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コラム「研究員のココロ」

公共事業の談合問題と入札制度改革
-価格評価から総合評価へ-

2006年03月13日 日吉淳


1 談合の歴史と背景
 公共事業と談合の歴史を紐解くと、江戸幕府の時代には入札制度が導入されており、当時既に談合による落札が横行していたそうです。その後、日本の近代化とともに公共事業はどんどん増え続け、「天の声」といわれる官製談合や談合を仕切る「談合屋」の登場など、談合の仕組みも多様化していきました。その後も独占禁止法の制定や公正取引委員会による排除勧告が幾度も繰り返されたにもかかわらず、今日に至るまで談合という利益調整のメカニズムは継続してきました。わが国の建設業は諸外国に比べて全産業に占める企業数が多く、かつ、参入障壁も低いことから零細業者が乱立している状態であり、過当競争状態となりがちであることから、業界として受注調整を行うことは極めて自然な流れだったのでしょう。

2 談合防止への取り組み
国は談合防止対策として、独禁法の罰則強化やガイドラインの作成などを通じて業界の指導を行うとともに、2003年には官製談合防止法を制定し、発注サイドからも体質改善を進めてきました。しかしながら、昨年摘発された国発注の鋼鉄製橋梁談合事件ではとうとう過去最大の約3500億円の規模に達してしまいました。
 そこで、改正独禁法が本年1月から施行されることとなりました。違反行為を行った大企業への課徴金を大幅に引き上げることで制裁力を強化する一方、談合など違反行為を自ら申告した企業は先着3社まで課徴金を減免する制度を導入したのも大きな特徴となっています。さらに、国土交通省からは「入札談合再発防止対策」に関連する通達が発出され、指名停止措置要領に新たな要件として「重大な独占禁止法違反行為等」を追加し、6~24カ月の指名停止を行うこととなりました。このため、談合の内部告発に対するインセンティブの導入と指名停止期間の長期化は建設業界にとって大きな脅威となりました。国から24ヶ月の指名停止となれば、地方自治体も国に倣って同様の措置をとることとなり、公共事業を主たる事業分野としている建設業者は、ほぼ倒産を免れないでしょう。この独禁法改正と指名停止措置の強化は、談合に対する大きな抑止力として期待されています。

3 談合の廃止による新たな問題の発生
 しかし、談合の排除に伴い、新たな問題が顕在化してきました。それは、入札による価格競争が激化するあまり、工事量を確保したいがために安値受注が横行し、建設業者の体力が大きく低下してしまったという問題です。さらに、受注優先で下請けに丸投げしてしまうような悪質な建設会社が安値で工事を取ってしまい、工事の質の低下も見過ごせなくなってきました。
わが国には建設業者が多いため、限られたパイを巡って競争環境が厳しくなるのは当然のことです。しかし、価格のみで業者を選ぶという入札の仕組みが大きな問題を内包しているのです。入札は価格勝負であることから、質より低コストを売りにする業者がどうしても優位となり、結果として大切な社会資本の質を低下させてしまいかねません。昨今問題になっている構造計算書の偽造問題も、突き詰めれば過度のコスト削減に端を発しており、コストのみで評価をすることの危険性を示しているといえます。

4 公共工事品確法による入札制度の改革
 そこで、単に価格のみで業者を決めるのではなく、品質や技術力にも重点をおいた業者選定の仕組みに変えていく必要があるとの発想から、「公共工事品確法」が制定されました。
 本法の制定により大きく変わることが期待されているのは、単なる価格のみの入札方式ではなく、「総合評価方式」による入札の導入が促進されることです。総合評価による入札制度は会計法や地方自治法でも規定されており、一般的には入札は最安値の業者と契約しなければならないのですが、総合評価方式では価格と価格以外の評価項目をそれぞれ点数化し、総合的に判断して落札者を決定することができます。この総合評価方式により、質の低い業者が安値で入札したとしても、価格以外の品質の評価で点数を取れないことから、多少価格が高くても品質が高い業者の方が高得点を得て落札することが可能となります。
 総合評価方式による入札は、これまではPFI事業や一部の大規模な公共工事で活用されてきましたが、通常の公共工事、特に中小規模の工事にはほとんど導入されてきませんでした。しかし、公共事業品確法の施行を受け、国や各自治体では中小規模の公共工事にまで総合評価方式を取り入れる動きが出始めています。

