コラム「研究員のココロ」
飲食店・小売店の顧客満足度向上を目指して(その3)
2006年02月27日 佐藤邦明
1.モニター調査
本シリーズも今回で3回目となりますが(その1:2004年9月21日、その2:2005年4月4日)、今回は筆者が実際にコンサルティングを行っている企業で継続的に実施し、接遇水準の向上に役立っている事例をご紹介いたします。
本シリーズ(その1)で、接遇技術を向上させるための手段として「接遇研修」と 「モニター調査」が有効であることを申し上げました。中でも「モニター調査」は「接遇研修」で身に着けた技術が有効に活用されているかどうかを他人の目で確認し、またその結果をフィードバックすることにより不十分だった点を改善させるための手段として、最近活用する企業が増加しております。(「ミステリーショッパー」調査と呼ばれています)
筆者のお邪魔している企業(以下A社と呼びます)でも、4年ほど前からモニター調査を導入し、接遇の改善に努めておられますが、実施の目的や方法が通常のモニター調査とは異なり、より教育色の強いものとなっております。そのおかげで、ほぼ同時期に開始した顧客アンケートによる「接客満足度」の「非常に満足」と「満足」が占める割合は、当初の47%から77%まで上昇しており、その間、来店客数も一貫して増加しております。
2.接遇コンテスト
A社はモニター調査を「他社との差別化を図るための接遇教育」の一環と位置づけております。つまり当社においては、調査の結果云々より、モニター調査を機会に各店が接遇水準向上に「意識的に取り組む」ということに重点が置かれています。
それは当社のモニター調査が接遇の弱点調査(「あら探し」)ではなく、あくまでも「接遇水準」の高さを競うイベントであることを明確にするため、「モニター調査」「ミステリーショッパー」と言った名称を避け、「接遇コンテスト」と銘打っていることにも表れています。コンテストですから、当然のことながら優秀店には賞金が出ますし、全店長会でも表彰されます。
コンテストは、接遇の「あら探し」ではありませんので、実施時期や着目する点、点数配分など全て事前に公表した上で実施されます。ただし、実施期間中は従業員の緊張感を保ち、接遇水準の向上を一過性のものとしないように、店側にはコンテストの実施日(つまり調査員の訪問日)は明確にせず、「○月中に別々の人が3回訪問します」とだけ伝えられます。
3.コンテストの評価方法
当社の接遇コンテストは教育効果を高めるために、評価方法にも工夫がなされています。一般的に行われているモニター調査の場合、例えば評価項目が20個あったとすると、各項目に対する点数配分はそれぞれ5点づつとなり、合計100点満点で評価するのが普通です。そして当社の場合も最初の頃はそのような評価方法を採っておりましたが、何回かコンテストを重ねている内に、各店で毎回決まって評価の悪い項目がいくつかあることがわかってきました。
そこで、他社との差別化を一層図るためには苦手項目を克服していかなければならないということになり、評価の悪い項目でなおかつA社として特に他社と差別化を図っていきたい項目については、点数を傾斜配分しようということになりました。つまり、今まで通りの評価では従来の点数の半分ぐらいにしかならないようにし、意識して弱点を克服させるようにしたわけです。
結果、接遇コンテストに入賞する店がない時期が何回が続き、その都度店に対する指導が行われましたが、最近はその効果が出始め、改善が顕著になってきています。
4.実施頻度と検証手段
コンテストの実施頻度は、あまり頻繁にやるとイベントとしての緊張感や遊び心が薄れることから、4ヶ月に1度(つまり年に3回)程度としており、コンテストとコンテストの間には「顧客アンケート調査」を入れることにしています。つまり、コンテストで発揮された接遇水準が本物であるかどうかお客様に評価していただく機会を設けているわけです。
店にとっては、コンテストで培った接遇水準が落ちないように努力するための歯止めとなり、本部にとっては、その店のコンテストの成績が本物であったのかどうかを検証するための手段となります。また、お客様の意見はコンテストで気づかなかった接遇の弱点などを把握する材料となります。
5.モニター調査運営に関する留意点
以上、A社のモニター調査の特徴について述べてまいりましたが、最後に運営上の留意点について感じたことをいくつか述べておきたいと思います。(反省点です)
まずひとつめは、1回のモニター調査における訪問回数についてです。A社の接遇コンテストの場合は、平日と週末を含め月3回訪問をルールとしましたが、これは店の規模(従業員数5~6名)や調査費用、モニターの負担等を考えてこの回数としたわけで、本来は週1回ぐらいのペースでの訪問が必要ではないかと考えております。つまり、1回の訪問で調査できる接客者の数は限られるため、店全体としての接遇レベルを把握するためには相応の回数が必要だということです。
ふたつめは、モニターの選定方法についてです。A社の場合は、(1)接客についてある程度知識や経験があること、(2)従業員に顔を知られていないこと、(3)調査費用があまりかからないことを条件に選定を行い、結局役員の奥様や家族の方に手伝ってもらうことになりました。また、訪問負担軽減を図るためモニターは3名選任し、1店当たり3回の訪問はそれぞれ別の人に行ってもらうことにしました。
この方法は、費用負担の面では非常に助かりましたが、結果的に1人の人は1店あたり1回しか訪問できなかったため、同じ店でもその時の接客者によって評価が大きく異なる、接客者が同じでもモニターによって評価に甘辛がある、と言った予想された不具合が発生しました。その後、モニターと評価基準に関する打ち合わせを重ねた結果、この不具合はある程度解消できましたが、評価が公平であることを従業員に納得させるためには、店舗数がそれほど多くなく(10店舗程度)かつ地域的に集中しているA社のような場合は、少なくとも1回の調査で選任するモニターは1名であること、同じモニターが同じ基準で全ての店を規定回数訪問することが必要だと思われました。