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コラム「研究員のココロ」

CSRを梃子にしたイノベーション(1)

2005年10月24日 柿崎平


1.広がりを見せるCSR

 わが国においても、CSR(Corporate Social Responsibility;企業の社会的責任)をビジネスの主要なアジェンダとして捉えることはもはや常識化しつつある。CSRレポート、社会環境報告書、環境報告書など、名称は様々だがCSRに対する自社の一連の取り組みやその成果を公表している企業は急増中であり、大企業に限れば、そうした情報を一切公表していない企業を見つけ出すほうが難しいくらいだ。報告書にしておらずとも何らかの形での情報発信を行っている企業が大半ではないだろうか。さらに、「CSRランキング(日経ビジネス2004年7月26日号)」や「企業市民賞(朝日新聞社)」といったジャーナリズムの動きも追い風となっている。さらには、地方自治体などでも、CSRの視点を産業振興や都市政策に活かす方向を検討するところが出てきている。また最近では、企業の社会的責任をテーマにした映画(ザ・コーポレーション)まで一定の関心を集めるまでに至っている。


2.CSR担当者の採る2つの道

 このように、CSRに対する‘追い風’が吹く中で、一方では、自社が「CSRに取り組む価値」を改めて問い直す局面をむかえている企業もある。環境への配慮、コンプライアンスの徹底、製品・サービスの安全確保等をはじめとして、一般に必要とされる取り組みを推進してきた企業の担当者は、「わが社のCSRの‘この先’」を展望する必要に迫られているのだ。その背景には、「CSRはもうこれで十分ではないか」「そもそもCSRに取り組む費用対効果はどうなのか」、もっと言えば、「CSRに取り組んで儲かるのか(≒どんな立派なことを言っても商売が上手くいかなくてはもともこもない)といった根強い見方があるようだ。

図1
図

 このとき、CSRの担当者が選択できるオプションは大きく2つある。1つ目は、「一般に必要とされることを、ほどほどに取り組んでいく道」だ。必要最低限の取り組み(→図1のMust領域)を確実に推進していくアプローチであり、いわば、社会に存在を許されるための必要条件としてのCSRだ。防衛的な対応と言ってもよい。2つ目の道はもっと積極的なスタンスをとる。つまり、CSRに取り組むことで新たな価値創造を目指していこうとするアプローチだ。一般にはCSRの必須条件とは言えないものでも、自社の経営戦略等との関係の中で、戦略的にCSRに取り組んでいくもの(→図1のCan領域)である。この部分は、取り組んでいないという理由で社会から批判を受けることはない。つまり、Must領域に加えて、Can領域まで取り組むか否かは当該企業の考え方次第であり、言ってみれば社会からの尊敬を獲得していくためのCSRとも解釈できる。明示的規制の有無に関わらず積極的に環境対応製品の開発を手掛けたり、あるいは通常のビジネスシーンとは異なる場面で自社の様々なリソースを活かし社会・環境への働きかけを行ったりするなどの自主的な取り組みであり、その基底には中長期的なビジネス創造という視点がある場合が多い。環境問題への企業対応の文脈で言えば、グリーンマーケティングあるいは‘Enviropreneurial(注) Marketing’と呼ばれてきた経営行動だ。

(注)
Environment(環境)とEntrepreneurial(起業家的)の合成語。[出所]Menon, Anil, and Ajay Menon. "Enviropreneurial Marketing Strategy: The Emergence of Corporate Environmentalism as a Marketing Strategy." Journal of Marketing 61 (January 1997): 51-67.

3.Can領域の取り組み例

 さて、CSRの担当者は、いずれの道を歩むべきなのだろうか。それをどのように判断すべきなのか。
 企業の立場では、やらなければならないこと(Must領域)は比較的見えているはずであるが、「CSRの枠組みでさらにどのようなことができるのか(Can領域)」についてはよくイメージできない、というのが実情ではなかろうか。たしかに、Can領域は各企業の考え方に依存する部分でもあり、どの企業にも無条件で適する取り組みはないのかもしれない。しかしながら、指針となり得る考え方、視点はある。CSRが持つ潜在力を発揮させていくための視点だ。
 Can領域の具体的取り組みの1つとして「本業による社会貢献」がある。トヨタのプリウスが典型的な例だが、そこにはいくつかのタイプがあるようだ。

表

 また、われわれの調査によれば、Can領域への取り組み方は、業界リーダー企業とそれ以外の企業とでは違いがあるようだ。すなわち、リーダー企業は、本業のみならずCSRに対しても比較的フルライン戦略をとることが多く、なおかつ、「本業による社会貢献」に取り組んでいる例も多いことが分かった。リーダー企業が「本業による社会貢献」に取り組む論理としては、「トップ企業の責任」、「市場を誘導する責任」、「(自社と社会の双方の)ベネフィットの相対的大きさ」が考えられる。Can領域への取り組みに影響を与える要因として、市場内地位や事業戦略などが存在しているようだ。


4.CSRを梃子にした企業イノベーションの誘発

 これだけを見ても、CSRのCan領域での取り組みには様々な可能性があることが分かる。しかも、それは単に「批判を避ける」「リスクを回避する」といった防御的な側面のみならず、社会価値や環境的価値はもとより、企業自身の業績にも貢献できるメカニズムが備わっているようだ。さらに言うならば、Can領域への取り組みは(もちろんCan領域に取り組む前提としてMust領域も同時に取り組む)、企業そのものの組織カルチャーを変革していく可能性も秘めている。CSRへの取り組みを梃子にしたイノベーション誘発は現実的な戦略オプションとして捉えられてよいだろう。
 こうした考え方を、EUではCSR Corporate Social ResponsibilityからCSO(Corporate Social Opportunity)と表現している論者もいるが、その内容も含めて、次回以降でさらに具体的に述べてみたい。
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