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コラム「研究員のココロ」

9.11を振り返って
~戦略分析の視点から~

2006年08月14日 東秀樹


 2001年9月11日 、犠牲者の数は約3000人とされ、テロ事件としては史上最大の被害となったアメリカ同時多発テロ事件から5年が経過しようとしている。
 当時、私はニューヨークでの生活を終え帰国したばかりだった。世界貿易センタービルに航空機が突っ込むという情報がニュース速報で伝えられ始められた時のことは、まだ記憶に新しい。
 この事件を戦争と定義するならば、歴史を通じて誰が勝者で、誰が敗者なのか語られていくことになるだろう。さらに、企業マネジメントの世界では、「戦略」や「戦術」としての視点に置換わる日がくるかもしれない。
 論点は単純なものではなく、多数かつ複合的なものであるべきだが、ここでは、この戦争を以下の3つの視点で論じてみたい。

 第一は、誰が勝者で、誰が敗者なのかといった、結果に関する視点から論じてみる。戦略で捉えれば成果ということになる。第二は、それはどのような競争優位性を発揮したからなのかといった要因からの視点。そして、第三は、戦略における時間差マネジメントの重要性に関する視点である。

 まず、第一の論点として、勝敗を政権支持率から考えてみる。911直前、50%を切っていたブッシュ大統領の支持率が、アメリカの崇高で、人道的な憤激をベースとして、大統領の指導力が国民の注目を浴びることとなり、911後、90%に到達した結果からみれば、アメリカ政権自体は勝者であったとすることができる。ところが、その後、イラク戦争を含めて、ビンラディンが戦略として、絶対主義的な軍事力をベースとしたアメリカ政権のモラルや、新自由主義的なグローバリゼーションに反対する姿勢を示し、アメリカ国民や諸外国に訴え続けてきたことが、今日のアメリカ政権支持率の低下を招いているとすれば、現段階では勝者、敗者ははっきりしない。また、こうした勝敗をアナクロニズムの価値観で判断すること自体が適切ではなくなってきているのかも知れない。

 次に、第二の論点である競争優位性に関して、アメリカの軍事優位性は、圧倒的であるとしても、単一的な競争優位性だけでは勝因(成功要因)にならないことが改めて認識されることになったといえるのではないか。ましてや、逆に「弱さ」を国民や諸外国にアピールし、アメリカ国内から自国の政権に対する支持率の低下を招くことが、一定レベルで効果があったとみると、問題の本質を追求していけば、競争“劣位”であっても効果をあげることが可能ともいえる。

 第三の論点は、前述のように、ある優位性をもとに実行された戦略の成果も、時間の経過によって変わるとすれば、その間、時間差の複合的な影響を如何に管理し、対応するかが非常に重要なポイントになる。
 はたして両者は、この911後の時間差マネジメントを、どのように考えているのだろうか。さまざまな秩序や制度変化のスピードが速く、また複雑化している現在において、この時間差マネジメントは重要かつ難しいテーマである。
 さらに、「物理的な時間差」だけでなく、政府、企業、個人などによって影響を受けるタイミングや反応などの個別スピード感の違い、いわば「個別の時間差」が一層大きくなってきている現在においては、いかに優れた戦略や優位性の発揮であっても、固定化され、時間軸の柔軟性が失われれば、失敗に終わる可能性があることを示唆しているようにも思える。
 つまり、基軸となる戦略を実行していくうえでも、タイミングに応じて随時必要とされる戦略を付加していく、戦略の時間差マネジメントが重要であると考えられる。

 こうした911後の戦略分析をするには、いまだ現在進行形であり、時期尚早かもしれない。今後も、政治、経済、経営など、さまざまな分野で、問題提起がなされ、多くの論争が繰り広げられていくだろう。ただ、個人的には911の概念が、時間の経過とともに一般化され、独創性を持ったものに結論付けられないことを望んでいる。
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