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コラム「研究員のココロ」

対話(ダイアログ)をもっと広めよう

2005年11月21日 加藤彰


1.対話と体験共有の必要性が高まっている

 ミドルマネジャーかその候補生の方々(昔からある肩書きでいうなら、課長、係長クラス)と、ご自身の所属する組織の問題点について議論する機会が多い。そのときにまず間違いなく登場するのが「本社方針が不明確」「役割分担が不明確」「知識共有ができず、個人任せ」である。どこの会社でもほぼ同じである。
 実は、ここから先も、会社によって大差無い。よく調べてみると、詳細な方針が配られていたり、精緻な職務分掌があったりする。「明確になっているじゃないですか」と申し上げると「でも、あんなものは役に立たないんです」。無い場合には、「それなら、皆さん、役割分担を○○本部長がビシッと定めてくれて『明日からこれにしたがって業務しろ』と言ってくれたら、ハッピーなんですね?」と尋ねると、「いいや、ハッピーではない」と仰る。
 結局、目的意識共有も、役割分担も、知識共有も、精確に文書化すれば皆の納得度が高まるというものではないのである。文書化できるものはしつつも、それと並行して、顔をつき合わせて話し込んだり、同じ体験をしたりすることが必要だ。企画と開発と営業が、新しい商品についてイメージが食い違い、けなし合うのも、ペラペラした企画書やパンフを使ってコミュニケーションコストを安く済まそうとするからである。しっかり話し込んで、一緒の時間を過ごしていればそんなことにはならない(注1)。
 さらに言えば、話し込み、体験を共有して初めて《生まれて》くる意識や答えや知恵もある。メンバーの内の誰かが以前から持っていたわけではない意識や答えや知恵である。「話し合ってみなければ/やってみなければ、わからない」時代になったのだ。少数の賢い人が計画を立案し、それを皆に指示すれば済む時代が終わりかけているのだ、と言ってもいい。
 組織変革というもっと大きなテーマにおいても、危機感を共有することや、トップが示したビジョンを組織成員が《自分ごととして受容する》こと、あるいは変革を実際に進めるコア人材が横の連携をつくること、が極めて重要な要素として認識されている(注2)(注3)。これらを実践するためには、対話と体験共有が必須なのである(紙面に印刷されたビジョンが配布されて手元に届く、そのときに私たちが持つ《他人事感》を思い浮かべてほしい)。


2.どんな対話が求められているのか?

 とはいえ、時間がない、時間がない、と言われる今日この頃である。体験を共有するだけの時間は、誰しもが取れるわけではない。どうしてもと言われれば、まずは対話から着手することになろう。
 しかしながら、「たかが対話。話し合いをすりゃいいんだろ」では済まされない。普段の私たちの会話は、互いの意識を共有して一緒に新しい方向性や知恵を見つけていくような対話にはなっていないからである(注4)。会話の中で、誰かが「○○はどうしたらいいのだろう?」と言う。たいていはそこで他の誰かが「ああ、それにはこうすればいいんだよ」と既存の知恵を解説して終わってしまう(注5)。もっと他の可能性や観点は無いのだろうか、という探索の方向へ向かわない。
 ここで我々が求められているのは、互いの考えを深め合う対話である。出てきた意見にいちいち正しい/正しくないの評価をするのではなく、また特定の答えをあてがうのでもない、探求し続ける会話形式である。これをダイアログと呼ぶ。
 では、ダイアログとはどのようなものか?
 ピーター・センゲらが頁数を費やして解説してくれているが(注6)、残念ながらそれ以外に良い日本語の解説書というのが意外に存在しない。さらに悪いことに、ピーター・センゲらの解説は、かなりとっつきにくい。少々引用すると:
ダイアログの目的は、探求のための「器」もしくは「場」を確立することによって新しい土台を築くことである。その中で参加者たちは、自分たちの経験の背景や、経験を生み出した「思考と感情のプロセス」をもっとよく知ることができるようになる。
 ダイアログを行うときは、言葉だけでなく、言葉と言葉の「間」にも注意を向ける。また発言の内容だけでなく、そのタイミングにも注意を払い、声の響きや調子も意識する。さらに、それらの要素だけではなく、「場」そのものの意味にも注意を向けるようにする。
(・・・)
 『ダイアログ』の場づくりとファシリテーションは、それ自体がひとつの修練である。その方法を理解するためには、ダイアログを大切にする気持ちと謙虚さが要求される。その人がどのくらいのレベルで出発するかにもよるが、これらの能力を育てるには1年もしくはそれ以上の時間が必要になるかもしれない。それに熟達することは生涯の仕事である。
これを読んで、「よし!私たちもダイアログを試してみよう」と大胆にも思える人がどれぐらいいるだろうか。普通は怖気づく。
 「組織を変えたい!」という熱い思いを胸に秘め、とにかく何かとっかかりをつかみたいと切望している人たちには、もっと初歩的なレベルのダイアログで充分だと思う。


