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コラム「研究員のココロ」

「65歳への雇用延長を考えるポイント」

2006年03月27日 西條收


1)本年4月1日より65歳までの雇用確保が義務付けに
 改正された高年齢者雇用安定法のうち、雇用に大きな影響を与える「65歳までの雇用確保義務」が平成18年4月1日より施行される。企業の現場では既に対応を終えた企業、現在検討中の企業等対応は様々であるが、ここではそのポイントについて考えてみたい。

2)現時点での企業の対応は「段階的に」「継続再雇用で」「処遇はかなり抑えて」という対応が多い
 まず今回の法改正の骨格を確認しておきたい。今回の法改正で企業に求められる「65歳までの雇用確保義務」とは、以下の3つのうちのいずれかの措置を講じなければならない、とする定めである。すなわち65歳未満の定年の定めをしている企業は
  1. 65歳までの定年の引き上げ
  2. (65歳までの)継続雇用制度の導入
  3. 定年の定めの廃止

を定めなければならない、としている。これを段階的に実施し、平成25年4月1日までに完全実施しようというものである。むろん一気に65歳までの雇用確保をすることも可能である。

 さて各企業の対応はどうなっているであろうか。結論から申し上げると、制度としては上記の(2)の継続雇用、また段階的に65歳か一気に65歳かという点では、段階的に65歳にしていこうという企業が圧倒的に多い。給与水準や職務、勤務形態は下記の対応が取られていることが多い。
  1. 高年齢雇用継続給付、在職老齢年金、給与の合計で59歳年収の一定割合を確保
  2. 高年齢雇用継続給付と給与の合計で59歳年収の一定割合を確保
  3. 職務については役職者は役職離脱するが、それ以外は従前の職務を担当
  4. 勤務形態は、フルタイム、パートタイマー、週5日未満の勤務等の選択が可能

上記の通りであり、60歳以前と処遇等勤務条件が変わらない、というケースは極めて少ない。基本的方針としては「法改正のため、65歳までの対応を余儀なくされたのでコストを出来る限り抑制して雇用する」という現実的な選択をしているというように考えてよいだろう。

3)今後の高年齢者雇用について
(1)現在の対応は過渡的なものとして考えるべき
 55歳から60歳への定年延長の時もそうであったが、定年延長の期間の賃金(60歳への定年延長時は55歳から60歳までの賃金)をどう抑制するか、という点が当面企業の関心の強い点である。従って上記に紹介した対応をとる事になるわけである。しかし、60歳定年が定着した現在、「55歳になったから賃金を下げる」ということが多くの企業で問題となっているのと同様に、「60歳になったから賃金を下げる」という対応では今後問題が生じよう。年齢・勤続年数を軸とした年功的人事管理・賃金制度が否定されてきている現在、「60歳という年齢」を軸にして考えるのは問題があるからである。高年齢雇用継続給付や、継続雇用制度奨励金などの制度も65歳雇用確保の定着までの過渡的な制度と考えるべきであり、年金支給が65歳からとなることを考えれば、上記の各種対応も過渡的なものと考えていくべきであろう。

(2)人事管理全体の文脈で65歳への雇用延長を考えるべき
 考えてみれば大学卒22歳で入社して65歳まで勤務するとなると、43年間という長きにわたり企業生活を送ることになる。むろん雇用の流動化が進めばかくも長く勤続する社員は従来より少なくなるかもしれない。社員の価値観も変わってくるかもしれない。しかし、人事管理としては、この43年間社員が意欲を維持しながら働き続けられること、それを念頭に考えていかねばならない。こうした観点で60歳から65歳をどう位置づけるかを考えていく必要があろう。60歳からやってもらいたい仕事(期待すること)は60歳前から準備しなければならないだろうし、そのための施策はどうするかを検討する必要があるし、また60歳からの処遇も「よく働いた人には報いる」という60歳前からの考え方と同じでなければならないだろう。また60歳以降は「本人の働き方の選択」という考え方が導入されることが多いが、これも60歳になったからということではなく、60歳前でも考えていかねばならないことだろう。(専門職、専任職などという制度は一部ある)要は60歳以上の賃金という限定された領域でなく、入社から退職までの人事管理をどう考え方針として示し、具体的に制度化していくかを考えていくべきであろう。

(3)当面の現実対応として、60歳以降も処遇が不変の制度を設けることも
 65歳への雇用延長制度創設のコンサルティングで、ある企業の経営者にお話しを伺ったことがある。その経営者が言われるには「法律で決められたから65歳へ雇用を延長するということでなく、働ける人には出来るだけ働いてもらいたい。ただやる気のない人は早く辞めてもらいたい。またウチの会社の仕事は、60歳になったから効率が落ちるような仕事ではありません。60歳になっても仕事が変わらないのに賃金を下げるというのは個人的にもおかしいと思う。」「企業の社会的責任として65歳への雇用確保は一気に65歳まで実現したい」「特にこれからその年齢に達する人は、当社の幹部として活躍してもらいたい人たちだしね。」ということであった。ただ、会社はまだ収益基盤が安定しておらず、65歳までの定年延長には、かなりのリスクが予想された。そのため現実的な選択として、以下のコースを設けて対応することとした。
  1. 定年はすべて60歳とし、定年後再雇用とする
  2. 最大雇用延長期間は段階的延長とせず、65歳まで一気に伸ばす
  3. 以下の4コースを設けて対応
    ・60歳定年で59歳時と処遇・勤務が不変のコース(会社選抜)
    ・60歳定年で59歳時と処遇・職務が変わる(下がる)コース
    ・パート勤務で勤務日・勤務時間で2コースを設定

 特に経営者は「皆が59歳時と処遇・勤務が不変のコースとなれるようにしっかり人材育成をして欲しい。この人たちが多いほど会社の基礎体力が強くなっているという証だからね。」といっておられた。当面の現実的対応として、このような方法を導入することも選択肢として考えてみても良いのではないだろうか?
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