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コラム「研究員のココロ」

ブランド構築に向けた読まれるブランドブックのチェックポイント
~ マーケティング革新シリーズ(5) ~

2005年10月03日 茅根 知之


1.ブランドブックは従業員とブランドを共有するツール

 ブランド構築は企業にとって重要な経営課題の1つであるが、広告や広報による活動だけでは十分ではない。企業活動はその構成員である従業員の活動であり、従業員1人1人の活動が企業のブランド構築に影響しているのである。たとえば、顧客にとって企業のイメージは、広告宣伝によるイメージだけではなく、自分の知っている営業担当者のイメージなどを加えた総合的なものになる。また、開発や製造のように直接に顧客と接しない業務であっても、開発担当者であれば作りだした商品を通して、製造担当者であれば商品のクオリティを通して、自社のブランド構築に寄与することになる。さらには、友人・知人・家族などとのプライベートな場面で、自社のブランドを高めていることも多い。
 このように従業員の活動が自社のブランドに影響することから、従業員が自社のブランドを体現した活動をすることが望ましいと考えられる。そこで、自社のブランドに対する認識を共有するためのツールとして、ブランドブックが活用されてきた。ブランドブックには、自社の理念やビジョン、目指すブランド、などについて記載される。ビジョンブックなども同様の目的を設定したツールであり、特に決まったスタイルや名称があるものではない。分量も、数ページのものから、50ページを超えるようなものまで、様々である。もちろん、その会社の従業員数、業務内容や範囲、状況などによって必要な項目や分量が変わるため、ページが多いので良いブランドブックである、というような単純な評価はできない。
 ブランドブックは、従業員とブランド意識を共有することで、ステークホルダーに対するブランドを向上させるためのツールである。しかし、ブランドは広告や広報、商品・サービスを含めた総合的な評価によって構築されるため、「わたしたちは、お客さまに○○を提供します」というようなブランドプロミスや、部門ごとの行動基準などを個別に評価することは難しい。制作の難易度は高いが、ブランド構築には必須のツールであり、その効果を高めるための工夫が重要になる。


2.ブランドブックのチェックポイント

 以下では、従業員とブランドを共有するための、ブランドブックのチェックポイントを論じていく。ブランドブックは、対象が従業員と限定的ではあるが、「伝える」ためのテクニックは、ステークホルダーに対するものと共通する。その中でも、特に重要なポイントを中心に紹介したい。

チェックポイント1:カタカナやアルファベットだらけになっていないか
 スローガンやビジョンなどの様々なメッセージを発信する時に、英語を始めとする外国語を利用することが多く見られる。もちろん、外資系の企業に見られるように社内での公用語が英語である場合、全世界に向けた共通のメッセージを使う必要がある場合、などもあるだろう。しかし、そのような必要がない場合に、カタカナやアルファベットを乱用することは、受け手の理解を妨げることもある。残念ながら、見栄えがよくなるなどの理由で、安易に外国語のメッセージを使うことが少なくない。
 その言葉から内容がイメージできること。また、既に知っている言葉、もしくは、覚えられる言葉を使うことが必要である。従業員向けのコミュニケーションの目的は、きれいに見せることではなく、理解し、共有し、行動につなげることにある。

チェックポイント2:規則集になっていないか
 ブランドブックの冒頭に「ブランドは顧客やステークホルダーとの約束である」という説明を見ることが多い。しかし、ブランドとは受け手の心の中にできるものであり、企業とステークホルダーとのコミュニケーション(商品を通したもの、人を通したもの、など)によって醸成されるものである。もちろん、いいコミュニケーションを行うためにも、企業側、そしてそれを実行に移す従業員がステークホルダーに約束をするという考え方は有効である。注意しなければいけないことは、従業員に「面倒な規則が増えた」と感じさせてしまうことであり、結果として号令だけに終わってしまうことにある。
 ブランドブックを手にした時、「このような姿になりたい」と思わせることができるか、「また、規則が増えた」と思われるか。この差は、非常に大きいことを認識したい。約束を“覚える”ことが目的ではなく、約束を“実践する”ことが目的であるはずだ。

チェックポイント3:シンプルであるか
 自社のブランドを複雑な図で説明するもの、似たようなキーワードが大量に並ぶもの、など、読み手が考え込んでしまうようなブランドブックも多く見かける。もちろん、企業活動は多岐に渡り、多様なステークホルダーがいる中では、最大公約数的なまとめ方にならざるを得ず、結果的に複雑かつ難解なコンセプトが出来上がってしまうことがある。しかし、ブランドブックは、制作者の自己満足のために作るわけではなく、従業員が理解し、共感し、行動につなげるためのきっかけを提供するものとして作られなければいけない。そして、その先にいる顧客やステークホルダーに、自社のブランドを高めてもらうことが目的である。
 シンプルなメッセージでなければ、ブランドを伝達する実行主体である従業員が、そのメッセージをうまく伝えることはできない。「伝える」ためのツールであることを強く意識しなければ、実効性のあるブランドブックにはならない。


3.従業員のブランド身体化

 本稿ではブランドブックの役割やチェックポイントについて論じてきたが、最も重要なことは、「ブランドブックの内容を、全ての従業員が自分の業務に取り込むこと」であることを再確認したい。
 残念なことに、ブランドブックを制作し配布することが目的化してしまっているケースも見られ、このような場合は1ヶ月もすればブランドブックは書類の山に埋もれてしまう。従業員が自社のブランドを認知・理解し、それを行動に反映させるためには、ブランドの身体化に向けた施策を展開することが求められる。ブランドブックの役割は、従業員に自社のブランドを認知させ、その内容を理解させるところまで、である。担当する業務の目的やスタイルが多様である従業員たちが、自らの業務に自社のブランドを反映させるためには、自分で考え、行動し、実感するという身体化のプロセスが必須である。
 自社のブランドを知ることは、ブランドを自分の活動に取り込むこと(=身体化)の第一歩に過ぎない。ブランドブックを起点とし、その内容を日常業務で意識させること、そして、実践させるための仕組み作りまでを統合的に推進することが求められる。少なくとも、従業員に読まれないブランドブックでは、自社のブランドを高めていくことはできない。押し付けるのではなく、共有するという視点を持つことが、ブランド構築の第一歩になる。
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