5 総合評価方式の効果と問題点
 総合評価方式は工事の品質確保という効果以外にも大きなメリットがあります。それは、構造的に談合がしにくくなることです。単に価格だけの入札であれば、業者間で事前に入札価格を調整して落札予定者を決定し、入札参加者は入札書という紙切れ一枚に値段を書いて入札室に持っていくだけで予定通りに落札者が決まります。しかし、総合評価方式であれば、価格だけでなく様々な技術提案をする必要があり、応札することに対する手間が多く発生します。このため、落札予定者以外の負担が大きくなってしまい、受注調整がやりにくくなるのです。また、価格以外の提案の評価は第三者委員会で行われることから、業者間で決めた企業が必ず落札できるとは限りません。特に、PFI事業として実施した場合には、建設業者だけでなく、設計業者、運営業者、維持管理業者、金融機関など様々な関係者が参加することとなり、同一業界での調整を原則とする談合はかなり難しくなります。
 しかし、総合評価方式も問題点を内包しています。まず第一には、価格以外の評価をどのような基準で誰が行うかということです。一般的には、技術提案や企業の実績など、その工事を行うに際しての能力や確実性に関する評価項目が設定されます。最近では、災害時の復旧支援や地域からの資材調達など、地域社会への貢献度を評価項目に加えるなどの動きも見られます。また、評価を実施する際には、役所内部だけ評価を行うと発注者の意思により落札者を決定できてしまい、官製談合のリスクを高めてしまうこととなります。そのため、総合評価を実施するに際しては、かならず外部の学識経験者を2名以上入れた第三者委員会で客観性、透明性の高い落札者決定プロセスを経ることが義務付けられています。
 そして第二の課題は発注者の評価能力の問題です。簡単な工事に関する技術評価であれば自治体など発注者が抱える技術者で対応できますが、非常に難しい工事やPFIなど複雑なスキームの事業の評価を行う際には、発注者が技術や提案の評価をできるだけのノウハウを持ち合わせていないことがあり得ます。そのような状態で総合評価を実施してしまうと、不適切な業者を選んでしまう可能性も否定できません。このため、総合評価を実施する第三者委員会のメンバーの専門性に十分配慮することに加え、必要に応じて専門性の高いコンサルタントを評価アドバイザーとして活用することで、提案される技術レベルに対応できる評価体制を構築することも重要な視点となります。

6 発注者と受注者がWin-Winの公共事業マーケットを目指して
 公共工事品確法による総合評価方式の導入促進は、談合の防止、工事の質の確保という発注者サイドのメリットに加え、受注する建設業界にとっても一定の利益を確保しつつ自社の技術力や提案力を活かした事業展開ができるという、発注者と受注者のWin-Winの関係を実現できる仕組みといえます。価格のみの従来型入札方式に比べ、発注者にとっては審査基準作りや審査委員会の運営など手間と時間がかかり、また、必ずしも最低価格でない落札者との契約に際しては市民への説明責任が常に問われます。また、建設業者にとっても、技術提案や設計提案の手間と費用は大きな負担となります。しかしながら、一般の消費者においても、質の高いものをリーズナブルな価格で買うためには、それなりの手間をかけるのは当然のことですし、企業も良い製品を提供するためには研究開発やCS向上にコストをかけるのも同様です。
これまでの公共事業のマーケットは、官側が用意した「予算」と「仕様書」に基づいた官製マーケットであり、建設業も請負業者としてのビジネススタイルに安住してこられました。今後は、公共主導で作られるマーケットではなく、民間も創意工夫やノウハウを十分に発揮できる透明性の高いマーケットへと変えていくことが必要であり、総合評価型の入札制度の導入はその大きな契機となることが期待されます。
特に、公共事業を実施する国や地方自治体においては、「発注者責任」という問題にいよいよメスが入ってきていることを認識することが大事です。これからは受注する建設業界に加え、発注する公共側の能力とモラルも問われる時代に入ってきたのではないでしょうか。

以 上

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