コラム「研究員のココロ」
営業改革の成功とは?
2006年07月14日 西田 直基
●「営業改革が成功した」とはどんな状態か
「自社の売上・利益を何とかして伸ばしたい。その為には営業の旧態依然としたやり方を変えなければならない。」という問題意識を持っておられる企業は多いです。本コラムの読者の中にも同じような思いを持っておられる方が恐らくいらっしゃるのではと思います。では「営業改革が成功した」とはどんな状態の事を言いますか?と問われたらどう皆さんお答えになるでしょうか。
「営業改革の成功は売上や利益が十分にあがることではないのか」と思われるかもしれませんが、私はそれでは不十分だと考えます。何故なら売上や利益はあくまで結果であってそれらが適切な方法で実現されているかが分からないからです。例えばダイエットを考えてみると、ダイエットの成功とは体重が落ちたことでしょうか?短期間でのダイエットによって一時的に体重が落ちてもその後リバウンドに苦しんだりとか、体重は落ちたけど体の調子を崩してしまったという話を聞いたり、実例を目の当たりにされた方も多いのではないでしょうか。本当にダイエットが成功したというのは体質が変わり、普通の生活をしながら体重を適切な状態に保てるようになることだと思います。
営業改革も同じです。一時的に売上や利益が上がってもそれが社員に過度な負担をかけて実現されたのであれば、いずれ手痛いリバウンドを受けることになるでしょう。下手をすればもっと深刻な病気に襲われて会社自体がおかしくなることも考えられます。実際、無理な売上拡大がたたっておかしくなった会社の話を聞かれたことがあるかと思います。つまり、営業改革が成功した状態というのは、お客様を基点として日々の活動が変わり、それが当たり前になることなのです。
●営業改革の難しさ
下図は営業改革と体質改善を伴うダイエットと対比してまとめたものです。私にはダイエットも営業改革も困難さの本質は同じであると思います。

まず営業改革とダイエットに共通する特徴として、ここでは「活動のトータル性」「個別性」「継続性」の3つを挙げています。
「活動のトータル性」とは、これはあらゆる改革に当てはまることですが、単にひとつの活動を改善すればよいのではなく、様々な活動を同時並行的に行っていかなければならないということです。営業改革は営業担当者のみががんばっただけでは「成功」しません。戦略・マネジメント・オペレーションの全てを見直す必要があります。ダイエットも同じです。ダイエットが「成功」するには、食生活から日常の運動習慣まで変えていく必要があります。
「個別性」とは、他でうまくいった事例をそのまま取り入れてもうまく作用しないということです。営業改革の他社事例を聞いてもなかなか自社に取り込めませんし、何か違和感を覚えるという声はよく聞かれます。これは本屋で見られる様々な成功体験を元にしたダイエット本を読んでもなかなかうまく痩せられないのと同じですね。
「継続性」とは、そのものずばり、継続しないと結果が出ないということです。営業改革をやりますといっても、数日や数週間ですぐに劇的な結果を出すことは困難です。仮にそれが出たとしても長続きするとは考えにくいでしょう。同様に気を抜くとすぐに体重が元にもどる(もしくは前よりも増える)というダイエットは「成功」したとは言えません。継続的な日々の習慣を変えることで初めて「成功」するのです。
重要な点は、営業改革にしろダイエットにしろ、その変化は振り返って初めて気づくということです。ダイエットのように食習慣・運動習慣を変えるといつの間にか体質が変わっていた、というように、営業改革も走りながら色々とやっていると、いつの間にか日々の活動が変わっていたというのが現実です。実際に営業改革の成功事例として紹介されている企業の担当者に聞くと、「まだ営業改革ができているかどうか分かりません。ただ毎日なんだかんだと続けていると少しはマシになってきたのかなと思います」という主旨の発言をされることが多いのです。
両者に通じる困難さの本質は、様々な活動を自分(自社)なりのやり方で愚直にやり続けなければならない、というところにあるのです。
●営業改革を推進するために
さきほど「営業改革の成功とはお客様を基点として日々の活動が変わり、それが当たり前になること」と書きましたが、お分かりのとおりこれは非常に曖昧な表現です。営業改革を進めるには改革が実現した状態を周囲に伝え、イメージを共有する必要があります。その為には営業改革が成功した場合の活動の状態を具体的な事象で表現しなければなりません。それは「営業すべき顧客やその顧客に何をすれば良いかが質問されても直ぐに答えることができる」とか「開発・製造部門との打ち合わせが増え、お互いに言っていることがわかる」とか「顧客からの問い合わせに対してサポート部門が営業を通さずに速やかに答えてくれる」などそれぞれの企業によって違うでしょう。重要なのは、活動の状態を分かりやすく具体的な表現にすることなのです。
改めて読者の皆さんは「営業改革が成功した」とはどんな状態か?という問いにどのような答えを用意されるでしょうか。