3.自分たちでやってみてコツをつかむ

 さきほど、「やってみなければわからない」時代になった、と言った。それならば、ダイアログも自分たちでやってみなければ、これ以上は何も言えない。机の上で「初心者向けダイアログ解説はいかなるものか?」を思索していてもしかたない。
 幸い、私は、ここ一年ほど、「学習する組織」に興味のある面々が集まった「L-CoP」(Learning Organizationに興味のある連中のCommunity of Practiceだから、こんな名前になっている)という勉強会に参加している。ここでさっそくダイアログをやってみることにした。
 最初は違和感続出である。「議論の落としどころがないなんて落ち着かない」「なんかぐるぐる頭が回ったまま終わってしまった」。まるで、初めて自転車に乗った人が「こんなものはすぐに倒れてしまう」と文句を言っているがごときだ。
 それでも、何回も挑むうちに、少しずつ慣れてきた。今では、皆が、対話の漂う感じ/浮遊感を楽しめるようになり、1時間もぐるぐる対話しているとたいていは「あの考え方は新しい発見だった」というお土産を持ち帰れるようになっている。
 この自分たちの体験をベースに「ダイアログに初めて取り組む人たちが押さえておくと良いポイント」をまとめたのが以下である。
○ダイアログとは?
  • ダイアログとは、自分の考えをオープンに開示しつつも、自分の主張や立場に固執せず、自分と相手の考えの背景を探求しながら、相互理解を深めるための会話
  • 答えは参加者の中にある「のではない」。ダイアログにより答えが生成される。答えを引き出すのではなく、皆で作る(見つける)
  • 目的は結論を出すことではなく、テーマの意味を探求し、互いの考えを深め合うこと

○ダイアログのイメージ
  • 「全力をあげてする雑談」「炉辺の語らい」「海を漂うような語らい」

○ダイアログから得られるもの
  • お互いへの信頼/相互理解
  • それまで気づかなかった共通の目的、見方を感じとること
  • 自由に話し合った、という実感だけでも立派な収穫

○やり方の工夫
  • 最初に全員が短く一言ずつ話す(チェックイン)
  • 広めのテーマ/なるべく全員が対等になるテーマを設定する。例えば「幸せに働くとはどういうことか?」など。逆に、小さいテーマだと、それについて知識量の多い人の独壇場になりがちである

○皆の心構え4ヶ条
  1. 自分の意見を主張する:まずは自分の考えを言わないと対話が始まらない。他人の立場をあれこれ指摘する前に、自分の考えや、そう考える背景を、皆に発信する
  2. 他人の意見を尊重する:自分の意見を言うと同時に、他人の意見とその背景も聴いて、理解しようとする。「そういう考え方もあるか」と共感して他人の意見を受け止める
  3. 判断を保留する:「自分が正しくて他の人が間違っている」という考えから離れる。相手の意見の欠点や弱点を探したり、自分の立場や見解に固執したりしない
  4. 探求プロセスであることを意識する:結論を急がず、手っ取り早い結論に飛びつかず、問いかけ続ける。また、時折訪れる沈黙を恐れない。自分たちの中にある思い込み、常識、暗黙の了解を疑い、自説が変化することを容認する

「これならやってみようかな」という気持ちになっていただけるだろうか?「ダイアログ」というカタカナ用語では社内に受けが悪いという方は、その単語を使わずに「こんな対話のしかたがあるのだが、やってみないか?」と試してみてほしい。
 ちなみに、普段私たちが慣れ親しんでいる「ディスカッション」は、「収束をめざした討議」「意見の優劣の評価、選別の場」と言えば、ダイアログとの違いがイメージしやすいと思う。
 一方、いわゆる普通の雑談は、皆が探求し続けるなどということはない。他人の意見を真剣に聴くこともない。要は「自分が気持ちよくなるためのおしゃべり」に過ぎない、というのがL-CoPメンバーの結論である。


【参考文献】
(注1)
西村佳哲『自分の仕事をつくる』晶文社

(注2)
ジョン・P・コッター『企業変革力』日経BP社

(注3)
伊丹敬老/沼上幹/関満博/加護野忠男『知的武装講座』プレジデント社

(注4)
内田樹/平川克美『東京ファイティングキッズ』柏書房

(注5)
高間邦男『学習する組織』光文社新書

(注6)
ピーター・センゲ他『フィールドブック 学習する組織「5つの能力」』日本経済新聞社
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