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コラム「研究員のココロ」

スポーツの名将に学ぶ経営のヒント

2006年06月19日 宮田俊郎


 経営コンサルタントとして、日々、様々な経営者の方々とお会いさせていただき、経営戦略の立案や見直しに関してご支援させていただいている中で、一流の経営者たるべき特質が、スポーツ界の名将の有する特質と類似していると思わされることがあります。
 ビジネスもスポーツも、どちらも激烈な競争において勝つことが成功の絶対条件であり、また人間が行っている営みであるという点で、本質的な面での類似点が見られるのかもしれません。
 今年は、日本野球がワールド・ベースボール・クラシック大会で世界一になったり、サッカーのワールドカップの開催年にあたっていたりと、スポーツが話題に上ることが多い年です。
 そこで、“一流の経営者たるべき秘訣”についてスポーツの世界にヒントを求め、多忙なビジネスの日常において、ふとした際にでも思い出してもらえるような印象的な経営眼線の知恵をご紹介したいと思います。


(1)知恵 その一:「逆側が大事!」

 一流のサッカー選手によれば、ボールを蹴る時に大事なのは、蹴らない方の足だそうです。一流のプロ野球選手によれば、ボールを投げる時に重要なのも、投げる側ではない方の手だとのことです(注1)。また、通算400勝をあげた往年の大投手金田正一氏によれば、バッターから三振を奪うような速くて勢いのあるボールを投げるためには、体を弓のように使うことが秘訣であり、そのためには投げる際に踏み込んだ足と反対側の後ろ足に重心を残して投げるのがコツなのだそうです。だからこそ、下半身を鍛えなければいけないというのです(注2)。三振のとれるピッチャーになるために、複数の球種を覚えようと指や腕の使い方という上半身に神経を配る前に、下半身の足腰を鍛えることの方が本質的には近道であるという示唆となっています。これらはいずれも、「逆側が大事!」であることを示しています。通常先ず目が行く点に意識を向けるだけにとどまらず、逆側・反対側にあたる点への大切さにも思いを致すことが、他から一歩抜きん出た成功を収めるためには重要である、という教えになっています。
 経営者にとっても、経営の改善や再構築を行う際に、ややもするとコスト削減だけに注力し過ぎて、その後の成長戦略の画姿を持たずに、縮小均衡に留まるケースや、売上強化策を押し進めた結果、必要以上にコストが嵩んでしまい、収支構造が悪化してしまうケースも少なくありません。
 その時々に、取り組むべき経営課題の反対側にも、同時に目配りをしつつ、経営戦略の策定、再構築を行っていくことが、継続した成功を実現する上では肝要です。コスト削減に取り組む時には、その後の売上強化等の成長戦略まで見据えた改革戦略を構築しておくことが大事ですし、売上強化や営業強化に臨む際には、それに伴うコスト増の適否判断や、ローコストオペレーションを実現させる方策の検討も同時に着手しておくことが必要なのです。
 「逆側が大事!」というこの知恵は、相反する二方向へのバランス感覚の取れた経営目線を持つことが大切なことを経営者に教えてくれています。指摘されると一見当たり前のように思われるかもしれませんが、実践出来ているかを自問してみていただければ、意外と一方に偏っていたりしがちではないでしょうか。経営における攻めと守りをバランス良く取る経営感覚を、常に意識し、磨いていっていただきたいと思います。


(2)知恵 その二:「上手い例えが出来るかが大事!」

 プロスポーツの名将と言われる人は、選手を指導する際に、「例え話」がとても上手です。バレーボール全日本女子の監督が益子直美選手に言った次の一言はその最上の例だと思います。
 “ボールは爆弾だ。”だから、自陣コートで落ちて“爆発”しないように、とにかく命がけで一所懸命にボールを拾わないといけないと教えたそうです(注3)。この例え一言で、バレー選手にとって重要なことが、一瞬にしてサッと各選手の心に刻みこまれたことでしょう。“爆弾”だからこそ、疲れていようが、どんなに取るのが難しかろうが、拾いまくらねばならないという、勝つための本質が、伝わったことでしょう。東洋の魔女と言われた日本女子バレーの伝統が息づいているような言葉です。
 経営者にとっても、お客様や社会に対して、或いは社員に対して、一度聞いたら深く心に残る上手い例えのフレーズを駆使できるかは非常に重要です。成功を一回限りのもので終わらせずに継続して行くためには、その経営者の経営の考え、哲学を、関わる人々に長く浸透させ続けていかなければならないからです。経営者としてのリーダーシップを社内外に発揮していくにも、様々な場面で発する言葉こそが重要な武器そのものであるからです。経営者の考えを伝えるためには、言葉の持つ威力を決しておろそかにしてはいけないのです。
 一流と言われる著名な経営者の方々の含蓄のある言葉は多々ありますが、特に有名なのは世界の松下グループを作り上げた名経営者松下幸之助氏の“水道哲学”でしょう。“製品は、蛇口をひねると水が出てくるように、簡単に使えなければならない”というこの例えに導かれて、多くの家庭に普及する電化製品が同社から次々に世に送り出され、消費者に支持されて行ったのです。
 このコラムを読まれている経営者の方も、自社の提供している商品やサービスの特徴や強みを、簡単な一言で例えてみたら、果たしてどう言えるか、一度真剣に考えてみられてはいかがでしょうか。短い言葉やフレーズで上手い例えが出来ないとしたら、意外と自社の本質が、まだまだ充分に見えていないのかもしれません。もし、上手い例えが出来たなら、周りにいる社外の人にその例えを伝えてみてください。何も知らない第三者に伝わってこそ、上手い例えなのですから。

 成功し続ける一流の経営者に必要な特質については、もちろん上記で触れた点以外にも、まだ幾つもあることでしょう。
 スポーツイベント花盛りな今年、試合後のインタビューやテレビでのスポーツ・ドキュメンタリー番組での名将の話す言葉の中に、戦いに勝つための秘訣という観点で、成功し続ける経営にも共通するキーワードを探してみてはいかがでしょうか。


【参考文献】
「本 NANDA!?」(編著/NANDA!?制作委員会、発行/宝島社)
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