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コラム「研究員のココロ」

道州制 3つの誤解

2006年03月06日 入山泰郎


 道州制の議論が本格化している。
 首相の諮問機関である、第28次地方制度調査会は2006年2月末、現在の都道府県を廃止し、道州制を導入することが適当との答申案を小泉首相に提出した。
 道州制はここ数年、自民党と民主党がそれぞれのマニフェストで言及したり、都道府県や地方の財界などから提言が相次いだりして議論が活発化してきたが、いよいよ制度導入に向けて大きく進むことになりそうである。
 しかし、道州制はその内容がまだ余り固まっておらず、言葉だけが先行している面があるため、しばしば誤解を受けているようである。本稿では、道州制にまつわる3つの誤解を指摘しながら、道州制の本質とは何かを考えてみたい。


誤解1:道州制とは(単なる)都道府県合併である。

 都道府県の合併については、地方自治法が改正され(施行は平成17年4月と最近のことではあるが)、合併のための手続きが既に定められている。市町村合併と同様、基本的には合併する都道府県同士が協議して同意すればよい(内閣の決定と国会の承認は必要)。
 一方、地方制度調査会の答申においては、道州制は都道府県に代わって導入される仕組みであり、複数の都道府県が合わさった区域が一つの道州となることが想定されており、一見、道州制の導入は都道府県の合併と同じように見える。また、道州も都道府県も、国と市町村の間に位置する存在であり、その意味ではよく似た存在である。しかし、単なる都道府県合併なのであれば、新たな制度導入として各界で大きな議論が必要なものではない。
 道州制が導入される意義は、道州という新たな地方団体を導入することによって、国と地方の役割分担を、もっと地方が分担するように変えていくこと、つまり地方分権を本格的に実施することである。
 国からの大幅な権限移譲がなければそれは道州制ではない。現在、国の省庁の地方支分部局(○○地方整備局、○○経済産業局など、各省庁の出先機関)の権限を道州に移譲することが検討されているが、道州制の意義を矮小化しないためにも、単なる都道府県合併にとどまらない制度構築が必要である。


誤解2:道州制が導入されると、市町村の立場は相対的に弱くなる。

 現在、日本の行政制度は国-都道府県-市町村、という三層構造となっている。まん中に位置する都道府県が道州に代わり、道州が大きな権限を持つようになれば、確かに市町村の立場は弱くなると考えるのも分からなくはない。
 しかし一方で、過去百年間ほとんどその区域に変化のない都道府県と異なり、市町村の方は合併が進んでいる。2006年3月31日には、市町村数は1,821となる見込みであり、1999年3月31日の3,232より1,411団体、約44%も減少している。このいわゆる「平成の大合併」の目的は、簡単に言ってしまえば住民にもっとも身近な自治体である市町村の役割(権限)を拡大することであり、そのための体力づくりのための規模拡大であった。
 そして、市町村の規模が大きくなったことで(相対的に小さくなった)都道府県の位置付けが曖昧なものになったことが、道州制検討の背景にある。
 というよりも、市町村合併と道州制は、「地方にできることは地方に」という一大目標の下、ワンセットで導入されるものなのである。そのため、地方制度調査会の答申においても、現在の都道府県事務は大幅に市町村に移管することが示されている。
 道州制の導入に伴い、市町村の役割はますます高まる。逆に、道州制導入に伴う権限移譲を受け入れられるぐらい、市町村が強く、質の高い組織になっていることが求められているのである。


誤解3:道州制を導入すれば、日本は米国のような連邦国家(連邦制)となる。

 道州制と連邦制とは似て非なるものである。
 米国やドイツが採用している「連邦制」においては、(法に基づいて執行する)「行政権」だけではなく、法律をつくる「立法権」や、法律に基づいて裁く「司法権」を、中央政府と地方(=州政府)が分割して有することが、憲法で明記される。
 一方、「道州制」には明確な定義はないが、意図していることは行政に関する権限の地方への移譲である。つまり、連邦制は、(1)行政だけではなく立法等の権利も地方が有すること、(2)それが憲法に明記されること、の2点において道州制と異なる性質を持つ。そのため、我が国で連邦制を導入するのであれば、憲法を改正する必要がある。
 しかし、現在の日本国憲法が一度も改正されていないことが示すように、我が国では憲法改正のハードルは極めて高い。「地方にできることは地方に」という目標を達成するために憲法改正が必要な制度を導入しようと言うのは、憲法改正ができないからその目標を達成できないというのに等しい。そこで、連邦制とまでは言えないけれど、現状よりは地方分権が進む制度として「道州制」という言葉が使われているのである。

 「道州制」というと、区割りはどうなるのか、中心都市(州都)はどこにおくのか、といった点に関心が向きがちである。しかし、繰り返し述べるように、道州制は地方分権を進めるための手段である。国、道州、市町村がそれぞれどのような役割を担うべきなのか。そしてそのためにどのような権限を国から道州へ、そして都道府県から市町村へ移譲すべきなのか。道州制の本質はこうした点にこそあるのである。
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