Sohatsu Eyes
バイオを使った探索法
2006年04月04日 西村実
安全と安心についての関心が高まっており、それをいかに担保するかということが近年重要な問題となっている。そのための管理手法として二つの方法がある。一つは、生産履歴や使用履歴を個別に管理する方法であり、ICタグにより技術的なブレークスルーが見られる。もう一つは、分析により安全性を証明する方法であるが、代表的な事例としてBSE対策としてわが国で実施している異常プリオンの全頭検査があげられる。これを可能にしている技術は、酵素抗体法というバイオテクノロジーを用いたスクリーニング法である。生物にはさまざまな特徴があるが、その中の一つに特定の物質を高感度に認識して固有の応答を示すという性質がある。この性質を応用すると簡単な前処理で、一度に多検体から目的の物質を低コストで検出し定量することができ、全頭検査が可能となるのである。
EUでは食品中に混入するダイオキシン類を未然に防止する意味で、食肉、魚肉、鶏卵、乳製品およびそれらの加工食品や飼料、食用油脂中のダイオキシン類の濃度をロットごとに測定する指針が示されているが、機器分析では経済的に対応することができないため、バイオテクノロジーを用いた毒性評価によるスクリーニング法が採用されている。
わが国では、低濃度のPCBが混入している恐れのある変圧器が数百万台あるが、それらの適正処理が今後社会的に大きな課題となる。これについても全数を公定分析で確認すると膨大な社会的費用がかかるため、経済的なスクリーニング法の確立が望まれている。複数の企業よりバイオテクノロジーを用いた油中のPCBの簡易分析法が開発されており、スクリーニング手法として適切な使用法の確立が期待される。
バイオテクノロジーを用いたスクリーニング法は、これまでは主に新薬の有効成分を探索するドラッグディスカバリーの手法として開発されてきたが、環境や安全の分野へも経済的な手法として用途拡大されることが期待される。
※eyesは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。