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コラム「研究員のココロ」

通信と放送の融合点を見る(後編)

2005年07月11日 宇賀村泰弘


4.各社の生き残り戦略

 前半において、通信と放送の融合は、「事業の展開」と「インフラの統一」の二つの要素を持っており、通信事業者が積極的に高レイヤへの進出を図っている姿が見えてきた。ここではさらに、特徴的な取り組みを行っている企業の生き残りをかけた戦略を具体的に見てみたい。

 民放各社は、現時点ではコンテンツの提供事業者の色が強く、また既存事業の規模も大きいため、すぐには大きくその地位が揺らぐことは考えにくい。懸念される点は、デジタル放送に対応するための1兆円を超えると言われる民放各社に必要な設備投資である。そのため、通信事業者、CATV事業者と提携して伝送路としてのFTTHを採用することは今後十分考えうるが、現時点では大きな動きを見せてはいない。民放各社の一つのターゲットは、携帯テレビであろう。民放各社のインデックスとの提携は大きな話題といえる。また、フジテレビジョンが「フジテレビ On Demand(仮称)」というサービスの開始を検討しており、映像コンテンツをIP網経由で配信する計画を立てている。詳細が明らかになってはいないが、民放が通信との融合に歩み始めた大きな一歩といえるだろう。

 今生き残りをかけて積極的に行動しているのは、民放会社よりもむしろ既存通信事業者、新興通信事業者、そしてケーブルテレビ事業者である。

 NTT、東京電力など既存通信事業者は現時点では、インフラ事業の様相から大きく変化していない。特に注目すべき動きはNTTの映像PFサービスの提供である。スカイパーフェクTVの有線での放送事業を行うオプティキャスト(サービス名:ピカパー)に対して映像PFを提供し、ユーザーに放送サービスを提供している。スカパーが有線放送に軸足を移すという変化も大きいが、NTTの映像PFを水平展開し、あらゆる映像サービスをそのPF上に取り込もうとする動きも見逃せない。

 積極展開を図る新興通信事業者の代表格はソフトバンクであろう。衝撃的な低価格と莫大な投資によりADSLで顧客の囲い込みを行い、その顧客を維持しながら、FTTH、放送サービスを提供し将来的にARPU(Average Revenue Per User:月間電気通信事業収入)を上げる戦略である。480万人を超える映像サービスでの潜在顧客の存在は、コンテンツ収集力に大きな影響を持つと考えられる。また、携帯事業への参入も計画されており、通信事業者として全方位サービスの提供を図る。KDDIなども特にマンションなどをターゲットとして、IPをPFとしてトリプルサービスを提供するなど、ユーザー特化型戦略を実践している。

 有線放送事業者であるケーブルテレビ各社は、2004年3月末で世帯比率加入者が34%(総務省発表資料)となるなど着実に加入者を獲得している。但し、難視聴事業も含まれることから、利益率の高い多チャンネル放送は20%程度の加入であると推定される。そうした背景の中、ケーブルテレビ各社は、戦略を明確にして対応している企業と、低価格化とサービス競争への対応に追われている企業の二つに大別される。明確な戦略を持つケーブルテレビ事業者であるジュピターテレコムはケーブルテレビという事業を規模の経済性を活かす拡大戦略をとっている。2005年3月の上場で市場より多額の資金調達を行い、ケーブルテレビ会社のM&A、携帯事業への進出検討など規模の拡大と、ユーザーの囲い込みを加速させようとしている。

 また、規模は中程度だが地域特化型で、生き残りをかけた取り組みを実践している企業もある。イッツ・コミュニケーションは鉄道、不動産、住宅、警備など生活インフラを複合的に提案し、東急線沿線での地域で囲い込みを早くから成功させ確固たる地位を築いている。また、関西電力は、ケーブルテレビ会社と通信会社を融合させたケイオプティコムを設立し、通信と放送を融合させたサービスを提供し、近畿圏に特化して優位に事業を展開している。


