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コラム「研究員のココロ」

すべては組織風土の変革のために(3)~ 組織風土変革にどう臨むのか ~

2006年09月25日 水間 啓介


1.組織風土変革は活性化のことか?

 組織風土変革を“社内活性化”のこととする考え方がある。社員にやる気を起こしてもらうために、モチベーションの向上と働きやすい職場環境づくりを行うという狙いである。社員の働きやすい環境づくりに会社が積極的に取り組むということは大変喜ばしいことである。ただ懸念されるのは、活性化策の導入自体が目的となっていまいかということである。その理由は、背景や目的が社内で共有化されていないままでの活性化は一過性のものになりかねないと危惧するからである。なぜ活性化をしなければならないのかということについて社員の声を聞いてみると、人それぞれに、また会社の意図に反した捉え方がなされていることに驚かされることがある。どんな活性化策をやるのかということよりも、まずなぜ活性化をしなければならないのかについて、会社の置かれた状況や会社がこれから到達しようと目指すところについて社内での活発な議論を通じて社員の意識を揃えることに精力を注ぐことが先決であると考える。
 「組織変革」に対して意識的に「組織風土変革」と捉えたい。つまり「組織改革」は組織図を変えること、その他仕組みを変えるというハード面のことと捉えられがちであるのに対し、「組織風土変革」は仕組みのみならず組織のソフト面の改革、すなわち人の意識や行動まで変えることを含めた言い方である。

2.欧米流のマネジメント手法を、欧米の経営風土という脈絡から切り離して導入していないか?

 欧米流のマネジメント手法を導入してみたものの、うまくいかないという話が数多ある。うまくいかない原因の多くが、制度の表面的な導入にあるように感じる。つまり、欧米流の組織風土に基づくマネジメントの手法を、欧米の経営風土という脈絡から切り離して導入していることに原因があるという見方である。欧米流のマネジメント手法は使えないとの結論を出す前に、そのマネジメント手法が何の狙いで、どういう風土のもとで生み出されたものであるかの見極めが必要であると考える。仕組みを真似てみても脈絡に沿わないものでは効果は期待できないであろう。そもそも欧米とは異なる経営風土であるのだからうまくいくはずもない。
 例えば「成果主義」の是非が問われている。日本で導入されたのは、デフレが進行する中で右肩上がりの成長期のように全員を昇給させることができなくなった結果として導入された経緯があり、「成果主義賃金」に重点を置いたものと受け止めている。人により昇給に格差をつけなくてはならないのだから、評価制度を透明性のあるものにしなければならない。それでMBO(目標管理)やコンピテンシーに基づく評価制度を入れた。「この評価制度ではっきり説明がつけられる!?」 “昇給に格差をつけるための評価制度”という発想であれば、評価を意識した行動が見られるようになる。本来は成果を生み出すヒトを育てる欧米のマネジメント手法であったものが、成果を出さないマネジメント手法になってしまいかねない。 成果主義を入れれば、社員がやる気になって会社の業績が上がると考えられがち。制度ができれば導入・運用はそれほど難しくはないということではなかろう。マネジメント手法とは魔法の杖のように捉えられがちであるようだ。
 他社が○○をやっているから我が社も遅れまいとして○○を導入するといった横並び意識ではなく、自社の組織風土・組織能力をよく見極めることが求められている。組織風土や組織能力の妨げとなっているものを理解し、その解決に向けて社員が一丸となって取り組むことが大事であって、手法はその際の選択肢つまり手段にすぎないということである。自社の風土を考えて、いちばん合ったものを使うというスタンスが大事であると考える。会社独自の課題は、流行の手法を使ったからというよりも、課題解決に向けて社員の意識を集中し、皆で知恵を出し合って取り組んだことで解決できると考えるからである。後から振り返って考えてみたら、○○手法に近かったということである。しかし根本的に異なるのは、○○手法の表面的な導入ではなく、社内の必要性の結果生み出した手法であったということ。お仕着せのやり方では組織変革のDNAは根付かないのではなかろうか。

3.組織風土変革にどう臨むのか?

 組織風土変革に取り組まなくてはならない理由を社内で共有することが必要であると考える。「現場はこんなに忙しいのだから会社は儲かっているはずだ。それなのに変革をわれわれに求めてくるのには会社には何らかの魂胆があるのではないか?会社はまた新しいことに取り組んでいる。首をすくめてやり過ごそう。」 社員の間にそのような意識と行動が表れていないだろうか?このような誤った理解がなされたのでは、会社が変革のためにいくら努力しても成果につながらないであろう。また、組織風土変革によるメリットを、社員の目線で社員に説明できなければ、社員からの支持は得られないであろう。社員にコミット(自分のこととして積極的に取り組む)してもらわなければ変革の成果は出てこない。
 変革に取り組む経営側が動かない社員に対して無能力呼ばわりするという話を耳にすることがある。無能なのではなく動けないというほうが当たっていると考える。今のやり方に慣れている彼らがリスクを冒してまで新しいやり方に取り組んで、うまくいかなかった時の不安にどう向き合うべきか?新しいやり方ができるようになるには何をすればいいのかという社員の不安にどう応えようか?新しいやり方ができるようになった社員を取り巻く世界はどう変わっているのかをどう説明しようか?経営側には社員の感じている目先の不安に真摯に向き合った上で、夢を語ることを期待したい。
 戦後の復興から立ち上がって、アメリカに追いつき追い越せといった共通の意識があった時代、モノがなく豊かさを求めて団結できた時代では、背中を見せていれば人はついてくる時代だった。現在はさまざまな価値観を持つ人々がおり、彼らを動機づけるには、コミュニケーションを活発にして彼らの悩みを受け止め、夢を語って導くことが求められる時代になってきている。経営側の意識と行動の変革が期待される。
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