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コラム「研究員のココロ」

育児休業の改正は企業にとってコスト負担になるのか

2005年05月30日 久保田 智之


はじめ

 この2005年4月に育児休業・介護休業の改正がなされた。育児休業に関する規程は就業規則に定めているところもあり、私のクライアント先でも数社就業規則の改定、育児休業規程の改定を実際に行った。


2005年の制度改定について

 今回の育児休業法改定のポイントは、次のとおりである。

1.育児休業の対象者の範囲:
期間雇用の場合でも一部育児休業の取得が認められるようになった。同一の事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者であり、かつ、子が1歳に達する日を超えて雇用が継続することが見込まれる者(所謂パート)を加える。但し、子が1歳に達する日から1年を経過する日までに雇用関係が終了することが明らかである者は除かれる。

2.育児休業の期間:
1年から事情によっては、1年6ヵ月まで延長することが可能となった。子が1歳の時点で休業している者が雇用の継続のために特に必要と認められる一定の事由がある場合については、子が1歳6ヵ月に達するまで育児休業ができるようにする。雇用保険の育児休業給付の給付期間も同様に延長する。

3.子の看護休暇の取得:
小学校就業前の子を養育する労働者が申し出た場合、年5日まで病気やけがをした子の世話をするための子の看護休暇を取得できる。(労使協定により専業主婦(夫)がいる場合等を除外できる。無給でも良い。)

育児休業普及の現状

 2002年の「女性雇用管理基本調査」によれば、育児休業取得率(出産者に占める育児休業者の比率)は、女性が64.0%と男性が0.33%となっており、女性の取得は年々増加傾向にある。ちなみに、政府が進める「次世代育成支援に関する当面の取り組み方針」による目標値は、女性80%、男性10%である。育児休業制度の規定状況(どの程度企業で定着しているか)は、61.4%が規定ありと答えている。企業規模が大きくなるに従って規定のある割合が上昇している。


問題点

 しかし、中小企業を中心にまだまだ育児休業について理解が得られていないようである。育児休業の取得者に対して、その交代要員がいる(結果として労務コストアップとなる)、実際に取得した者と育児休業を取らなかった社員とでは、同じ働きをしていると評価に差を付けたくなる、といったことが理由としてあげられる。こうした企業側の思いは、完全に払拭されてきたとはいえない。ところで、実際育児休業の導入によって企業は雇用を調整するなどの措置をどの程度とってきたのであろうか。


実証分析

 森田(2003)では、産業別のデータを使って1995年に行われた育児休業法の改正が企業側の労働需要に与えた影響(つまり、企業がどの程度女性を新規に雇用していくのか)に関する実証分析を試みている。その結果によれば、1995年の改正は、20~24歳の女性の新規労働需要を増加させる効果があったとしている。しかし、一方で育児休業制度が普及している産業ほど、30~34歳の女性の新規採用は少なくなっており、こうした産業では女性の定着率は高くなっている可能性がある、としている。


結論

 育児休業制度の定着は、労務コストの上昇にもかかわらず、20~24歳の企業の労働需要を喚起している。この意味では、制度改正による効果があったといえる。しかし現状では、年代を分けてみると30代にとっては、新規採用を抑える効果をもっているため、すべての女性労働者にとって有意な結果とはなっていない。今回の改定ではどうであろうか。あるべき論も確かに大事だが、政策効果を実証的に分析した上で、方向性を定めていく必要があると思われる。

   参考
森田陽子(2003)「育児休業法と女性労働」橘木俊昭・金子能宏編 『企業福祉の制度改革-多様な働き方へ向けて』東洋経済新報社
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