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コラム「研究員のココロ」

経営と直観
~「アナロジー」と「メタファー」~

2006年08月21日 手塚貞治


 「経営ってものは、理屈では割り切れないよ」とは、多くの経営者の方々が口にすることです。至極もっともなことだと思います。「経営はサイエンスかアートか?」という問いは古くて新しいものですが、答えは「その両方である」というところに落ち着きつつあるようです。経営には、ロジカルシンキングやファイナンスなどのサイエンス的スキルだけでなく、絶えず変化する外部環境に対する洞察力や組織メンバーをまとめるヒューマンスキルなど、アート的スキルが必要なのです。換言すれば、経営には、左脳を使う「分析的思考」と右脳を使う「直観的思考」の両者が必要ということです。

 実はこの直観的思考は、我々のようなコンサルタントも活用しているのです。コンサルタントというと、いつも四角四面の分析をしているように思われるかもしれませんが、決してそうではありません。分析的思考と直観的思考をバランスよく活用するように努めているのです。

 では、直観的思考とは具体的にどのようなものでしょうか?下記の2つが代表的なものでしょう()。

・「アナロジー(Analogy)」:類推
・「メタファー(Metaphor)」:隠喩

 アナロジー(類推)とは、ある特定の物事を考えるに際して、別の物事と同じ性質を持っているだろうと推論することです。例えば、他業界の事例から類推するということがあります。システム開発業界は受注型産業だから、同じ受注型産業である建設業界と同じ業界特性を持っているだろう、などと考えることができます。また、成長段階からの類推ということがあります。創業間もないA社は、他のベンチャー企業が経験するのと同様に、資金不足や人材不足で悩んでいるだろう、などと推論できます。

 アナロジーという思考法は、問題の仮説設定の際にとても有効です。調査分析というのは、何らかの仮説設定が前提となります。明確な仮説や問題意識なしに調査分析をしても、主張性のない漫然とした調査結果を生むだけです。まず、類推によって仮説を設定し、そのうえで綿密な調査分析を実施して、その仮説を検証するという態度が必要です。それこそが、効率的かつ効果的な戦略策定に役立つのです。

 メタファー(隠喩)とは、ある物事を考えるに際して、より鮮明なイメージをもつものにたとえることです。典型的なのは、企業経営を歴史や戦争にたとえることです。今でも、企業経営者の中で孫子や司馬遼太郎に根強い人気があるのはそのせいでしょう。

 メタファーはアナロジー同様、仮説設定にも有効ですが、それだけでなく「人を動かす」作用があると言えましょう。一見込み入った状況にあるとき、組織が停滞した状況にあるとき、課題や目標を分かりやすいイメージによって伝えることによって、メンバーを納得させてベクトルを1つにする効果があります。直接的表現を使うのではなく、イメージ化することによって「心に響く」表現とすることができるのです。組織改革や意識改革というテーマでは、有効な手法と言えます。

 直観というと、えてして「思いつき」と取り違えられてしまいます。しかし有能な経営者の直観が妥当な判断を生むように、経験の蓄積から生み出される直観は、きわめて有効な作用を生み出すのです。

 では、経営者でない方々がこの直観的思考を身につけるには、何をすべきなのでしょうか。確かに読書やケーススタディによって一通りのことは学べるでしょう。しかし、実際に自分にとって「使える直観」にまで昇華させるには、「包括的経験」をすることだと思います。小さな仕事でもよいので、それを最初から最後までやり遂げることです。その中で顧客とのトラブルに出くわしたり、チーム内で不協和音が生じたりという、ある種の「苦境」を経験することです。そしてその苦境を理屈を超えたレベルで解決することによって、暗黙知としての直観的思考が研ぎ澄まされていくのです。

(注)両者については厳密にはいろいろな議論があり、単純に並列には考えられませんが、ここではそのあたりは捨象することとします。
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