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コラム「研究員のココロ」

なぜかくも目標管理制度はうまくいかないのか

2006年09月04日 久保田 智之


・成果主義人事制度の普及
 1990年代の末ごろから、成果主義人事制度が一斉に普及した。それが日本企業にとって良かったのかどうかは今のところ評価が定まってない。景気拡大の局面に差しかかっている現状で改めて検証する必要があると思われる。

 ところで、成果主義人事制度を導入するにあたって検討された主な人事テーマは、まず評価制度の改定があげられる。具体的には成し遂げた成果を納得性のある評価とするために目標管理制度を取り入れたこと、及び曖昧な能力評価に代わって行動ベースで評価が可能なコンピテンシー評価を取り入れることであった。次に検討された人事テーマは、短期決済的な色彩の濃い個人面での賃金・賞与制度の導入と降給・降格制度の導入にあたっと考えられる。この中でも、目標管理制度は評価制度に関して切り札のように取り入れられることとなった。しかし、現状では運用面で行きづまりを見せているのではないかと思われる。

・目標管理制度の普及実態
 「労政時報第3681号/06.7.14」(全国の上場企業および非上場企業(資本金5億円以上かつ従業員500人以上)にアンケート)によれば、目標管理の導入は約8割であるが、目標管理制度の見直しに関しては56.9%が「見直す予定あり」となっている。
 目標管理制度の運用上の問題点として挙げられる代表的なものとしては、目標設定基準が不明確なことにより個人目標のバラツキが生じていること、部下任せの放任管理で管理者のフォローがないこと、処遇反映に力点が置かれ人材育成や動機付けの観点が弱いことがあげられている。

・目標管理制度を円滑に運用するためには…
 これらの問題点は、形だけをとりあえず急いで整えた結果として、実際の運用面において自社の状況に合わないことが生じたためにおきたと考えられる。このための対策としては主に3つほど挙げられる。
 
  1. 「成果」の本質を見極めること
     評価することが前提として、目標管理制度が導入されているので、評価できるような内容になっていることが重要である。しかし、本当に果たさなければならない仕事は何なのか、何をすれば仕事を果たしたと言えるのか。評価することが頭にあるために、これらのことがなおざりにされてしまう。その点を是正することがまず必要である。


  2. 目標設定時に「何を」と「どのように」を明確にすること
     目標管理を実施する段階で最初につまずくところが、自分の目標を期初にたてると言うところであると思われる。この点が曖昧になるため、期末の評価が納得性のあるものとならなくなる。目標項目の数値化・客観化をはかることで達成基準を明確にすること、また手段・方法がよく考えられていないためにおきる目標管理のなおざり現象がある。どのように自分の仕事を進めていくのかを掘り下げて具体的にすることが必要とされる。


  3. 目標管理制度は、人事考課のツールではなく、マネジメントのツールであることを確認すること
     目標管理制度の本来の趣旨は、組織目標の遂行にある。そのために、人事制度のツールではなく、マネジメントのツールである。したがって、仕事をうまく進めていくことが目標管理を実践することであるのであって、評価のためだけに実践するのではないことを全員で確認することが必要である。

 代表的な目標管理の運用上の問題点に対して、回答として述べられることはこのような趣旨が多いと思われる。この指摘自身は間違ったものではないし、目標管理制度を導入されている組織(営利法人・非営利法人を問わず)は、改めて考え直しながら、円滑な実施にトライし続けなければ効果はいつまでたっても上がらないと思う。先のアンケートでも、処遇へのダイレクトな反映、管理職、一般職に対する目標管理研修の実施、シート例やマニュアルを配付し制度に対する理解を深めるなどが円滑な運用に向けて効果があったとされている。実際、私どもが目標管理研修を実施する場合でも、組織の課題、組織も目標設定を時間をかけて考えること、一般社員についても自分の目標を改めて振り返ることにより課題が明確になるケースが往々にしてある。

 しかし、現在日本企業がおかれている状況で、目標管理制度は人事制度・マネジメントの要として位置づけ、固執していくべきものなのだろうか…?

