1.労働時間の大幅な規制緩和・・・残業手当を払わなくてよくなる?
今春、労働政策審議会の労働条件分科会では「労働契約法」の制定と労働時間制度の見直しに向けて本格的な議論を開始した。今年1月には「今後の労働時間制度に関する研究会」報告で、1日8時間、1週40時間の労働時間規制を、管理職に加え一定以上の収入及び権限のある人からはずすことが提唱されている。すなわち、労働時間、休憩、休日及び深夜業に関わる規制を適用除外とする画期的な改革となる。早ければ来年の通常国会で労働基準法の改正案が提出される見込みである。
2.ホワイトカラーの働き方の変化
労働基準法は戦後まもなく制定され(1947年)、主として工場でルーチンワークに従事する労働者を保護する目的で、労働時間を制限する意味合いは大きいものであった。
その後の経済・労働環境は大きく変化を続け、それに対応して規制緩和の方向でフレックスタイム制、変形労働時間制、裁量労働制の導入など、労働基準法の改正が行われてきた。
しかしホワイトカラーの働き方は労働基準法制定当時には想定できないほど変化している。2005年6月には日本経団連から「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」がなされ、ホワイトカラーの働き方の特性を次のように記している。
そこで、ホワイトカラーの働き方の特性に応じた労働時間制度に対する経済界からの要望も高まり、米国のホワイトカラーエグゼンプション(労働時間等規制の適用除外)の登場となるわけである。
3.労働時間等規制の適用除外の条件 ~業務と賃金水準
厚生労働省の原案では規制除外の条件として、(1)最低週1回の休日取得を義務付けし、相当程度の休日が確保される、(2)健康チェックの体制が整っている、(3)賃金が一定水準以上ある、(4)労働者が個別に書面で合意している、(5)仕事量を自分で決められる権限を持つ・・・等があげられており、管理職手前の中堅(課長代理クラス、プロジェクト・リーダー等)が対象となる。
日本経団連の提言では、ホワイトカラーエグゼンプションの業務要件としては、現行の専門業務型裁量労働制の対象業務(19業務)のほか、対象業務を法令で定めるものとする。さらに労使協定の締結または労使委員会の決議により対象業務の拡大が可能である。
賃金水準については「一般の労働者の給与総額を下回らない」レベルとしており、具体的な金額については労使協議に委ねられる予定である。年収が700万円以上の場合、労使協定の締結または労使委員会の決議のいずれかで対象業務に追加可能、年収400万円以上700万円未満の場合は労使委員会の決議で追加可能とされる。なお400万円未満は対象とはせず、通常の労働時間管理を行うものとされている。
4.時間軸から成果軸へのシフト加速
連合はじめ労働組合では本制度の導入によりサービス残業が合法化され、長時間労働の助長につながり働き過ぎがあおられることを懸念して反発している。
メンタルな面も含め従業員の健康管理が重視されている昨今、割増賃金の支払が抑止力として機能しないことはいささか不安であり、健康確保のための措置は不可欠といえる。一方、部下の業務の進捗管理が不十分で時間外労働が放任され、年収が上司を大幅に逆転してしまうケースも各社で散見される。残業を含め管理職に相当するような年収水準に到達している「高給社員」であれば本制度の適用についても理解を示せよう。
企業の人事管理が成果主義に改定されつつあり、賃金は労働時間ではなく成果に対して支給されるべきもの、という考え方が主流になっている。本制度はその考え方を実現するものであるが、労働時間という軸を完全に離れるのであれば、評価基準がこれまで以上に重要になることは確実である。経営者は期待する成果とそれをいかに把握するか、どのようなスキルを身につけ、行動として発揮することを求めるか・・・を明確に示す一方、ホワイトカラーは生産性を上げ、自ら成果をアピールできるように仕事に取り組むことがますます求められる。
労働時間の規制緩和が生み出すものは何だろうか。効率を上げて仕事をしたホワイトカラーの先にあるものは仕事と生活の調和した「ワーク・アンド・バランス」なのか、はたまたさらなる仕事なのか。それを選べない社員と選ばせない企業は本制度を導入すべきではない。