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コラム「研究員のココロ」

今こそ必要とされる国際ビジネスマンの計画的育成

2006年06月12日 今井 宏


 「グローバル化の時代」を迎え、現在では多くの日本企業が海外投資を行っている。しかし、国際ビジネス環境はより一層複雑化しており、国際ビジネスに携わる社員ひとりひとりの質の向上が急務となっている。


1.日本企業の海外活動の活発化と人材育成の遅れ

 経済のグローバル化が進むにつれて、日本企業が事業展開を図るうえで海外との様々な結びつきが無視できなくなってきている。ところが、日本企業の国際化、グローバル化が必要であるといわれはじめてからかなりの時間が経っているのにもかかわらず、財務面や物流面などでの対応の進み具合に比べて、企業の国際化、グローバル化をソフト面から担うべき人の国際化は、多くの企業において急速な国際化や海外展開に追いつけないでいるというのが現状である。
 企業のグローバル化や現地化を云々する前に、企業の国際事業を定着化させたり、海外拠点の管理をしっかりと行うことがまず必要であるが、現状では、人材の育成が追いついていない企業が多い。このような企業では、事前の十分な研修が行われないままに海外への派遣が行われ、何か問題が起きてから対応に苦慮するといったケースが多くみられる。
 企業のグローバル化や海外展開を進めるに際しての、人材育成面の制約要因として、以下の3点が挙げられる。
  1. 急速な国際事業の拡大や海外進出に対応していくための、事業に携わる人材の量的な不足が顕著となってきていること。

  2. 国際事業の複雑化に伴い、事業に携わる人材に求められる要件が高度化してきており、その質的な充実が一層必要となってきていること。

  3. 従来は国際事業に関係なかった部署や職種であっても、新たに海外とのビジネスが必要となったり、間接的であれ国際事業に対する目配りやサポートが必要となってきていること。これに伴い、国際事業の遂行に必要な人材の底辺が拡大してきていること(国内インターフェース要因の増大)。

2.国際ビジネスに携わる社員の育成における問題点

 国際ビジネスに携わる社員の量の拡大と質の向上が急務となっているにもかかわらず、社員の育成が思うように進んでいない企業が少なくない。このような企業の抱える問題点として、以下のようなものがある。

(1)基本理念上の問題
 具体的な育成制度上の問題点を指摘する前に、その前提となるべき基本理念上の問題がある。
 第1は、企業戦略・中期計画と国際事業に携わる社員の育成計画が連動していないことである。
 第2は、企業理念が不明確か不透明なことである。
 これらはいずれも、国際化を目指す企業が早急に対応し、解決すべき課題である。しかし、このためには、以下のような具体的な現状の問題点をひとつひとつクリアしていかなければならない。
  1. 人事部門が、国際事業の実施責任部門とともに戦略の立案に参加してないこと。あるいは、人事部門が、国際事業戦略を踏まえた要員育成計画を立てていないこと。

  2. 国際要員の育成計画に必要な研修内容についての社内の議論が十分に行われていないこと。

 そもそも、海外に派遣される社員が赴任先でどのような仕事に携わるのか明確になっていないケースが多くみられる。まして、その職務を満足のいく水準でこなすために必要な資格要件を明確にし、それに必要な研修内容を赴任前の研修に盛り込むといったレベルまで達していない。

(2)育成制度そのものに関わる問題

 前述した通り、日本企業の国際事業の進展に伴い、国際事業に直接的・間接的に携わる国際事業要員の数が飛躍的に増加するとともに、国際事業要員の質も、(a)社長や工場長として現地経営を担当する経営管理者およびそれに準じる者、(b)技術アドバイザーや生産部門に派遣される中堅幹部技術系社員、(c)販売、マーケティングを担当する営業系社員、(d)経理財務を担当する社員、(e)総務・人事労務などを担当する社員など、階層、職種の両面において多様化している。
 一方、これに対応すべき、企業の人事・教育部門も、従来の語学中心の育成プログラムでは不十分なことはよく認識している。従って、自社の経営戦略とそこから導き出される国際事業要員の育成ニーズを踏まえたうえで、国際事業要員の階層別、職種別、地域別の役割の違いをおさえた、新しい育成・管理体制をどのように作り上げていくか、各社各様のアプローチをしながらも、現状ではまだ試行錯誤の段階にあるといえる。
 日本企業の国際事業要員の育成システムにおいて、共通に抱えている問題点、あるいは典型的な問題点として、以下のようなものが多く見受けられる。
  1. グローバル化や現地化を目指す企業としての、国際事業要員の育成制度に対する理念が不明確、内容が不十分であること(グローバル化や現地化を視野に入れた計画的な育成制度となっていないこと)。

