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コラム「研究員のココロ」

公共サービスの質を決めるのは何か
~運営重視のPFI・指定管理者制度導入を成功させる3つのポイント~

2006年03月27日 日置春奈


 自治体のアドバイザーとして、PFI事業や指定管理者制度の導入をお手伝いしていると、公共サービスの市場は思った以上に外からは見えにくいものだと常に意識させられます。事業に応募する側の民間企業にとっては、既にその自治体に対する実績や信頼関係を有する一部の企業を除き、参入にどの程度メリットがあるのかが、非常に判断しづらい状況になっているといえます。
 指定管理者制度を例に取れば、北海道内の34市町村では1600余りの施設についてこの4月から制度導入が行われますが、公募によって運営者を決定したケースはその3割程度だといいます。(注1)また、形式上は公募であっても、情報開示が不十分なまま従前の運営主体である財団や公社にだけ圧倒的に有利な条件で提案募集に踏み切るケースも少なくありません。
 民間の参入機会は拡大したものの、実態を見ると民間の発想や提案力を公共サービスの事業運営に活かせる環境にはまだ遠い、というのが正直な実感です。民間側も応募する事業を慎重に選ぶようになってきたため、PFI事業者や指定管理者の選定においては、大規模な建設事業など分かりやすい「エサ」がない限り、プロポーザルを実施しても手を挙げる企業がますます集まりにくくなる傾向にあるようです。
 1~2グループのみの応募数では十分な競争が働かないため、運営に工夫が求められる事業においては特に、提案の質の低下が懸念されています。このような状況は、公共サービスを民間に委ねようとする際に顕在化する、以下の問題点が招いていると考えられます。

(1)コスト削減至上主義
 既存施設の運営者を選定する場合には、委託費の削減だけを判断基準にしているケースが多いようです。サービスの質を下げずに委託費を削減するつもりが、価格のみで委託先を決めているために、サービス水準の低下を招いています。
 こうした傾向は、新たな制度の導入が必ず自治体の内外に対立をもたらすことと無関係ではありません。PFI事業や指定管理者制度導入の多くは「直営(もしくは従来の委託先)では絶対に達成できない数字で理論武装する推進派」と「サービスの現状は最も良く把握しているが当事者の雇用問題を抱え極度に慎重な現場」という、ある意味対立的な関係の中で検討が進められています。そのため公募までのスケジュールが限られている場合には、自治体が要求するサービス水準についての議論が不十分なまま公募に至ることになります。
 価格という基準しか提示されていなければ、応募者が「最低限のことを最低限の価格で提供する」という発想でしかサービスを考えないのは当然です。特に懸念されるのは、NPOなどの非営利組織に対する委託費の基準が非常に低い価格帯で形成されつつあることです。応募側にとっての公共サービス市場の魅力が低下することは、結局のところ、サービスの質の低下を招き、サービスの受け手である納税者に跳ね返ってくるからです。

(2)行政の民間サイドに対する不信感
 一連の耐震偽装事件以来、行政の世界に「民間に任せて本当に大丈夫なのか」「民間は見張っていないとズルをするのではないか」など、一種の民間不信ともいえるような空気がますます広まっているようです。また、「営利目的の民間企業が公益的なサービスについてあれこれ提案してくれるとはとても思えない、最低限で済ませようとするのではないか」といった意見もよく聞こえてきます。
 上記のような考え方がベースになっていると、委託先の選定基準や業務仕様が過度に細かく設定される傾向があります。これでは民間ならではの発想を活かす余地を狭めるばかりか、モチベーションを低下させ、ますます仕様以外の仕事はしなくなるという悪循環に陥りかねません。その上、彼らの仕事ぶりをチェックする行政側の負担も増加してしまうため、自らの首を絞める結果にもつながります。

 上記の課題を解決するためには、自治体としてそのサービスをどう提供していきたいか、そのために限りある経営資源をどう活用するべきなのか、という根本の視点に立ち返る必要があります。確かに公益(行政)と利益(企業)という目的の異なる事業体が協働するのですから、難しいことには違いありません。しかし、行政が公共サービスの質に責任をもつべきであれば、両者の目的や性質の違いを逆にうまく利用し、民間における良質な担い手を育てていくという発想が必要になります。
 このような発想や観点に立つと、今後、運営業務に重点がおかれた事業において指定管理者やPFI事業者を公募で選定する際には、以下の3つの視点を持つことが重要と考えます。

(a) 民間の利益機会を排除せず、むしろ活用する
 自治体によっては、特定の民間企業が公共の資産を活用して収益事業を行うことに強い抵抗感を示すところもあります。しかし、利用者にとっての利便性が向上するのであれば、民間の発案による新たな試みは歓迎すべきであり、むしろ利益をインセンティブとして利用するのが得策です。もちろん、行政側で民間事業者の行うサービス内容が事業本来の目的に適っているかどうかを判断し、もし不適切であれば制止できるだけの判断基準とコントロール手段を持つことが大前提となります。

(b) 求めたいサービスの水準は専門家を交えたワーキングチームで検討する
 応募条件の検討に際しては、指定管理者やPFI事業者は長期契約の相手となるため、運営者の信用性や倒産した場合のバックアップ手段など、いかに事業安定性を確保するかに力点が置かれ、事業の中身(要求水準)が片手間になってしまうことが多々あります。
 したがって、積極的に民間のアイデアを活用したい事業に関しては、可能であれば事業内容と提案に求めるサービス水準を検討する「ワーキングチーム」を立ち上げて手続きを進めることをお勧めします。単に企画部門(事業推進側)とサービスの所管部門(現場)がそれぞれの立場で話をするだけではなく、対象分野の建築や運営に関する専門家を交え1つの目的に向かって議論することで、有益な意見調整の場となることが期待できます。

(c) 応募者との戦略的対話で透明な競争環境を整備する
 伝統的に入札で委託先を決めてきた従来の自治体には、民間側と公式にコミュニケーションをする習慣があまり根付いていません。応募側にとって最も気になる情報(公募に至った経緯や現状の課題といった事業の根本に係る情報、具体的な数字データや図面など)は十分に公表されないのが現状です。これではスタートラインから情報を「持てる者」と「持たざる者」の間に圧倒的な差が開いてしまい、提案の質については十分な競争原理が働かないことになります。
 提案全体のレベルアップのためには、可能な限り応募者に必要な情報を提供し「皆が知っていること」を前提とした競争環境を作ることが必要です。また、一方的な情報開示だけではなく、応募する側が魅力を感じる事業条件についても情報収集が必要です。
 応募者と対話する方法としては、ホームページを利用した情報提供、ヒアリングやアンケートの実施、質疑応答の公開などが考えられます。こうした手段を戦略的に活用することで、提案に対する応募者の考え方をより望ましい方向へ誘導していくことが可能になります。

(注1)日経グローカル No.43 2006/1/9
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