■ IT経営とは
IT経営という言葉をお聞きになったことがあるだろう。
IT経営という言葉は情報化白書やIT新改革戦略等の政府系の資料に登場し、そこから派生して雑誌やWebの紙面にもたびたび登場するようになった。では一体IT経営とはどんなことを指しているのであろうか。
- IT企業の経営のこと
- IT(情報システム)部門の経営のこと
- 企業経営にITを活用すること
言葉だけの印象では2.の感じが強いが、本来の用法としての正解は、3.である。
情報化白書においては、『競争力を強化し、その生産性を向上していくために、抜本的な構造改革・課題解決に向けて、ITを高度に活用する』経営と説明されている。何も特別なことを示しているわけではなく、至極当然のことである。近年の企業経営において競争力の強化の手段としてIT活用を考えない経営者はいないだろう。それにも拘らず、IT経営という言葉が頻繁に持ち出される背景には、当然のことと認識されている「企業経営にITを活用すること」が実現できていないという現実がある。
■ 企業経営にITを活用すること
「企業経営にITを”導入”すること」であれば比較的簡単に実現できる。経営者にITアレルギーがなく、それなりの予算と人材があれば、ITは導入可能だ。しかし、それがすなわち「経営にITを活用」していることになるかというと、必ずしもそうではないだろう。
その違いはどこにあるのか。
私は、ITの導入目的に違いがあると考えている。
「企業経営にITを導入すること」は言うなれば人手の部分をITに置き換えることによる省力化効率化が目的である。一方、「企業経営にITを活用すること」はITを活用して”何か”を達成することが目的になる。ここで仮に前者を「IT<導入>経営」、後者を「IT<活用>経営」と呼ぶこととする。
「IT<導入>経営」においてIT導入のきっかけは、身近な問題意識からきていることが多い。例えば、現場の事務担当者の『紙の伝票は不便で使いづらい』等の局所的な、しかし切羽詰った問題から、IT導入が決議されることが多いだろう。このようなIT導入は現場からの声に押され、また省力化効率化というわかりやすい成果を目指して、整備が進められていくこととなった。
それに対し「IT<活用>経営」においては、IT導入のきっかけはなかなか生じうるものではない。経営にITを活用するということは、現場の問題ではなく、経営層の課題である。すなわち、経営が目指す方向や戦略を実現する手段としてITが活用されるべきである。しかし経営層にとってITはその本質を理解しがたく、ITを活用することで経営にどのような変化が生じ、どんなメリットがあるか想像しにくいことだろう。逆に経営層の考える経営課題や目指すものの本質を理解しているIT担当者は少ないだろう。その相互での理解不足がIT<活用>経営が進まない一因であろう。ERP、SCM、CRM等の3文字ソリューションは、ITが経営に与えるメリットをわかりやすく示したものであるが、その反面、ソリューションの型にはまりきらない課題は置き去りにされてしまった。
■ IT<活用>経営に向けて
結局企業は、競争優位を構築するためには、自身に固有の経営命題に対してこれまでのような既製服での対応ではなく、自身で考え行動し変えていかなければならないことに気づき始めたのではないか。それが「IT経営」なる言葉が持ち出されてきた背景にあると見ている。
経営にITを活用していくためには、企業が競争戦略を考える際に、そこにITをどう当てはめるのべきなのかを考慮するプロセスが必要になる。すなわち、経営とITのそれぞれがお互いに協働して戦略から業務へ落とし込み、それをITで実現するというプロセスを経て、IT導入を計画し実行していくことが求められているのである。
【図表:IT<活用>経営の実現】
■ IT経営のその先に
しかし、IT経営にはまだ先がある。
ITすなわち情報技術の恩恵は、直接的には、情報の「記録」「伝達」「共有」「蓄積」「再利用」「探索」「分析」において発揮され、情報の流通に対して時間と場所の制約を劇的に削減しうるものである。その効用を十分に発揮させることによって、ITが競争戦略やビジネスモデルの競争優位の源泉となりうるだろう。つまり、ITによって経営やビジネスモデルの変革が為され、画期的な競争力強化を実現できることこそが、その先にあるIT経営であると考える。
夢物語であろうか? 否。すでに実践している企業はある。例えば、小売業界のとあるトップ企業では、数年先のITと業界のビジョンから次のビジネスモデルを模索し続けることで、常に先んじたサービスの提供を可能としているのである。
ITが何を成しうるかを考え、自社の戦略に組み込んでいく。そうすることが真に「ITを高度に活用」し、「抜本的な構造改革・課題解決」を実現し、「競争力を強化」していくことにつながる、すなわち、IT<活用>経営からさらに進んだIT<革新>経営につながるのである。
【図表:IT<革新>経営の実現】
※ERP:Enterprise Resource Planning
※SCM:Supply Chain Management
※CRM:Customer Relationship Management
以上