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コラム「研究員のココロ」

各国における介護施設のホテルコストの位置づけについて

2006年09月15日 岡元真希子




 日本の介護保険で「施設サービス」として区分されるのは介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、介護療養型医療施設の三施設です。これとは別に、制度上は在宅サービスに区分されますが、入居型のサービスとして特定施設入所者生活介護(有料老人ホームやケアハウスなどに入居して受ける介護)や認知症対応型共同生活介護(認知症の高齢者のためのグループホームに入居して受ける介護)があります。一般の人からすると、例えば有料老人ホームについても、「施設に入った」ように見えるかもしれませんが、公的介護保険制度から給付されるのは、その場所で提供される「介護」にかかる部分であり、一般の集合住宅や戸建住宅に住んでいて訪問介護や訪問看護などを受けているのと同じ扱いになります。ここで、非常にあいまいになるのが、いわゆる「ホテルコスト」といわれる費用です。例えば、特別養護老人ホームにいれば、家賃や水道光熱費にあたる部分も介護保険がカバーする対象になりますが、有料老人ホームや在宅で生活する場合は自分で負担しなくてはなりません。
 これについて、諸外国では介護施設のホテルコストをどのように位置づけているのでしょうか。

 日本より5年早い1995年(注1)に公的介護保険制度が始まったドイツには、入所型ケア施設(Pflegeheim)や高齢者ケア施設(Altenpflegeheim: APH)と呼ばれる介護施設があり、介護保険の適用を受けることができます。給付額は介護度に応じて月額約1,000~1,700ユーロ、平均で約1,100ユーロとなっています(2004年時点)。しかしこの上限額を超えるような手厚い介護を受けた場合は、利用者負担となります。また家賃・食事代などのホテルコストは自己負担となります。施設によって異なりますが、介護保険を利用しても、入所者の自己負担額は900~1,400ユーロと言われています(注2)。ただし収入や資産に基づいて、住居手当法に基づく家賃補助を受け、介護施設の家賃に充てることができます。
 また、フランスでも2002年から税を財源とした介護手当制度があります。高齢者入所施設(EHPAD)や長期療養病床(SLD)と呼ばれる介護施設に入所している要介護高齢者は、介護手当を利用することができます。しかしこれらの介護施設における費用は、「滞在」「介護」「保健医療」の3つに区分されています。ここでも、ドイツと同様に、介護費用は介護手当によってまかなわれますが、滞在と呼ばれる家賃や食事などのホテルコストは利用者本人が負担し、保健医療については疾病保険から支払われます。利用者負担額は施設によって異なりますが、平均的な施設で1,500ユーロ、設備や立地やサービス内容などによって900~2,000ユーロ程度の幅があると言われています(注3)。ただしフランスにおいても、低所得者に対する配慮として、社会扶助で滞在費を払う仕組みがあります。また、介護費用についても、低所得者であれば自己負担がゼロに、高所得者であれば自己負担が8割(介護手当を受けられるのは介護費用の2割)になるなど、低所得者に手厚く、高所得者には自助を求める仕組みになっています。
 ドイツ・フランスに共通していることは、介護にかかるコストは介護度に応じて保険給付や手当として提供されるけれども、家賃や食費など居住にかかるコストは自己負担であるということです。さらに、施設の利用額やサービス内容に幅がある点も似ています。
 なお、特別医療費補償制度という慢性期医療の保険の中で高齢者介護も提供しているオランダ、一般財源(税)で行政サービスの一環として介護を提供しているイギリスやスウェーデンにおいても、高額所得者に対してはホテルコストは自己負担とし、ただし所得に応じて自己負担額を軽減するという仕組みをとっています。

 日本の介護保険制度は、2005年10月の制度改正によって、施設入所者の自己負担額が引き上げられました。これについて賛否両論があると思いますし、移行期における矛盾や不満もあると思います。しかし、ホテルコストを介護にかかる費用と別に捉えることは、より多様なサービスを可能にするのではないでしょうか。生活をしていく上で必要な介護については、どの施設に入所しても同じように受けられますが、居住に関する部分については多様な選択肢があるということです。少し高いお金を払って食事のおいしい施設を選んだり、食事はかまわないので静かな個室のある施設を選ぶといった具合です。在宅で暮らしている場合は、限られた収入の中から、家賃や光熱費にいくら、食費にいくらと振り分けて使っているわけですから、介護施設を選ぶときにも自分の好みに合わせて、生活のどの部分に重点を置くかによって施設を選ぶのは同じことと言えるでしょう。現在は、もともとホテルコストと介護費用を別扱いにしている有料老人ホームでこのような選択肢がありますが、特養・老健・療養病床などの介護保険施設でもこのような考え方を導入することによってサービスの内容を多様化させる余地が広がるでしょう。
 諸外国が介護コストとホテルコストを分けて、介護を公的給付・居住を自己負担にするというのは、諸外国がそうしているから、というよりも、施設が在宅に近い環境に近づくための考え方の転換なのだと思います。その上で、セーフティネットとして、低所得者に対しては補う仕組みを設けていくことが必要だといえるでしょう。

注1 在宅介護サービスの開始は1995年、施設介護は1996年
注2 全国厚生労働関係部局長会議資料 2005年1月20日 老健局
   http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/bukyoku/rouken/1.html
注3 日本総合研究所 『介護施設等の費用体系に関する総合調査報告書』
   2004年3月
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