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コラム「研究員のココロ」

行政・非営利組織のバランス・スコアカード (2)

2006年03月31日 柿崎平


 このシリーズは、既に民間企業の間に広く浸透しているバランス・スコアカードの価値を改めて確認した上で、企業のみならず行政や非営利組織にとっても極めて有用性の高い経営ツールであることを解説していこうとするものである。

 行政・非営利組織のバランス・スコアカード(1)では、バランス・スコアカードが改めて注目されている要因として、3点を指摘した。「不祥事が頻発する時代のビジネス」、「財務指標の限界」、「戦略~実行こそが大事なのだ!」である。その中で、第2回では、戦略の実行をバランス・スコアカードがどのように支援できるのかを見ていく。


1.戦略の翻訳により「ビジョンの壁」を克服する

 バランス・スコアカードは、顧客、財務、内部プロセス、学習と成長の4つの視点のそれぞれについて、組織の戦略を業績目標、業績評価指標、目標値(ターゲット)、それらを実現するためのイニシアティブに翻訳することで、関係者の共通認識を得ていくことができる。ビジョンや戦略を翻訳するという作業で特筆すべきポイントは、ややもすると曖昧な表現になっているビジョンや戦略の言葉の意味を、経営幹部に定義させる圧力になるということである。例えば、「優れたサービス」をビジョンに掲げる組織は多いが、それは極めて多義的な言葉だ。バランス・スコアカードの開発を通して、優れたサービスとは‘問い合わせ等に24時間以内に応えることだ’といった定義が経営陣によりなされるかもしれない。それにより、従業員は、優れたサービスとはどういうことか、そのために自分たちは何をすべきなのか等々の議論をするよりは、レスポンス・タイムという誰が見ても明確な目標の達成を目指して日々の活動を遂行することができるようになる。戦略の翻訳という観点からバランス・スコアカードを活用する組織では、組織が掲げた目標の達成に向けて、全ての従業員の活動をガイドできるような指標という新言語を創造することになる。


2.スコアカードをカスケードすることで「人材の壁」を克服する

 いかなる戦略においても、それを実行に移すためには、組織のあらゆるレベルの人材が理解し行動していく必要がある。スコアカードをカスケードするという意味は、戦略を組織に落とし込みこと、そして全ての従業員が、自分たちの日々の活動が組織全体の戦略実現にいかに貢献しているのかを表現する機会を与えることである。組織の全てのレベルが、最上階層の組織目的に連携されたスコアカードを作成することで、自分たちの価値創造活動を明らかにすることができる。
 カスケード作業により、現場の従業員が見ている組織の‘風景’が経営陣にも伝わることになる。個人レベルにまでカスケードを進める組織もある。つまり、個々人が自分のバランス・スコアカードを作成し、組織全体の目標達成に向けて行われるチーム活動に個々人がどのように貢献しているのかを示すということだ。


3.戦略的資源配分により「資源の壁」を克服する

 バランス・スコアカードの開発は、資源配分と戦略を結びつける絶好の機会をもたらしてくれる。バランス・スコアカードを構築するとき、4つの視点(顧客、財務、内部プロセス、学習と成長)について、ただ単に業績目標、業績評価指標、目標値(ターゲット)などを思案するわけではない。同時に、スコアカードの目標を達成するための企画や活動計画なども考えることが重要なことなのである。ある指標について意欲的な長期目標を設定したのならば、それを実現するための段階的な活動ステップも、同時に構想するということだ。年度予算を策定する際には、スコアカードの目標を実現するために必要な人的および財務的資源を、議論のベースにしていかなければならない。各部門からは、前年度にとりあえず5%を加えたような予算要求が出てくることはもはやなくなるだろう。その代わり、必要な支出(そして収入)が、バランス・スコアカードの目標と関連付けられて、明確な形で提出されてくることになる。その資料が、経営幹部を戦略の学習にかりたてることにつながる。つまり、資源が無制限でない限り、どの取り組みに予算を配分し、どれを先送りするのかというトレードオフの厳しい選択を求められるのである。
 バランス・スコアカードを構築することは、現在行われている数々の取り組みを改めて検証する絶好の機会にもなる。戦略的な意味合いはほとんど無いにもかかわらず、そして明確な根拠も示さず、特定のプロジェクトや計画を大事に抱える経営幹部がよくいる。いかなる領域あるいは階層においても、何らかの試みをする上では、組織全体の共通特性を考慮する必要がある。つまり組織の全体目標との結びつきを意識するということだ。バランス・スコアカードは、正にこのためのレンズを提供するものなのだ。スコアカードをいったん構築すれば、現在行われている全ての取り組みを、戦略実現へ真に寄与しているのかという観点からレビューすることになるし、また、いったいどの取り組みが貴重な資源を浪費しているに過ぎないものなのかを明らかにせざるを得ない。明らかに資源の節約という点で効果があるが、それにも増して、組織が達成しようとしていることを、その実現ステップも含めて構成員に示すことが出来るという利点がある。


4.戦略学習により「マネジメントの壁」を克服する

 これほど環境の変化が激しい中で戦略的な意思決定を行うためには、予算と実績の差異分析をこれまで以上に徹底することが求められる。残念なことに、多くのマネジメント・チームは、差異の議論に貴重な時間を費やしてしまっている。バランス・スコアカードはそうしたパラダイムを転換し、新しいモデルを提供してくれる。すなわち、スコアカードの結果が、戦略についてのレビュー、質問と討議、そして学習のスタート地点になるということだ。
 バランス・スコアカードはビジョンと戦略を、4つの視点(顧客、財務、内部プロセス、学習と成長)それぞれに関する首尾一貫した評価指標に翻訳してくれる。財務データのみならず、さらなる情報が手に入るというわけだ。業績に関するスコアカードの結果を全体の体系から眺めると、その結果と戦略との相互関係が見えてくるし、また、戦略の実現がどの程度進展しつつあるのかを確かめる基礎資料になる。
 戦略の実現の前提には、一定の仮説や立案者の理想が含まれているものだ。それを立証するためには、スコアカードの指標は、1つの戦略のストーリーを語ることができるように相互に連携されていなければならない。例えば、従業員研修への投資が品質向上に結びつくという仮説を信じるならば、それをスコアカードの指標を通して検証していくことが期待されるということだ。目標を達成するために従業員教育を充実させたが、品質が悪化してしまったというならば、それはおそらく適切な仮定ではなかったということになるだろう。もしかすると、教育ではなく、カギとなる情報の共有を強化させるべきだったのかもしれない。そのような相関関係を検証していくためには大量のデータを収集分析する必要があるかもしれない。しかし、少なくとも、マネジャーが戦略の背後にある仮定を自ら問いただすこと自体は、財務データのみで意思決定をしている状態に比べれば大きな改善と言える。


 バランス・スコアカードが戦略実行を支援することができることが確認できた。次回は、これまでの議論を踏まえて、バランス・スコアカードを公共セクターに適用していく際の考え方、方法を考察していく。


【参考文献】
Paul R. Niven著, 柿崎 平 訳, 吉川 武男 監訳『行政・非営利組織のバランス・スコアカード』生産性出版 2006年
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