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コラム「研究員のココロ」

やっていることが間違っているのか?やり方が間違っているのか?
~経営の選択肢を狭めないために~

2005年08月08日 坂本謙太郎


 先だって深夜にタクシーに乗った際、ラジオで興味深い番組を聞いた。‘巷の噂’の真偽を、実験で確認するという企画だ。私が聞いた回は「人間の声を電話のプッシュトーンの代わりにして、電話をダイヤルすることが出来るらしい」という噂を検証していた。番組に拠れば、プッシュトーンは各番号に特定の音程が割り当てられており、その音程を出せるなら、機械でも人の声でもダイヤルすることが出来るということであった。番組では出演者が実際に電話に向かい発声する実験を行ったのだが、結果は見事な失敗で、電話は無反応だった。そして出演者は「いや~、やっぱりダメですね。この噂は嘘でした」と結論付けていた。

 ここまで聞いたところで、私は「おい、それは違うだろう」と思わずにはいられなかった。実験の結果は確かに失敗である。しかし、それはこの噂を否定する材料としては不十分だ。実験の失敗は、出演者が歌った音程が正しくなかったためかもしれないし、電話機に対する音声入力の方法が間違っていたからかもしれない。実験が成功するためには、他にも様々な条件があったのかもしれない。それらの条件が全て満たされていたという保証がない限り、この実験を持ってくだんの‘噂’を否定することはできない。

 ラジオ番組の企画に目くじらを立てることもないだろう。この乱暴な論理展開が実害を及ぼすとも思われない。しかし、これが企業の中で行われるとしたら要注意だ。なぜなら、本来有効であるかもしれない経営上の選択肢を充分に検討しないまま安易に否定し、利益への道を自ら狭めてしまうことになるからだ。そして、これはちっとも珍しいことではない。

 例えば、ある企業の営業会議ではこんなやり取りがあった。
部下:
新商品のプロモーションのためにダイレクトメールを送ってみたらどうかと思うのですが?


上司:
ダイレクトメール?無駄だな。2年前にやってみたが、特に成果は出なかった。やめておけ。
ダイレクトメールもやり方次第では非常に有効なプロモーション・ツールになりうるかもしれない。しかし、この上司は過去の経験に基づいてその可能性を潰している。2年前のダイレクトメールの送り先、文書の文面・色使い、送るタイミング等等、全てが正しく行われたという保証は全くないというのに・・・。

 このような会話はコンサルティング業務の中でもしばしば登場する。ある集客施設を運営している企業の方と、施設内のレストランの業績を改善するための施策を検討していた時のことである。
私:
いつも大変混雑していて、お客様の待ち時間が長いようですね。実際に拝見していると、店先まで来て、待ち時間の長さを聞いて去って行く方も多いようです。


先方:
そうなんです。お客様の苦情も多くて困っています。


私:
一方で、席についているお客様を見ると、実際に食事をしているのは半分くらい。後は店員が注文をとってくれるのを待っているか、料理が来るのを待っているかですね。食べ終わった後、ゆっくりしている方はめったにおらず、大多数の方は食べ終わると早々に立ち去っています。


先方:
認識しています。


私:
ゆったり食事をしたいというお客様がいる場所ではないようですから、カフェテリア形式に変更されたらいかがですか?そうすれば、「お客様が座っている時間=食事をしている時間」になり、回転率は倍近くまで飛躍的に向上します。待ちきれなくて去っていくお客様がいなくなれば、売上も跳ね上がるのでは?


先方:
ご提案の意味はよく解かるのですが、カフェテリアはちょっと・・・。


私:
・・・と、おっしゃいますと?


先方:
当社の別の施設で昔カフェテリアをやって、失敗しているのです。それ以来カフェテリアはタブーというか・・・
これも冒頭のラジオ番組と同じ発想であり、しかもそれがビジネスの現場で行われているだけに罪深い。安易なタブーのせいで売上・利益増大のチャンスをみすみす潰してしまっているからだ。我々はこの企業に対し、かつての失敗がカフェテリアという形態(=やっていること)の問題ではなく、その運営方法(=やり方)の問題に起因することを示し、適切なノウハウを持ったパートナーと共同で再度カフェテリアに挑戦することをご提案した。その結果は推して知るべしである。

 経営戦略やマーケティング手法を考える上で、何より苦しむのは戦略の選択肢を作り出すことである。‘儲かる方法’が世の中にゴロゴロ転がっているものではない以上、それは当然だ。従って、どんな選択肢も簡単に否定するべきではない。むしろ、冗談のようなアイディアでも、どうすれば実現しうるか、真剣に考えてみる姿勢が大切ではないだろうか。数少ない‘儲かる方法’は、案外身の回りにあるかもしれない。

※ここでは、客が配膳台からあらかじめ用意された料理を好きに取り、会計を済ませた後に席につくセルフサービス方式のこと。一般的な社員食堂やハンバーガーショップの形態。
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