コラム「研究員のココロ」
業績連動型賞与の意義と留意点
2005年09月12日 奥平慶太
1.業績連動型賞与が求められる背景
賞与の原資決定を、企業の業績や部門の業績に連動することは、人件費の変動費化や業績向上に向けての従業員に対するインセンティブという賞与本来の意義からして当然とも思われる。従来からも成果配分賞与などと呼ばれて一部に取り入れられてきた。しかし、近年特に「業績連動型賞与」と呼ばれ、脚光を浴びている背景としては外部競争の激化と企業間・部門間の格差拡大ということがあるとみている。
企業をとりまく環境がかつてのように安定的であれば、規模の大小・シェアによる効率格差は多少みられるとしても、個別企業の生産性は概して「業界」全体の生産性に連動しており、一時金も「業界」で横並びのような労使交渉をすることで、比較的従業員の安心感と納得が得られた。ところが、昨今は同じ業界でもKFSの有無、あるいはその選択しだいで、いわゆる“勝ち組”企業と“負け組”企業に大きく格差が開いている。しかも、それは安定的に約束されたものではない。そうした中で生産性(人件費負担能力)と報酬の整合性をはかろうとすれば、賞与について個別企業ごとに業績との連動性を高めることが求められる。
このことは、企業間だけではなくて企業内の部門間でも同様で、市場や扱い商品の違いで、仕事は忙しくてきついが社内で一目置かれる“勝ち組”部門と、仕事はラクだが、肩身の狭い“負け組”部門に格差が開いている。そうした中で部門間の独立色が強いほど、「いつまでもきつい思いをして他の部門の面倒までみるのは納得がいかない」という文句が“勝ち組”部門から出て、賞与と部門ごとの業績との連動も求められてきている。
2.長期・短期間のバランス問題
こうした業績連動型賞与の場合に、問題になりやすいのは個人の業績評価と、その反映結果としての配分賞与のギャップである。例えば、「自分は目標も達成し業績評価は去年より良いはずなのに賞与は去年より少ない。どうしてだ?」という問題である。
これは、組織業績に比して個人の業績評価が甘い。組織目標と個人目標が連動しておらず全員が個人目標を達成しても組織目標が達成できないというような、そもそも目標設定に問題がある場合も多い。しかし、原資決定に使われる全社や部門の業績指標は期間損益もしくはそれに直結した財務指標のみとされることが多いのに対して、個人の業績評価の場合は「財務数値が個人ベースでは測定しづらい」「財務数値のみで評価することが不適切」ということで、プロセスも業績評価の要素に入れていることがズレを生じさせている面も多いと思われる。
確かに、貢献利益のような財務指標は最終的な成果であるが、役割分担しながら業務を進めている中で個人個人の貢献利益を明確化することは難しい。また、それのみを追い求めていると、「すぐに数値結果に結びつくことしかしない」「顧客基盤の地道な拡大や、部内体制の効率化・整備といった面がおろそかになる」といった弊害が生じがちである。従って、何が成果かという場合に期間の財務的業績だけでなく、将来的に財務業績を上げ続けるために今期やるべきことをどれだけやったかも評価しようという視点は必要である。しかし、こうした業績評価の視点の「長短バランス」が、企業業績と個人業績において異なるためにズレが生じているということである。
3.組織・個人間のバランス問題
また、配分において個人目標の達成度のような個人業績を重視しすぎると、「自分の目標に関することしかしない」という弊害が懸念される。そこに、部門別業績評価を原資決定ないし配分決定の要素とすることの意味が出てくる。各部門の目標達成に関心を持たせ、部門間の競争をうながし組織活性化をはかるものである。しかし、これも行き過ぎるとセクショナリズムを生み、企業全体としての組織力を阻害する元ともなる。また、部門別業績評価で原資が決定されるようなケースでは、極端な場合、赤字部門では賞与ゼロで、そこにおいては個人の業績貢献度は全く反映されないといったことにもなる。そして、こうした「組織と個人間の反映バランス」において、組織を重視するほど個人的には配分賞与にギャップを感じるケースが出てくる。
4.より適正なバランスを求めて
こうした業績評価の視点における長短バランスや組織・個人間のバランスに、絶対的な正解があるわけではない。それは、業種や業務の進め方によって適・不適があるであろうし、その企業のシステムとしての成熟度や社員の意識・風土によっても適したバランスは異なる。逆に言えば、分権化して組織を活性化しながら短期的に市場拡大をはかろうとか、企業が一体となって将来的にも収益を出し続ける強い基盤を作ろうといった戦略によって適切なバランスは選択すべきものである。
そうした組織・人材のビジョンをめざして、賞与の原資決定や配分におけるバランスを設計することが大切である。さらに重要なことは、その仕組みを従業員にきちんと説明し、その背景にある考え方をメッセージとして正しく理解されるように伝えることである。