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コラム「研究員のココロ」

「裏日本」が日本の「表」玄関になる?

2007年02月19日 入山泰郎


○「太平洋の時代」から「日本海の時代」へ

 「裏日本」という表現がある。これは日本海側を指す言葉であるが、侮蔑的な響きを持つことから、最近は使われることが少ない。しかし、人びとの意識に「太平洋側は表側、日本海側は裏側」という認識があるのは否定できないと思われる。これは、明治以降(特に第二次大戦後)、我が国では政治、文化、経済・産業などあらゆる分野において、太平洋ベルトと呼ばれる東京から名古屋、大阪、そして福岡・北九州に至る地域に主要な機能が集積してきたからであろう(ただし、福岡・北九州は日本海側に位置している)。
 この背景には、これまでの日本にとって、もっとも重要な国際関係は日米関係だったことがあると考えられる。主要な貿易相手は米国であり、企業は米国市場で多額の収益を上げてきた。また、政治や文化においても米国の影響は強かった。そのため、日本の表玄関は太平洋側であった。いわば20世紀の日本は「太平洋の時代」にあった。
 しかし、現在の日本の貿易相手の主役は米国ではなく、東アジアである。財務省の貿易統計(2005年)によると、我が国の輸出額の47%、輸入額の44%を東アジア(韓国、中国、台湾、香港、ラオスを除くASEAN諸国)が占めるのに対し、米国はそれぞれ23%、12%を占めるに過ぎない。東アジア経済の成長ポテンシャルも考えると、今後の日本経済の成長は東アジアとの結び付きにかかっていると言えよう。その意味で、日本と東アジア諸国との間にある日本海こそが、今後の我が国の表玄関、ゲートウェイであり、時代は「太平洋の時代」から「日本海の時代」へと動いていると言える。
 元々、近代以前の我が国の主要な交易国は中国や朝鮮半島などであり、当時は日本海側が我が国の表玄関だったといえる。また、江戸時代には北前船が行き交うなど、国内の交易も盛んだったと考えられる。表玄関が太平洋側から日本海側へ「戻る」と言う方が正しいのかもしれない。

図表1

資料:財務省「貿易統計」より作成
注:東アジアとは、韓国、中国、香港、台湾、ASEAN諸国(ラオスを除く9ヶ国)の合計


○現状は「表玄関」とは言えない日本海

 今後、日本海が我が国のゲートウェイとなるとすると、具体的には例えば物流の拠点としての港湾機能の強化が必要と考えられる。しかし、現状では太平洋側と比較すると日本海側の港湾機能は弱小である。取扱貨物量でみると、我が国の主要な港湾は太平洋側ないし瀬戸内海に集積しており、日本海側の港湾は比較的小規模な港湾が多いのである。

図表2

注:網掛け部分が日本海側の港湾
資料:国土交通省「港湾統計(港湾取扱貨物量等の現況)」より作成


 しかし、日本海にも実は世界的な大規模港湾が集積している。それは韓国の港湾である。世界の港湾の貨物取扱量ランキングをみると、日本海及びその周辺の海域に位置する港湾として、釜山を筆頭に、光陽、蔚山、浦項がベスト50にランクインしている。一方、対岸の日本側の港湾では北九州が27位に入るにとどまっている。

注1:上位10港及び上位50港までの日韓の港湾を掲載
注2:網掛け部分が日本海側の港湾
資料:Institute of Shipping Economics Logistics, “Shipping Statistics Yearbook 2005”より作成。


 東アジアとの貿易を活性化させ、それにより我が国経済の持続的な成長を目指していくためには、アジア経済の大動脈である日本海側に、我が国も競争力ある玄関口を整備していくことが必要であると考えられる。

○新たな「表玄関」の整備に向けて

 政府は(日本海あるいは港湾に限定しているわけではないが)「アジア・ゲートウェイ構想」の検討を進めており、現在策定が進んでいる国土計画(国土形成計画)においても、各地方とアジア諸国とを直接結ぶ「広域ブロックゲートウェイ」の機能拡大が盛り込まれそうである(「国土審議会計画部会中間とりまとめ」より)。
 しかし、釜山に匹敵する巨大港湾を日本海側に整備するということになれば、莫大な投資が必要となる。現状ではそのような大きな財政支出に対する国民的理解を得るのは難しいと考えられる。また、そうした港湾を(複数にばらまくのではなく)一か所選定して集中投資するということは、現状の我が国の政治風土を考えるとあまり期待できない。つまり、国レベルで日本海側に巨大な「表玄関」を整備する、ということにはならないと思われる(むしろ太平洋岸の主要港湾の国際競争力強化が図られているのが現状である)。
 そうなると、国レベルではなく、日本海側に面した各地方が主体となって、それぞれ「表玄関」の整備を競い合うことになるだろう。上述の国土形成計画では全国計画に加えて「広域ブロック計画」をブロック単位で策定することになっており、その中で各地方ブロックにおける表玄関のあり方が検討されることになる。また、道州制が導入されれば、道州における表玄関をどうすべきか、それぞれの道州で検討されることになろう。
 日本海における新しい表玄関をどのように構築するのか、それぞれの地方がその将来像を構想し、実現への道を図ることが求められているのである。もちろん、表玄関の機能は、港湾あるいは物流に限られるものではなく、それぞれに地域特性を活かした工夫が必要になる。こうした地域間の競い合いの中から、日本海側に新たな「表玄関」が構築されていくことを期待したい。