5.通信、放送市場において生き残るにはどうするべきか

 各社の取り組みをみている中で、通信、放送市場において生き残るために必要な事柄が見えてくる。下記図を参照いただきたい。

【図表】通信放送市場における競争状況
通信放送市場における競争状況
(出所)日本総合研究所

 横軸はサービス提供エリア規模を示す。右がより大規模つまり、全国展開を表し、左が特定地域つまり、地域特化を示す。縦軸は、サービスレイヤの階層の多重性を示しており、上にいくほど複数のレイヤを同時に提供していることを示す。逆に下にいくほど単一のレイヤでの提供を現している。ここでレイヤの説明をしておく。CA(Content Aggregation)はコンテンツアグリゲータであり、映像コンテンツの制作、編集を行うレイヤである。実態としては、この上にCC(Content Creator)が所在し、番組制作を行うレイヤが存在するがここでは割愛している。民放各社は大きな機能としてはCA企業である。その下のレイヤは、CSP(Content Service Provider)であり、番組をCAなどから購入し、ユーザーに提供するものである。ケーブルテレビ会社などはCSP機能を保持するといえよう。その下のISP(Internet Service Provider)はインターネットサービスプロバイダである。なお、ここでの回線接続、物理ネットワーク(NW)は、ユーザー宅へのアクセス回線を示す(電話で例えれば局舎から宅にのびるメタル回線のこと)。

 さて、この図を理解したところで各社の位置づけを確認したい。この図に示すようにタイプが、4つに大きく分類される。
  • 単一レイヤ地域特化型
  • で修正単一レイヤ全国展開型
  • 複数レイヤ地域特化型
  • 複数レイヤ全国展開型
一つずつ見ていこう。

 【単一レイヤ地域特化型】
 単一レイヤ地域特化型は、今後生き残れない領域となる。特に低レイヤはインフラ産業であるため、低価格化がさらに進行すると地域特化では十分な加入者が得られず採算が取れない事業になるからだ。

 【単一レイヤ全国展開型】
 単一レイヤ全国展開型は、低レイヤではアッカネットワークスや、イーアクセスがその代表であろう。両社ともにNTTの保持するメタル回線を利用し、ISP事業者に対して回線接続サービスを提供する事業者である。現時点はADSLがブロードバンドの主流であるため、その地位は安定しているが、単価の向上が通信速度アップに依存しているため、長期的には限界がある。売上げ拡大にはより多くの加入者を獲得する必要性があり、それを維持できなければ事業存続は難しい。イーアクセスは、携帯事業への参入を表明しており、新たな収益柱の構築に積極的な動きを見せている。

 また、高レイヤを単一とする企業としてはISP専業事業者が上げられる。Nifty、So-netなどがこの代表企業である。これら事業者は単一サービス事業者であるため、生き残りのために魅力的なコンテンツ事業者との提携は欠かせない。規模の経済性を働かせるために、加入者を幅広く獲得する必要性があり、現時点では、ISP専業事業者で勝ち組である企業は、ブランド力、知名度を保持する企業となっている。

 【複数レイヤ地域特化型】
 複数レイヤ地域特化型戦略の代表は、ケーブルテレビ会社であろう。CAレイヤ機能こそ保持していないものの映像サービス、インターネット接続、メールサービス、電話サービスなど複数のコンテンツを提供し、物理NWまで保持している。この領域において特徴的な動きをしているのが、関西電力グループと、KDDIである。

 関西電力グループは、地域特化を重視しており、その地域において通信と放送の両方を関電が敷設したFTTHを利用して囲い込もうという戦略が見て取れる。関西電力の子会社であるケイオプティコムは通信会社とケーブルテレビ会社の合併企業であり、コンテンツを武器として積極的に加入者を自社のFTTHに囲い込んでいる(実態は、ケーブルテレビサービスはK-CATが提供している)。一方KDDIも現在は、複数レイヤ地域特化型戦略(主要都市圏)の位置づけにあるといえるが、全国展開は時間の問題であり、後に述べるソフトバンクの後追いの状態にある。但し、注力点がソフトバンクとは異なり、マンション向けを重視している。

