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コラム「研究員のココロ」

消費者を貴社のマーケティング担当者にしてみては?
~消費者参加型製品開発のススメ~

2006年08月07日 足代 訓史


1. 消費者が企画したヒット商品?
 先日来、自宅のリビングに置く新しいライトを購入しようと色々なお店を探していたのですが、先週末に結局、ある企業がインターネットで販売している商品を購入することにしました。この商品、コードレスの持ち運び自由なデザインで、さらに明かりの大きさも商品の重さも適度と、とてもよくできたもので、購入以来毎日のように気に入って使っています。

 さて、なぜこのような筆者のプライベート・トークを最初にしたのかというと、それはこのライトに秘密があります。このライト、実は、「消費者が参加して」開発されたヒット商品なのです。
消費者の参加、といってもよくマーケティングや製品開発の現場で見られるような、発売前の商品に対する消費者の意見を聞くグループインタビューやアンケートといったものとは違います。私が購入したライトは、その商品の企画段階から消費者が参加して開発が進められたものです。消費者がまさにその企業のマーケティング担当者のごとく活躍して生み出された商品なのです。

 これまで長い間、特に消費財の世界において、製品を企画・開発するのはメーカーであるということは当たり前の事実として捉えられてきました。製品の企画・開発には専門的な知識やノウハウが必要でしたし、企業が消費者の声を効果的に取り込もうにも大きなコストがかかったり、具体的にどのように声を汲み取れば良いかが分からなかったりしたためです。
しかし、近年、私が購入したライトのような消費者参加による製品開発の事例が、消費財の分野においてもいくつか確認されるようになってきました(注1)。製品を企画・開発するのはメーカーである、という常識が少しずつ覆りつつあるのです。


2. 活発化する消費者参加型製品開発
 いま一度、消費者参加型製品開発とは何かを整理しておきましょう。消費者参加型製品開発とは、「消費者(製品のユーザー)が、製品の企画・開発段階から企業の関連活動に参加することによって、製品が開発・商品化されること」を意味します。ちなみに、「消費者」とは、企業の担当者と付き合いがある特定の人物やカリスマ消費者のような個人ではなく、その企業に関心を示す不特定多数の一般消費者のことを指します。
 消費者参加型製品開発の具体的な事例としては、以下のようなものがあります。

○事例1:良品計画
 「無印良品」を展開する良品計画では、2001年からインターネット上のコミュニティ(注2)(http://www.muji.net/community/)を活用した消費者参加型の製品開発に取り組んでいます。具体的にはサイト上で、消費者が掲示板に書き込んだ内容から抽出された商品開発テーマに対して、消費者が商品アイデアを投稿したり、良品計画が提示したデザイン案を消費者自身が多数決投票で決定したり、といった流れで製品開発が進められます。これまでに、「体にフィットするソファ」や「無糖茶」など10個の製品が商品化されています。

○事例2:ヤマハ
 楽器やオーディオ機器を製造・販売するヤマハでは、2002年から同社の音楽ポータルサイト「ミュージックイークラブ」(http://www.music-eclub.com/)内にある「企画室」というコーナーにおいて、製品の基本コンセプトを消費者に提示して、その使用方法や製品仕様に関する意見を募集するなどして、製品企画に反映させています。企画室からは、具体的にMP3録音機器のような商品が誕生しています。

○事例3:エレファントデザイン
 インターネットを利用した消費者主導の商品開発を支援するサービスを提供するエレファントデザインでは同社のサイト「空想生活」(http://www.cuusoo.com/)にて、まさに消費者による消費者のための製品開発に取り組んでいます。同サイトでは、消費者自身が欲しいものを提案した後に設計が開始される「DTO(Design To Order)」という思想のもと、携帯電話用カバーや通勤用アタッシュケースの用なヒット商品が続々誕生しています。

 このような消費者参加型製品開発が活発になった背景は、大きく分けて2つあります。
 一つは消費嗜好の多様化です。近年は、ライフスタイルの変化もあり、ニーズ・嗜好の多様化は加速しているといわれています。多様化する消費者の嗜好を何とか捉えて商品企画に活かそうと、企業は消費者参加型の製品開発に取り組んでいるといえるでしょう。
もう一つは、インターネット環境の発達です。特に、急速にブロードバンド環境が整った2002年頃を境にして、企業と消費者の間の情報伝達コストは急激に低下しました。企業は効率的に消費者の声をインターネット経由で収集できるようになり、また消費者も気軽にその声を企業に届けることができるようになったのです。結果、消費者参加型の製品開発が出現したと考えられます。上で見た事例が3つとも、インターネットを活用したものであることは偶然ではないといえるでしょう。


3. “Web2.0”で加速する消費者参加型製品開発
 さて、消費者参加型製品開発は今後どのようになっていくのでしょうか。筆者は、消費者参加型の製品開発は今後、トレンドというよりは取り得る一つの手法として企業のマーケティング活動に根付いていくと見ています。その背景にあるのが、”Web2.0”の流れです。
今年初めから急速に世の中に知れ渡ったWeb2.0ですが、簡単にいうと「新しいWebの世界の方向性」を称したものです。Web2.0はいわゆるIT・ネット企業のビジネスのみならず、ビジネスとITとの関係が切り離せなくなった現在となっては、メーカーや流通業といったような一般的な事業者の今後を考える上でも重要であるとされています。