  2. 国際事業要員の育成プログラムが体系的に組まれていないこと。

  3. 国内の研修制度の整備が進んでいる企業であっても、国際事業に関する育成プログラムの整備が遅れていること。

  4. 国際事業に関する研修を各事業部が担当しており、全社的な育成プログラムとなっていないこと。

  5. 海外への赴任前研修に、赴任先で担当する職務内容を反映した研修項目が含まれていないこと。

  6. 国際事業推進部門と人事・教育部門との間にギャップがあり、育成プログラムが実務遂行上役立つ内容となっていない場合があること。

  7. OJTによる現場での教育訓練という名目であっても、実際には実務のなかでの補助的な仕事への従事ばかりで、一部の仕事には詳しくなっても、国際事業要員としての体系だった育成が期待できないこと。

  8. 語学中心のプログラムとなっていること。また、語学研修や異文化コミュニケーション研修を取り入れている場合に、その内容にビジネスの視点が十分に含まれておらず、結果として実務に役立つ研修内容となっていないこと。

3.国際ビジネスに携わる社員の育成に必要な研修体系

 国際ビジネスに携わる社員の育成に必要な研修体系の策定に当たっては、以下の五つのポイントをおさえておくことが必要である。

(1)企業の国際戦略の一翼を担う、戦略遂行者としての位置付けをはっきりと持つこと
 育成制度の目的は、「抽象的な」国際ビジネスマンを育成することではない。各人の担当する個々の業務は、企業の国際事業戦略上の位置付けをはっきりと持っている。また、海外に派遣する社員に対しては、企業理念の代弁者・伝道者としての役割が今後ますます期待されることになる。
 このため、研修プログラムには、(a)企業理念、(b)企業の国際事業戦略、(c)理念・戦略を踏まえた各人の職務の位置付けの明確化が含まれなければならない。このような視点がないと、研修プログラムの他の部分がいくら充実していても、総花的、一般的な印象を参加者に与えるとともに、今後の各人の国際事業戦略遂行のうえでも曖昧さを残すことになり、研修の効果自体も薄れることになりかねない。

(2)英米流のビジネスのフレームワークに通じる必要のあること
 今日の国際ビジネスの場の大半を事実上支配しているのが、英米流のビジネスのフレームワークである。例えば、言語、取引方法・貿易の仕組み、法律、金融為替制度、会計制度などが該当する。これらは日本流のビジネスのフレームワークとは大きく異なる点も多いため、その特徴と注意点をしっかりと理解するとともに、必要に応じて縦横に使いこなせることが、国際事業要員には要求される。

(3)国際ビジネスのリスクマネジメントの観点を取り入れること
 国際ビジネスには、国内ビジネス以上に、いろいろな意味での大きなリスクが伴うことは、もはや論証する必要もないほど、我が国企業の過去の海外展開の失敗事例が示している。
 国際ビジネスには、大別して以下の二つのリスクが存在する。
  1. 債権保全、資産保全などの財産保全上のリスク(カントリーリスク、為替リスクなど)

  2. 独禁法、製造物責任法制、労働法、環境法など、異文化、異なる社会制度、異なる商習慣などのビジネス環境の違いに起因するリスク

また、最近急増している、テロ、誘拐、その他のトラブルに巻き込まれないための安全対策の観点も、このリスクマネジメントの観点のなかに含んでいく必要がある。

(4)異文化コミュニケーション研修、語学研修には、ビジネスの視点を最大限取り入れる必要のあること
 国際事業要員が遂行するのは国際ビジネスであり、また、海外派遣者が赴任先でそのエネルギーの大部分を費やすのも、ビジネスの場においてである。このため、異文化コミュニケーション研修の場合も、まず第1におさえておくべきものはビジネスの場における異文化コミュニケーションの訓練であって、一般的な異文化コミュニケーション訓練とは必ずしも一致しない。導入部分ではともかく、貴重な時間を費やすからには、ビジネスの視点をはっきりと盛り込んだ内容を企画すべきである。
 語学研修についても同様で、初級者は別として、ある一定の水準に達した受講者については、実際のビジネスに直結した、あるいはビジネスシーンを想定した会話、ライティング、プレゼンテーションなどの具体的な能力を伸ばすためのプログラムが企画されなければならない。

(5)国際事業に間接的に携わる、国内インターフェース要員も視野に含めた育成体系の構築が必要であること
 経済のグローバル化とボーダレス化が進み、従来は国際ビジネスに関連のなかった部門や職種であっても、様々な面で国際ビジネスとの結び付きが生じてきている。この結果、国内で不定期、あるいは間接的に国際事業に携わる国内インターフェース要員の底辺が拡大している。
 ところが、国内ビジネスと比較して、国際ビジネスはかなり異質な部分が多い。このため、適切な情報を付与してくれる研修無しでは、「知らないことはわからないこと」となりかねず、思わぬリスクにも遭遇しかねない。国際ビジネスは大きなリスクを内包しているため、例えばその予防策について、国内インターフェース要員であっても徹底しておくことが必要となっている。このように、国内インターフェース要員も視野に入れた研修体系の構築が必要となっている。
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