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コラム「研究員のココロ」

首長の退職金

2006年07月31日 渡辺康英


■1期4年ごとに数千万円の退職金

 知事や市長には1期4年ごとに数千万円の退職金が支払われている。多選になると億円単位の退職金となり、小泉首相も「知事とか市長の退職金は多すぎる。私もいらないから、知事や市長もあきらめてもらってはどうだろうか。」と発言している。
自治体が行財政改革を進める上で、経営トップの退職金の見直しを求める声も強く、知事や市長の退職金の減額や廃止は徐々にではあるが進められている。

首長の退職金を適正水準に是正する必要もあるが、それよりも私が気にかかることは、住民や地域にとって多くの貢献をした首長も、借金を増やした首長も条例に従って同額の退職金が支払われる点である。
 前首長が手広く開発事業を展開した結果、膨大な借金を抱えてしまった自治体がある。時代の変化を見誤った首長は選挙で落選したが、毎期条例に定められた退職金が支払われている。その跡を継いだ首長は、財政の建て直しに奔走し、特別職ばかりか職員給与もカットしながら節約経営を余儀なくされている。前首長に対しては規定とおりの退職金が支払われ、経費削減に努めた現首長には自ら減額した退職金が支払われるが、これでよいのだろうか。

■経営トップに対して「行政評価」を

 地域経済の浮揚や住民サービスの向上など、地域や住民の期待に応えたい首長の立場は理解できる。任期中の実績を目に見える形で表現したい首長は、目玉事業をしたがるが、それに対して議会は十分なチェック機能を果しているとは言えず、施政に対する住民の関心も高いとは言えない。政策と効果・リスクが十分に検討されないまま実行に移されがちであり、多額の事業費を投入した割には地域や住民に対するメリットが乏しい結果を生み出しやすい土壌がある。

 現在、全国各地の自治体で行政評価が導入されつつあり、事業の成果やコストに関して定量的管理が開始されている。評価対象は、事業から施策や政策に広がりつつあり、行政経営の効率化が期待されている。こうした管理手法は、経営トップの施政に対しても実施すべきではないだろうか。首長に対する評価として選挙があるが、当落だけでは施政のどこが良くてどこが悪いのかが不明確のままであるため、首長がトップダウンで推進した政策を対象とした「行政評価」が必要ではないだろうか。

 行政経営の成果は、短期間では表れにくいが、一定の年月が経過すると、その政策が地域や住民にとってメリットをもたらしたものかどうか生活実感として評価できるようになる。地域活性化の起爆剤として期待された政策も、一定の時間が経過すれば、的を得たものであったのか、住民も議員も冷静に検証することができるだろう。

■首長退職金査定制度の創設を

 そこで、経営トップの施政に対する行政評価と退職金制度を組み合わせて、首長退職金査定制度を創設したらどうだろうか。
1期4年で数千万円の退職金は、40年間勤務した一般公務員の退職金を上回る金額であり、常識的に見て高すぎるため、退職金基準額を1千万円に減額する。そして、4年の任期後すぐに退職金を支払うのではなく、一定期間を置いて実績に対する評価を行い、成果に応じて退職金を支払う制度にしたらどうだろうか。
 たとえば、退任後3年後に住民、議員、学識経験者などから構成される首長退職金査定委員会を開き、選挙公約、行財政改革、医療福祉、都市基盤、教育文化、産業経済などの項目ごとに施政の成果を基準点100点で評価する。平均点が80点ならば退職金基準額1千万円に80%を乗じて800万円を退職金として支払うのである。地域や住民に対して大きな貢献をした首長に対しては200%の退職金を支払っても良いと思う。

 「かつての首長(2期目ならば現在の首長)の退職金がいくらになるか」は住民も気になるはずである。首長の退職金査定を呼び水として活用すれば、施政に対する住民の関心を高めることができるだろう。住民が施政に対して強い関心を持ち、選挙公約や行財政改革などの達成状況や成果を常に注目するようになれば、政策の効果やリスクは今まで以上に厳密に検討され、財政健全化も促進されるのではないだろうか。先日、財政再建団体となった夕張市のような事態も防ぐことができるのではないだろうか。
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