コラム「研究員のココロ」
「小さな政府実現―公務員の早期希望退職制度の拡充」
2006年03月27日 山中 俊之
公務員リストラの壁
現在、公務員の人件費削減・定員削減の必要性に関する記事が連日のように紙面を賑わせている。
「国家公務員を5年間で5%削減する」という政府の目標数字は、民間企業のリストラに比べると大変に甘いものであるが、この目標達成ですら、各省庁の反対で、実現するかどうか不透明である。
公務員の削減には、省庁などの既得権益、身分が保障されている公務員制度、労組の存在など、多くの壁が存在するためで、それゆえ、退職者不補充(=退職者に代わる新卒者の採用を抑制すること)で対応するしかないといった意見もある。
しかし、肥大化した公務員の人員削減には、単に退職者不補充による対応のみでは、不十分である。
進まない早期希望退職
こうした状況下において、財政が悪化した多くの自治体では、退職金の割増などを条件とした早期希望退職制度を導入して、公務員の早期退職を促している。しかしながら、どの自治体でも、実際に希望退職に応募する公務員はそれほど多くないようである。
なぜ、応募が少ないのか。その理由はいたって単純である。「退職後の就職先が見当たらない」「生活のめどが立たない」からである。
公務員にも生活があるので、いくら退職金を上積みされても、簡単には希望退職に応募できないのは、いわば当然であろう。「公務員は他の仕事に就けない」「つぶしがきかない」という観念が、公務員の中に強すぎることもネックになっていると思われる。
再就職支援を含めた取り組みが必要
筆者は、単に希望退職を促すだけではなく、その後の再就職支援を含めた取り組みが必要であると思う。
具体的には、希望退職者に対して、次の再就職先が見つかるまで、履歴書の書き方や面接の受け方から職務能力の棚卸・評価や就職に向けた能力開発などに至るまで、トータルで支援するのである。このような支援は、現在の国と地方を含む行政機関では行われていない。
このような再就職支援を含めた取り組みを実施するメリットは以下の3点である。
第1に、再就職への具体的な支援があるため、早期希望退職に安心して応募することができる。これにより、応募者が大きく増加して人員削減につながる可能性が高まることである。
このような再就職支援への取り組みは、潜在的な転職希望者の掘り起こしに繋がる。
第2に、再就職支援に対する予算的な負担は、公務員として雇用を継続する場合に比べて、相対的に小さいため財政的にも大きなメリットがある点である。再就職支援に必要な額は、一般に1人70万円程度(公務員の人件費の10分の1程度)と言われるが、これによって翌年から人件費が一切かからなくなるのである。この財政上のメリットは大きい。
第3に、公務員としての適性に疑問を感じている公務員にとっても転進の機会を与えることになる点である。筆者のこれまでの実務経験からしても、公務員としての適性の不合致から公務員の潜在的な転職希望者は多い。しかし、実際に転職・再就職するとなると「どんな企業にどのような方法で応募すれば良いのか」「どんな能力が必要なのか」が分からないため、踏みとどまっているケースが多い。そのような公務員にとっては、再就職支援を含めた早期希望退職は一種の福音にもなりうる。
求められる官民一体の取り組み
民間の再就職支援会社にインタビューしても、公務員については、依然として潜在的需要に留まっており、本格的な再就職支援には至っていない状況とのことである。
行政機関は、再就職支援を含めた早期希望退職を促進する施策の実施を早急に決断する必要があるのではないか。
人員削減を目指す行政機関と再就職支援会社が協力して、早期希望退職と再就職支援を推し進める仕組みの構築が求められる。