや、取組みの内容は大きく変わってくるはずです。「収益と顧客満足の関係」を曖昧にしたままだと、「お客様に満足していただくこと」が、あたかも日常の(収益を追う)事業活動とは切り離された、別の課題のようになってしまい、掛け声のみに終ってしまう恐れがあります。むしろ、「事業活動の全ての分野で、活動の焦点をお客様の満足度に当てる」くらいの覚悟で取組まなければ、目に見えた成果を得ることは難しいのではないでしょうか。
 ただ、注意が必要なのは、お客様に満足していただくことが収益に貢献するといっても、それは、たちまちの(例えば今期の)業績に寄与するかどうかはわからない、という性質のものだということです。お客様の満足度の向上が、成果となってあらわれるまでにはある程度の時間を要する可能性が高い、ということを覚悟しておかなければなりません。それだけに中長期的な取組みとして、目標と施策を練った上で、腰をすえて取組む必要があります。これについては後に(3)で詳しく説明したいと思います。

(2)対応すべきテーマを戦略的に選びとる

 何らかの調査を実施された金融機関では、お客様の様々なご意見やご不満を前に、「さあ、どこから手をつけたものか」とお悩みのことだと思います。ある程度すぐに対応が可能な改善レベルのテーマもあれば、金融機関としての戦略や体制そのものを変えなければ対応できない改革レベルのものもあるでしょう。これらの全てについて対応することは現実的に困難であり、優先順位付けがどうしても必要になります。
 実は、この「優先順位の付け方」こそが、各金融機関の「戦略」に他なりません。公表されている他の金融機関の調査結果をご覧になっていただければわかることですが、お客様の評価やご不満の点について、金融機関ごとにあまり大きな差はないように見えます。これに対してライバルと同じような手を打ったのでは、競合金融機関との違いが打ち出せません。
 「この点は次の課題として、まずは、こういうお客様の、こういうご不満を重点的に解決しよう」というメリハリが必要です。これはすなわち、自分のところの強み・特長を明確にし、その強みに磨きをかける、ということです。
 ユニークな金融機関として、地域での競争から一歩ぬきんでるためには、「とりあえず手のつけられるところから改善していく」という消極的な対応ではなく、積極的かつ戦略的に、改善・改革すべき点を選び取ることが不可欠ではないでしょうか。繰り返しになりますが、こうした優先順位をつける際には、「将来的な収益への貢献度合い」という視点が欠かせません。

(3)Plan→Do→Check→Actionのサイクルとして実践に落とし込む

 金融機関に限らず、「お客様の満足度」や「CS」といったテーマは、目に見えにくいものであるだけに、単なるスローガンや一時のキャンペーンで終ってしまうことが多いのも事実です。これに真剣に取組むには、きちんとPlan→Do→Check→Actionのサイクルとして実践に落とし込まなければなりません。中でも、PlanとCheckの二つがキモになります。
 ここでいうPlanとは「この点については、3年以内に、ここまで改善するんだ」といったお客様の満足度に関する「目標」を定め、それを達成するための「施策」を検討することを指します。また、その結果として、どのような収益への貢献が得られるかも仮説としてPlanの中に組み込んでおきます。お客様の満足度についての「目標を定める」というところが、満足度の向上を単なるスローガンに終らせないためのポイントです。期限と目標を定めることで、施策が現実味を帯び、達成度の確認や、後からの振り返りもできるようになるからです。
 このときの目標は、わかりやすく、共有しやすいことが理想です。例えば、「この項目の不満度を10%から5%にする」、「外部のランキングのこの項目で何位になる」といったように、様々な方が具体的にイメージできるものが良いでしょう。

 Planをたて、実行(Do)に移したら、前述のようにあらかじめ描いておいた仮説通りに、満足度の向上が具体的な成果(収益)につながっているかどうかをモニタリングした上で、活動を総括することが必要です。同時に、「力を入れて変えた・改善した」と思っていることが、きちんとお客様に伝わっているのか、改革・改善に向けた施策の方向性はお客様の期待とずれていないか、といったことを、お客様の目線からきちんと検証(Check)しなければなりません。「これがお客様のためだ」と思って色々な手を打っても、それが勝手な思い込みで終っていては意味がありません。Checkのプロセスでお客様の声を組み込みながら、時には活動の軌道修正を行い、お客様のニーズとのギャップを少しずつ埋めていくことが必要です。評価をするのはお客様である、ということを忘れてはなりません。

 アンケート調査をはじめとするお客様のご意見を吸い上げる仕組みの主な役割は、この「お客様目線でのCheck機能」です。従って、これらは単発の取組みではなく、継続的な「仕組み」として行っていくことが不可欠なのです。
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