 Web2.0の重要なキーワードの一つとしてあげることができるのが、「ユーザー参加」という言葉です。これまでのWebビジネスにおいては、主に企業の社員がコンテンツやサービスを制作していました。その背景にあったのは、コンテンツはプロしか作ることができない、という思想であったといえます。しかし、Web2.0時代は、ユーザーがコンテンツやサービス作りに参加する時代である(になる)といわれています。その背景にあるのは、「特定のプロの知識ではなく、多くのユーザーが出し合った意見・知識の集合体の方がより良いものを産み出す」という、集合知を重んじる思想です。
 ブログやSNS(Social Networking Site)(注3)といった、CGM(Consumer Generated Media)(注4)の急速な普及もあり、消費者がこれまで以上にインターネットを用いて自発的に意見を述べる、という流れができつつあります。企業が「製品はプロしか作れない」という発想を捨てさえすれば、インターネットを活用することにより低コストで多くの消費者の意見・知識を得ることができ、これまでになかったような製品開発を行うことができる可能性が出てきているのです。

 このような時代に消費者参加型の製品開発に取り組むためには、上の事例で見たような製品に関するウェブサイトを活用して、消費者の声を取り込む構造を作り上げることが望ましいといえます。具体的には、例えば、自社の製品ブログを用意して消費者のフランクな声を募る、ユーザー・コミュニティを立ち上げてユーザー同士が自由に意見を交換できるような場を用意する、といった方法があるでしょう。


4. 「プロシューマー」とうまくつきあっていくために
 ここまで見てきた消費者参加型製品開発ですが、当然メリットもデメリット(課題)もあります。
 メリットしてはやはり、消費者を製品の企画段階から参加させることで、これまでに社員が思いもつかなかった、あるいは見落としていたような意見を収集できるといったことがあります。製品開発を消費者に対してオープンにすることで、企業はこれまでになかったようなイノベーションやカイゼンを起こすことができるかもしれないのです。
 課題としては、消費者参加型製品開発の結果として生み出される商品が、一部のユーザーの意見に偏ったものになる可能性があるといったことがあります。ある食品メーカーでは以前、消費者参加型で革新的な製品を生み出し販売したものの、大多数の消費者には受け入れられずに、結果的にその商品から撤退することになってしまいました。消費者の声を取り込む、といってもその声が実際にビジネスとして実を結ぶものになるのかどうかを精査する必要があるということでしょう。

 未来学者のアルビン・トフラーは1980年にその著書『第三の波』の中で、「プロシューマー(生産消費者)」という言葉を生み出しました。これは、「プロデューサー(生産者)」と「コンシューマー(消費者)」との造語で、生産活動が消費活動に組み入れられることによって生産と消費が一体化した、高度消費社会における新しいタイプの生活者を指す言葉です。
 消費者参加型製品開発はまさに、トフラーのいうプロシューマーを見出すことができるものです。プロシューマーとは、筆者の解釈でいえば、世の中の「ありもの」に満足できずに、自ら生産も消費も行う人々のことです。街にあふれる商品だけでは満足せず、積極的に新製品開発に参加する消費者はまさにプロシューマーそのものといえるでしょう。

 消費者参加型製品開発に参加している消費者は、製品の開発に対する意見の投稿や、他の消費者との製品に関する意見の交換などを目的として、「自発的に」参加している場合がほとんどです。誰かに頼まれたわけでもなく、また、大きな見返りがあるわけでもないのに、自らの内なる生産欲求に突き動かされて製品開発に参加しているのです。
 そのような彼・彼女らに対して、参加や意見の投稿を強制したり、過度な報酬を提供したりすることは間違っています。消費者がまさにプロシューマーとしてアクティブに生産活動に取り組むことができるような「場」を準備することこそが重要なのです。場を用意して消費者を企業の「一人前の」マーケティング担当者として扱う、それがプロシューマーたる彼・彼女らとうまく付き合っていくためのコツといえるでしょう。そう、消費者を「アマ」ではなく「プロ」として扱うのです。

 さて、本稿を最後まで読んで下さった企業の皆様、いかがですか、消費者を貴社のマーケティング担当者にしてみませんか?思いもよらぬ、貴社マーケティング部門の「新戦力」になってくれるかもしれませんよ。


【参考文献】
  • 小川進 (2006)『競争的共創論』白桃書房.

  • Toffler, A. (1980). The Third Wave. Morrow. 邦訳, A・トフラー (1982)『第三の波』徳岡孝夫 監訳. 中公文庫.

  • Von Hippel, E. (2005). Democratizing Innovation. MIT Press. 邦訳, E・フォン・ヒッペル(2006)『民主化するイノベーションの時代』サイコム・インターナショナル 監訳. ファーストプレス.


【脚注】
注1
産業財に関しては、古くからユーザーが参加して製品開発が行われてきた。代表的な例としては、科学機器や医療器具がある。本稿では、消費財における消費者参加型製品開発にフォーカスを当てて話を進める。


注2
インターネット・コミュニティとは、不特定多数の人々が自身の興味があるテーマに関して、掲示板やメールを使って自由に意見の交換を行うインターネット上の仮想的な場所のこと。


注3
会員制の交流サイトのこと。興味や関心を共にする人と知り合ったり、自分で書いた日記を友達に向けて公開したりすることができる。


注4
「消費者」が発言(情報発信)権を持つメディアの総称。他に、クチコミ・サイトや企業のコミュニティ・サイトなどがある。
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