コラム「研究員のココロ」
ブランド構築に向けた効果的な広告のチェックポイント
~マーケティング革新シリーズ(2)~
2005年05月16日 茅根 知之
1.広告を見直す視点
企業にとって、ブランド構築は重要な経営課題の1つであり、そのために多額の投資が行われている。ブランド=広告ではないが、ブランド構築投資に対する1つの指標として広告への投資額を見ると、2004年の総広告費は5兆8,571億円(電通「日本の広告費」より)に至り、企業にとって大きな投資になっていることがわかる。広告は、自分たちの商品やサービス、さらには会社そのものを伝えるために有効なツールの1つであり、顧客を始めとするステークホルダーとの接点を作り出す、重要な役割を担っている。しかし、その大きな役割や投資額にも関わらず、商品やサービスのよさが見えてこない広告、何を宣伝していたのか理解に苦しむ広告など、メッセージが伝わってこない広告は少なくない。なぜ、このようなギャップが生じているのか。
商品やサービスを販売するために、コンセプトやターゲットの設定、販売チャネルの設定など、詳細なマーケティング戦略が策定される。しかし、このマーケティング戦略が、広告を始めとするプロモーションの諸施策と一体化していないケースが多く見られる。どれだけ商品やサービスそのものが優れていても、また、マーケティング戦略が適切なものであっても、その価値をターゲットである顧客に伝えることができなければ、売上にはつながらない。
このことは、ブランド構築においても同様であり、商品やサービスのブランド、さらにはコーポレートブランドを高めるためには、ステークホルダーとの良好な関係作りが必須である。しかし、ビジョンなどのコンセプト構築に主眼が置かれてしまい、最も重要なステークホルダーとの関係作りに関する具体的な施策が抜けたブランド戦略に取り組んでいる企業は少なくない。
このように、ブランド戦略やマーケティング戦略と広告が分断されてしまう原因の1つに、広告制作がクリエイティビティの必要な業務であり、企業における多くのデスクワークとは別次元の業務として切り離されてしまっていることが挙げられる。もちろん、広告制作はプランナー、ライター、クリエイターなど様々な専門職の連携が必要になる業務であり、専門の会社と連携することが望ましい。しかし、コンセプトが正しく表現されているのか、伝わる内容になっているのか、など、大事なチェックポイントを確認することは可能であり、取り組まなければいけない。広告制作には感性が重視されることも確かであるが、戦略との一貫性を持たせるためにも、様々な観点でのチェックを行う必要がある。
2.効果的な広告のチェックポイント
ブランド構築を効果的に行うための広告に求められる要件は多岐に渡るが、以下では、特に重要になるポイントを論じた。
チェックポイント1:メッセージを注目させることができるか
注目を得ることは、広告の重要な目的の1つであり、そのために様々な工夫が行われている。しかし、その工夫が広告そのものの注目を得ることに注力されてしまい、映像や図柄は覚えているが、何の広告だったのか理解を得られないケースがある。
また、新聞広告、雑誌広告、ポスターなどであれば、読める字の大きさになっているか、ということも確認する必要がある。どれだけ印象的なコピーが書かれていたとしても、読むのに困難な小さい字では、そのメッセージは伝わらない。しかし、デザインを優先するために、説明文などは小さな字で端に寄せられてしまうことがある。もちろん、注目を得るためにデザインは重要であるが、広告の図柄だけを伝えることに意味はない。
チェックポイント2:メッセージはシンプルであり記憶に残るか
上記のチェックポイントとも関連するが、メッセージのシンプルさ、わかりやすさ、についても注意が必要になる。多くの人にとって、広告は自分とは関係のないものであり、1つ1つをじっくりと検討するものではない。彼らにはその広告を見る義務も、書いてある内容を覚える義務もない。そのような相手に、広告を見てもらい、メッセージを記憶に残してもらわなければいけないのである。
テレビ広告であれば15秒や30秒という短い時間で、また、新聞や雑誌、ポスターなども限られたスペースで、メッセージを伝えなければならない。しかし、ここに可能な限り多くのメッセージを詰め込むことは間違いである。シンプルなメッセージでなければ、受け手の記憶にメッセージを残すことは難しい。長いメッセージ、難解なメッセージ、覚えにくいメッセージは、一所懸命に理解しようとする相手とのコミュニケーションでのみ成り立つものである。広告では可能な限りシンプルに、そして、わかりやすいメッセージであることが求められる。
チェックポイント3:メッセージに一貫性はあるか
ブランドは、ステークホルダーの様々な経験により蓄積されたイメージによって構築されるものであり、広告だけではなく、広報活動やプロモーション、さらには営業活動などを含めた、全ての企業活動で一貫性を持ったメッセージを発信することが求められる。メッセージを繰り返すことで、さらには、様々な経験を提供することで、受け手にイメージの断片が蓄積されていく。強固なブランドを作り出すためには、これらの経験やイメージをつなぎ合わせ、商品・サービスから広告・広報・プロモーションなどのコミュニケーション活動まで、全ての企業活動に一貫性を持たせることが重要になる。
3.受け手の視点を持つこと
本稿で紹介したチェックポイント以外にも、企業の業態や規模、商品やサービスの種類などによって、様々なチェックポイントが存在する。そして、この全てに共通することは「受け手の視点を持つこと」である。
広告を出す側の人たちは、広告を見る人たちよりも、商品やサービスの詳細や企業概要など、はるかに多くの情報を知っている。自分たちの常識を前提としたメッセージでは、受け手の理解も共感も得ることはできない。受け手の視点でメッセージを見直して、相手がわかる内容に翻訳することが必要である。
企業活動において顧客や株主などのステークホルダーが、どのようなことに興味があり、何を知りたいのか、何を求めているのか、を知ることは必須である。相手を知ること、そして相手にわかるメッセージで伝えること。これこそが、コミュニケーションの基本であり、伝わる広告のチェックポイントである。