 この領域における企業群は、一定の地域に絞られているため、全国規模ほどの規模の経済性を享受できない。従って効率性が重要となる。効率性を高め、高付加価値なサービスを、全国展開企業以上に提供する必要がある。おそらく地域密着型の情報がその一つの武器になるだろう。

 【複数レイヤ全国展開型】
 複数レイヤ全国展開型の代表格は、NTT、ソフトバンク、ジュピターテレコムであろう。特にソフトバンクの戦略は興味深い。第一に低価格のADSLで加入者を獲得し、最もインフラ投資がかかるアクセス回線をNTTのFTTHを利用し事業を行っている。CSP、CA機能なども今後拡充される可能性が高く、なにより480万人を超える加入者によるコンテンツ収集力は大きい。ジュピターテレコムも資金力を元に規模の拡大を図り、利益を確保しようとする取り組みは十分理解できる。また、ジュピターテレコムグループには、CA機能(ジュピタープログラミング)も有しておりケーブルテレビ事業者の雄として放送における高レイヤの機能を十分活かしている。

 この領域の企業群は、高レイヤの進出を図ると共に、全国規模での拡大戦略を持つ。そこでの武器は高サービスと低価格である。特に規模の大きさを活かした低価格戦略は生き残りに必要なものである。


6.真の融合は映像サービスの双方向によりもたらされる

 結局のところ単一レイヤ地域特化型以外は、各領域において生き残る施策は存在するがその領域は狭い。どの場合にも、高レイヤ機能を企業内、グループ内にもつか、もしくは提携などで継続的に確保する仕組みが必要不可欠になろう。

 通信と放送の融合はまさにこれからである。通信事業者が通信インフラ事業を拡大してきた中で、規制緩和による競争激化で事業利益率の低下を招いたことが、高レイヤに進出せざるをえない状況と危機感を生み、融合の流れが始まっている。そして、IP放送が放送サービスとして認識され、コンテンツホルダーがそうした事業者に積極的にコンテンツを提供したそのときから、さらに融合が進み、競争は本格化する。競争によりユーザーは、低価格でより質の高い、魅力的なコンテンツが使えるようになれば満足度が高くなるが、逆に競争が激化し淘汰が進むことで寡占状態になれば、価格上昇ということもありえるだろう。

 以上、通信と放送の融合を事業者の戦略から見てきたが、現状では通信事業者の積極的な取り組みが目立っている。個人もそうであるが、企業もまた逆境において、それを乗り越え、内部、外部共に変革を実践した企業は大きく成長する。既存の枠組みに甘んじている状況では、企業は衰退の一途を辿ることは間違いない。今後はよりコンテンツが重要になり、ユーザーからの対価獲得の鍵となる。CA機能を中心に担う放送サービスにおける民放各社の地位は当面大きく揺らぐことは無いと見られるが、積極的な事業展開を図る通信事業者を軽視できない。

 インターネットの変革がユーザーの生活に大きな変化を与えたように、映像サービスのインタラクティブ性はあらゆる他サービス(医療、教育など)との連携を生み出し、インターネットによる変化以上に大きな生活の変化をもたらす。通信、放送市場だけでなくあらゆる関連市場の相乗的な成長を促し、日本にとって重要な変革の礎になるという見方もオーバーではない。通信と放送の融合は、企業同士の戦いであると同時に、社会インフラとしての意義も大きい。放送通信事業者は既得権に囚われずに、この点もふまえ事業を展開していく必要がある。自社の利益を維持しつつ、市場全体の拡大を狙うという超越的な視点がこれら事業者に今求められているのだろう。

 社会インフラの統一によりインフラ資源を節約し、そのインフラ上で提供される様々なサービスを拡充、強化、多様化をしてこそ、ユーザーの満足度は高まり、ひいては企業の収益を生み出す。そうした意味での真の融合は,経済面だけでなく環境と文化の面から見てもこれからの社会に必要である。
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