・ドラッカーが目標管理を提唱した時の前提条件
 ドラッカーが提唱した目標管理制度を改めて振り返ってみると、当時の企業組織が置かれていた前提条件を確認しておく必要がある。まず、企業における組織は、経営担当者が自然に一定の方向に向かって仕事を行うようには作られていない。むしろ逆に、この組織は仕事を目標からそらせるような力が働いている。つまり、当時の企業組織の特徴は次のとおりである。
  
  1. 管理者の多くが専門分化していること

  2.   
  3. 組織が階層的になっていること
      
  4. 各層によって実際の仕事や思考の様式が異なっている結果、管理者層の内的結合が崩れる

そのため正しい目標に従った経営(マネジメント)を行うためには、それ相応の努力が必要となる、と考えた。

 つまり、ドラッカーが捉えていた企業組織というものはピラミッド型組織を想定していたと考えられる。また、そこにおける人材は、機能的な専門家である。(併せて考えると、M.ヴェーバーが言うところの官僚制組織がその基本型であると思われる。)大事な点は、この専門家を放っておくと組織がバラバラになってしまう。そこで、組織の目標を統合するためには、目標の管理を通じて、方向を一致させないといけない、というのがドラッカーの言っている趣旨といえよう。

 次に、目標管理制度の基本思想面から検討する。目標管理の理念は二つある。①目標設定への参画、②自己統制である。つまり、組織目標などを取り決める場合には、職場のメンバーを参画させて共同で決め、納得を作ることが必要である。また、メンバー一人ひとりの自律性を尊重することで、主体的に目標達成に向けて努力させていく。この「主体(自己管理)」という所も大事な点である。

 つまり、組織においてその構成員は抑圧されている。したいことを我慢して、組織のために働いている。だから、(組織の)目標に参画させることによって、モチベーションのアップをはかる必要がある。また、抑圧された(指示命令を受ける)組織構成員は、自分で意思決定することができない立場である。そこでは、指示命令から開放し、自己統制(自己管理)することによってモチベーションのアップをはかることができる、ということがドラッカーの趣旨であろう。

・現在では変化してしまっている前提
 こうして考えると、安易に目標管理制度を取り入れたことだけが、目標管理制度の運用を難しくさせている原因であるとは言えないのではないか。ここでは、3点ほどその原因を仮説として提示する。
  1. 組織構成
     ピラミッド型から管理職を少なくするフラット型の組織へ変化している。組織階層が薄くなり、より直接的にトップの言うことと現場とがつながっている状況にありつつある。また、電子ツールの発達やリーダーのビジョン提示が重視されている状況からみて、実態としてはフラットな形で運営されている。ことさらに、目標の縦の連鎖を強調するより、変化する現場への対応とそこから生まれる具体的な目標作りの方が重要になりつつあるのではないか。


  2. 組織目標への貢献
     目標管理制度では、組織目標のブレークダウン及び目標の縦の連鎖が言われている。それは、個々人が果たすべき貢献の集積、融合体が組織の目標(結果)になっているからと考えられる。
     しかし、最近の企業集団の構成では、組織の目標にコミットするのではない。組織にいるのは、組織にいること自身への共感、理念や人的なつながりに共感している。
     組織の目標を細かく分割して達成させるやり方では、全体の目標達成にはおぼつかない。
    組織の成長(毎年の業績数字の達成)と個人の成長(個々人のキャリア、収入、人生の目的)とが一致しない時代である。組織目標へのコミットがどうしても薄くならざるを得ない状況になっている。


  3. 自律的にすることがモチベーションを高めるとは限らない
     最近の組織における構成員は、拘束されている面が強いというより、もともと自律的な振る舞いである(勝手とも、理解できないとも一部では言えるが)。そういうやり方は拘束されたやり方なので、自分流のやり方をさせてくれ、という状況ではない。むしろ自由にやることを奨励し、結果(のみ)を求めるやり方に変わってきている。

 最近の人材育成のポイントの一つには、共に学ぶということがある。一方的に教育されるのではなく、一緒に学ぶという経験が糧となる。したがって、チームへのコミットや貢献の方が個々人のモチベーションを高める。皆で目標を達成し、自分も成長したと言える成長実感を感じられる方がモチベーションにつながるような状況である。

 こうしたことを良く考えてみると目標管理制度は(いろいろと変化を遂げてはきているが)、従来の姿に戻れば、運用もうまくいく、人事評価としても十分に機能する、ということは必ずしも言えないのではないか。少なくとも、目標管理制度は一粒で何度もおいしいというような万能の制度ではないようである。事前に目標を立てるということが、最近の状況と合っていないのではないかと思われる。今後は、目標管理制度の良い点(PDCAを回し、仕事管理を円滑に行う点)は活かしつつ、目標管理制度に代わる新たな人事評価制度のあり方を考えていかなければならないものと思われる。

以 上

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